鉄と鋼
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論文
MgO-C反応挙動に及ぼす,温度,およびれんが中カーボン濃度の影響
日野 雄太 高橋 克則
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2023 年 109 巻 1 号 p. 13-24

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Abstract

The effects of the ambient temperature, gas flow rate and carbon content in the brick on the behaviour of the MgO-C reaction, which is an inherent phenomenon of MgO-C bricks, were investigated. As a result, the amount of the MgO-C reaction increased as the carbon content in the brick and the temperature increased, but was not significantly changed by increasing the gas flow rate. The apparent activation energies for the following reactions were determined from the results of this study and the results of previous reports.

CO (g) + MgO (s) = Mg (g) + CO2 (g) E = 348 kJ/mol

CO2 (g) + C (s) = 2CO (g) E = 296 kJ/mol

A new MgO-C reaction model was developed based on the shrinkage core model in order to discuss the effects of the temperature and carbon content in the brick quantitatively. The reaction model in this study could explain not only the results of the present study but also the results reported previously by other researchers. In addition, the effect of the particle diameters of MgO and carbon on theMgO-C reaction is also discussed using the reaction model proposed in this study.

1. 緒言

MgO-Cれんがは,マグネシア(粗粒,微粉),鱗状黒鉛を主な原料とし,バインダーとしてフェノールレジンを添加した不焼成れんがである。これらの原料を混練,成形し,所定時間熱処理を実施する。このプロセスで製造されるMgO-Cれんがは製銑や製鋼設備で広く使用される。例えば,製鋼工程の主要設備である転炉のWearれんがとして使用される14)。Wear内張りれんがは使用回数の増加とともに様々な種類の損傷が生じるが,その理由は高温の溶鋼や高温の雰囲気にさらされるためである。Wear耐火物の寿命は損傷度合いによって決定され,耐火物寿命が低下するにつれて耐火物消費量は増加し,生産コストが増加する。その一方でマグネシアや黒鉛などの原料資源は有限であり,無尽蔵ではなく,れんが寿命の改善は鉄鋼生産プロセスの経済性と同様に資源保護の観点からも非常に重要な課題である5,6)

一般的に耐火物の損傷形態には熱スポーリングや機械的スポーリングなどの機械的要因の他に,スラグ/耐火物間反応やガスと耐火物の反応などといった化学的要因があげられる。特に,MgOとれんが中の炭素との反応であるMgO-C反応が還元性あるいは不活性ガス雰囲気中で生じることが知られている7,8)。この反応が起こると,れんが中の空孔の数が増えてれんがの微細構造が悪化する。これが炉寿命の低下をもたらすため,耐火物の耐久性を改善するためにMgO-C反応を制御することが重要である。

これまで,MgO-C反応挙動に関する多数の研究が報告されている914)。Ishibashiら11)はMgOや黒鉛の純度などの原材料の等級がMgO-C反応の挙動に及ぼす影響を調査している。また,Nameishiら12)はVODやRHで想定される高真空雰囲気(0.1-0.4Torr)で熱天秤を使うことによってMgO-C反応の挙動を調査した。彼らはMgO-C反応が1573 K以上の温度で顕著になり,焼結MgO使用時のMgO-C反応は電融MgO使用時に比べて加速されることを報告している。また,Tabataら13)も減圧下でのMgO-C反応に関して,カーボン濃度,MgO粒度を変化させて,反応量を評価している。JanssonらはMgO-5.5%CれんがのAr,COなど各種雰囲気中での反応挙動を検討している14)

これらの例が示唆するように,MgO反応に影響を与える因子としては,MgOの骨材純度,添加剤,黒鉛含有量,黒鉛純度,雰囲気,およびガス圧力などが挙げられる。しかしながら,従来の報告例はこれらの因子の影響を全て説明できるまでには至っておらず,MgO-C反応に及ぼすこれらの効果を説明する包括的な反応モデルの構築が望まれる。そこで,本研究では,MgO-C反応の反応速度に及ぼす温度,れんが中カーボン濃度の影響を調査し,これらの要因の影響を定量的に説明可能な新たな反応モデルを提案することにより反応機構を検討した。

2. 実験方法

実験装置の概略図をFig.1に示す。横型の管状炉(電気抵抗加熱装置)を適用した。この加熱炉は炉中央部に約60 mmの均熱帯(実験温度の±5°Cの範囲と定義)を有する。炉の両端は水冷のチャンバー(試料を移動させるためのRod,ガス導入孔,および,ガス排出孔を有する)で密閉されている。

Fig. 1.

Schematic illustration of experimental apparatus. (Online version in color.)

実験方法を以下に示す。(1)耐火物サンプルを低温である炉の一端に設置する。アルゴンガスを炉内に導入して炉内雰囲気をアルゴンガスで置換し,昇温速度0.83 K/s(1473 K以上では0.03 K/s)で加熱する。(2)実験の目標温度まで加熱した後,Rodを用いて炉端部から炉中心部へ速やかに(ほぼ瞬時に)移動させ,所定時間保持した。(3)所定時間経過後,Rodを用いてサンプルを他端まで速やかに移動させた。(4)その後不活性雰囲気中でサンプルを急冷した。加熱前後のサンプル重量を測定し,反応率を式(1)のように定義して,それぞれの条件での反応率を比較評価した。

  
(1)

実験条件をTable 1に示す。実験に用いたサンプルは焼結MgO(骨材,微粉とも品位:98.5%)を用い,カーボン源には鱗状黒鉛(品位:99%)を用いた。一般的にMgO-C耐火物は骨材と呼ばれる1 mm以上の粒子と1 mm未満の微粉,黒鉛,バインダーより構成される。今回のサンプルに適用された耐火物は骨材の割合がいずれも40 mass%であり,平均粒径は0.28 mmと算出された。ここで,平均粒径は本研究ではすべての粒子が反応に関与すると仮定し,その反応界面積を考慮することで算出した。一方,カーボンの平均粒径も同様に計算し,その平均粒径は0.20 mmであった。

Table 1. Experimental conditions.
Sample conditions Bricks MgO-10%C MgO-15%C MgO-20%C
Ratio of MgO aggregates(*1) (%) 40%
Average particle diameter of MgO(*2) (φ mm) 0.28
Average particle diameter of carbon(*2) (φ mm) 0.20
Carbon content in brick 10 mass% 15 mass% 20 mass%
Apparent porosity 8.07% 8.60% 9.69%
Shape (mm) 20 × 20 × 20
Pretreatment 1 623K with a holding time of 3 hours in a coke-filled atmosphere
Experimental conditions Temperature 1673K - 1823K
Heating rate (K/s) 0.083 (−1673K) 0.03 (1673K−)
Atmosphere Ar
Gas flow rate (105 Nm3/s) 0.30 − 5.83
Holding time (s) 0 − 10800

*1Aggregates of MgO whose diameter is over 1 mm

*2Derivation by assuming similarity of interfacial area

通常,MgO-Cれんがのような炭素含有耐火物でバインダーとしてフェノールレジンを用いるのは,この種のバインダーが一連の望ましい特性,すなわち,良混錬性や良分散性,良付着性,プレス後の高い素地強度,乾燥した成型体の低膨張性,強固なカーボンボンドの形成,を提供するためである15)。本研究でも,同じ理由でバインダーにはフェノールレジンを用いた。サンプルれんがは,MgO:C=(100-x):x(ここでx=10,15,または,20 mass%)の比率で原料を配合して用意した。混合したパウダーを鉄製のダイスに装入し,フリクションプレスで標準サイズ,すなわち,114 mm幅,65 mm高さ,230 mm長さのれんがサンプルを成形した。成形後,このれんがを小さい20 mm×20 mm×20 mmの寸法の立方体サンプルに切断し,試験前に1623 KのCO雰囲気中で3時間熱処理した。これはフェノールレジンバインダー中に含まれる揮発分の影響を除去し,加熱中のれんが内炭素の酸化を防止し,さらに実機製鋼炉内部の条件を模擬するためである。この熱処理を施したサンプルを実験に適用した。実験で保持した雰囲気温度は1673 K,1773 Kと1823 Kである。保持時間は0 sから10800 sの範囲で変化させ,Arガス(純度99.99%)の流量は,Arガス流量は0.3×10-5 Nm3/s~5.83×10-5 Nm3/sの範囲で変化させた。

3. 実験結果

3・1 MgO-C反応の基本的反応挙動,および反応速度に及ぼすカーボン濃度の影響

Fig.2に代表的な例として,実験前後のMgO-20%Cれんがの表面SEM写真を示す。実験前ではMgOの間に存在したグラファイトが実験後には観察されず,また,耐火物の表面に多くのの気孔が観察された。また,Fig.3に実験後のMgO-20%CれんがのX線CT像を示す。耐火物内部の気孔の存在(黒い点および領域)が観察された。

Fig. 2.

SEM images of sample before and after experiment.

Fig. 3.

X-ray CT scan image of MgO-20%C brick after experiment.

Fig.4に本研究における実験の代表的な結果としてMgO-Cレンガの重量減少率の経時変化を示す。ここで,実験結果から保持時間0 sでの重量減少率を引くことにより重量減少率の実質的な値を表すことにした。

Fig. 4.

Change of weight loss ratio of MgO-C bricks with time. (Online version in color.)

Fig.4より,重量減少率は実験初期に大きく増加したが,時間の経過とともに増加率は徐々に停滞していった。実験時間を3hで一定としたときの重量減少率とれんが中カーボン濃度との関係をFig.5に示す。Fig.5より,カーボン濃度の増加とともに重量減少率が増加する傾向がみられた。しかし,MgO-15%CとMgO-10%Cれんがの重量減少率の差はさほど大きくはなかった。

Fig. 5.

Relationship between weight loss ratio and carbon content in brick. (Online version in color.)

3・2 MgO-C反応の速度に及ぼす温度とガス流量の影響

Fig.6には,MgO-20%Cれんがの重量減少率と温度の関係を示す。保持時間は3600 sとし,Arガス流量は8.3×10-6 Nm3/sとした。1673 Kでは重量減少率は1%以下であったが,1773 Kより高温では重量減少率は増大した。Fig.7には1773 KにおけるMgO-15%Cれんがの場合のMgO-C重量減少率とArガス流量の関係を示す。図より,ガス流量が増加しても反応率は増加せず大まかにほぼ同等と考えることができる。ここで,高ガス流量側で若干重量減少率が高位のように見える。これはArガス中に含まれる不純物(O2,H2O)によるグラファイトの直接酸化によるものと推定される。以上の結果を用いて,MgO-C反応の機構について検討した。

Fig. 6.

Relationship between weight loss ratio and temperature. (Online version in color.)

Fig. 7.

Relationship between weight loss ratio and gas flow rate. (Online version in color.)

4. 速度論的反応モデルによる検討

4・1 反応モデルの概要,概念および仮定

MgO-C反応の反応式を式(2)に示す。

  
M g O ( s ) + C ( s ) = C O ( g ) + M g ( g ) (2)

MgO-C反応の反応機構については,れんが中カーボンの直接酸化反応1618)に比べると,必ずしも多くないものの,いくつか報告例が開示されている。Leonards and Herron10)はMgO-C反応機構として,1. MgOの化学的な分解,2. 酸素のカーボン表面での吸着,3. カーボン表面でのCOガス生成,4. COガスによるMgOの還元進行という一連のメカニズムを提案した。彼らはCO発生が律速段階と報告している。Tabataら13)は減圧下でのMgO-C反応挙動を異なるカーボン濃度,MgO粒度分布で調査し,界面化学反応と気相側物質移動が律速過程であると仮定した反応モデルを示すことにより反応機構を検討した。彼らの検討によれば,MgO-C反応は反応初期(開始後20分程度まで)では界面化学反応律速,その後は気相側物質移動律速に移行すると説明している。これらのような従来報告されている反応モデルでは,MgO-C反応に及ぼす温度やれんが中カーボン濃度,構成粒子の平均粒径など各種要因の影響を数学的かつ定量的に説明することは困難であったため,MgO-C反応に及ぼす各種要因の影響を考慮した反応モデルを構築する必要がある。ここで,これまでの報告例8),およびFig.3をみると,MgO-C反応後の耐火物内部組織はMgO骨材とカーボン粒子マトリックスとの間に多くの隙間が観察された。これらの現象は反応によりMgO,カーボンの粒子径も低下した結果と推定される。

以上までの検討から,反応はMgO,およびGraphite粒子表面において発生し,未反応層,すなわち残存MgO,Graphiteの径(粒子が球形と仮定した場合)が低下していきながら反応が進行していると考えられる。そこで,今回,MgO-C反応挙動を総合的に検討するために,MgO-Cれんがを構成する固体MgO,Graphiteおよび気相間の反応を取り扱い,反応の進行による粒子径の低下を考慮するモデルとして,Shrinkage core model1923)に着目した。Srinkage core modelにはバルク反応の構成粒子を未反応核としてみなすモデルも存在する。今回は耐火物を構成するMgOとGraphiteにShrinkage core modelを適用して反応速度を解析し,それぞれの粒子の減少量から総合的な反応量を求めるMgO-C反応モデルの構築を行った19)

今回検討した未反応核モデルの概念図をFig.8に示す。従来の未反応核モデルは未反応核の周りに生成物層が存在するが,今回のMgO-C反応の場合,反応生成物が気相であるため,今回は単純に未反応核径が粒径に等しいとした。MgO,カーボンともに粒子は球形とした。

Fig. 8.

Schematic diagram of shrinkage core model. (Online version in color.)

一般に,MgO-C反応はカーボンによるMgOの直接還元反応と考えられているが,この反応は次の二つの反応式,すなわち,COガスによるMgOの還元とCO2によるカーボンの酸化,に分類され式(3)(4)で示される。

  
C O ( g ) + M g O ( s ) = M g ( g ) + C O 2 ( g ) (3)
  
C O 2 ( g ) + C ( s ) = 2 C O ( g ) (4)

Rongtiら24,25)はカーボンによるMgO粉の還元挙動を調査し,還元反応は式(3)(4)の反応がメインで起こっていると報告している。また,Ishibashiら11)はCO雰囲気の時にMgO-C反応が促進したと報告している。ここで仮に,式(2)に示される固体カーボンによるMgOの直接還元が主な反応だとすると,ル・シャトリエの法則からCO雰囲気では反応は抑制される。Ishibashiらの結果はCOガスによる還元が起こりうることを示唆している。よって,以上から今回のモデルも,Rongtiらの考察と同様に式(3)(4)の反応が起こると考えた。

次に,反応の律速段階について,検討を行った。式(3)式(4)の反応の素過程を以下に示す。ここで,“バルク”とは本研究では耐火物内部の気孔と定義する。

1)バルクから反応境界層へのCOガスの物質移動

2)界面における式(3)の化学反応

3)反応境界層からバルクへのMgガスの物質移動

4)反応境界層からバルクへのCO2ガスの物質移動

5)バルクから反応境界層へのCO2ガスの物質移動

6)界面における式(4)の化学反応

7)反応境界層からバルクへのCOガスの物質移動

本実験結果の中で,Fig.6では反応挙動に及ぼす温度の影響は大きかった。この結果より,上記の2)と6)で記述されるガス層の拡散または化学反応が律速段階とみなせると考えられる。ここで仮に,重量減少率の温度依存性がMgO-Cれんがの気孔中のガスの拡散によるものと考えると,温度変化時の重量減少率の差はガスの拡散係数値の温度依存性の差に相当すると考えられる。Uedaら26)による報告の中では,温度変化にともなう拡散係数の変化は以下の式で与えられている。

  
D = D 0 ( T T 0 ) 1.75 P 0 P (5)

ここで,D,T,Pはそれぞれガスの拡散係数,温度,圧力を意味する。また,添え字(0)は標準状態(273 K,1atm)を表す。雰囲気圧力の変化が無視できると仮定し,温度が1673 Kから1823 Kに変化した場合の拡散係数の増加の度合いは式(5)から1.16倍と推定された。一方,Fig.6の結果より1673 K から1823 Kに温度が変化した時の反応率の増加率は22.9倍と計算され,はるかに大きい。このことから重量減少率の温度依存性に及ぼす拡散の影響は小さいと考えられる。

ここで,仮に,反応系,あるいは生成系ガスの物質移動がTabataらにあるように律速段階と仮定すると,MgO,Graphite粒の表面近傍に,反応境界層(Boundary layer)が存在し,バルクと反応界面での濃度勾配が反応の駆動力となる。このとき,バルクでのCO,CO2濃度は反応界面のそれよりも低くなると考えられる。したがって,1),4),5)の過程で示されるCO,CO2の拡散は起こり得ないと推定される。また,式(4)の反応が起こると,バルクよりも反応界面でのガスの圧力が高くなり,1),5)の過程は起こりにくくなることが推定される。さらに,Fig.7の結果より,明らかな反応挙動のガス流量依存性は確認できなかった。以上までの検討から,1),3),4),5),7)の過程に記したガス側の物質移動が律速段階とは考えにくい。よって,本研究の式(3)(4)の反応の律速段階は,反応界面での化学反応と考え,以降解析を行った。

4・2 反応速度式

4・2・1 MgOの還元反応

式(3)の反応によるMgO粒子の粒子径減少速度を考える。反応に伴うマスバランス(反応に伴うモル数の変化=反応による生成量)を考慮すると式(6)になる。

  
Δ n M g O = 4 3 π r M g 3 C M g O | t + Δ t 4 3 π r M g 3 C M g O | t = γ M g O V M g Δ t (6)

ここで,γMgOはMgO粒子の反応速度(mol/m3/s),VMgは未反応核の体積(m3),CMgOはMgOのモル数(Mol/m3),rMgはMgO粒子半径(m)を表す。式(6)を展開すると,式(7)を得ることができ,更に展開すると式(8)が得られる。

  
d d t ( 4 3 π r M g 3 C M g O ) = γ M g O V M g (7)
  
4 π r M g 2 C M g O d r M g d t = γ M g O V M g (8)

未反応核表面での反応速度は,律速段階に関する先述の仮定にしたがって素過程ごとに定式化した。界面化学反応が律速段階の場合,反応速度は式(9)で表せる。

  
γ M g O = 4 π r M g 2 V M g ( k M g a M g O P C O k M g ' P M g P C O 2 ) (9)

と表される。ここで,PCO2,PMgはCO2,Mgガスの分圧(atm)を示し,MgOの活量であるaMgOは本研究では1とみなした。MgとCOの溶解度積が小さいと仮定すると,PMgPCO2の項は無視でき,式(9)式(10)に置き換えることができる。更に式(3)の反応がCO分圧の影響を受けると言うIshibashiらの報告結果から,式(8)の右辺第2項は無視することが出来,式(10)のように表される。

  
γ M g O = 4 π r M g 2 V M g k M g a M g O P C O * 4 π r M g 2 V M g k M g P C O (10)

ここで,kMg式(3)の化学反応速度定数(m/s)である。式(10)式(8)に代入し,それを積分すると,式(11)が得られる。ここで,RMgOは初期MgO粒子半径(m)を示す。

  
r M g O = R M g O P C O C M g O k M g t (11)

ここで,耐火物試料内のMgOの個数はRMgOと密度ρ(kg/m3),初期試料のWMgO (initial)(kg)を用いて表すことができる。

  
W M g O ( i n i t i a l ) = N ρ M g O 4 3 π R M g O 3 (12)

よって,時間がΔt(s)だけ経過した時のMgOの重量減少変化は式(13)で計算される。

  
Δ W M g O = N ρ M g O C M g O 4 3 π ( r M g O 3 | t + Δ t r M g O 3 | t ) = W M g O ( i n i t i a l ) R M g O 3 C M g O 4 3 π ( r M g O 3 | t + Δ t r M g O 3 | t ) (13)

式(11)式(13)を連立させて解くことにより,所定時間経過後のMgOの累積重量減少変化が計算される。

4・2・2 カーボンの酸化反応

カーボン粒子の粒子径減少速度もMgOの場合と同様に考えることができる。反応に伴うマスバランスの変化(反応に伴うモル数の変化=反応による生成量)を考慮すると,式(14)が得られる。

  
4 π r C 2 C C d r C d t = γ C V C (14)

ここで,γCはカーボンの反応速度(mol/m3/s),Vcは未反応核の体積(m3),CCはカーボンのモル数(mol/m3),rCはカーボン粒子半径(m)を表す。

カーボンの反応速度は式(3)の反応と同様に定式化される。化学反応が律速段階の場合,反応速度は式(15)で表される。

  
γ C = 4 π r C 2 V C ( k C a C P C O 2 k C ' P C O 2 ) (15)

ここで,kC式(4)の速度定数(m/s),aCはカーボンの活量であり,本研究では1とみなした。MgOの場合と同様に整理すると式(16)が得られる。

  
γ C = 4 π r C 2 V C k C ( P C O 2 P C O 2 k C ) (16)

ここで,kC式(4)の平衡定数であり,式(17)で示される27)

  
l o g K C = 20557 T + 0.113 (17)

式(16)式(14)に代入し,それを積分すると,式(18)が得られる。ここで,RCは初期カーボン粒子半径(m)を示す。

  
r C = R C 1 C C k C ( P C O 2 P C O 2 k C ) t (18)

よって,時間がΔt(s)だけ経過した時のカーボンの重量減少変化は式(19)で示されるように計算される。

  
Δ W C = W C ( i n i t i a l ) R C 3 C C ( r C 3 | t + Δ t r C 3 | t ) (19)

式(18)式(19)を連立させて解くことにより,所定時間経過後のカーボンの重量変化が計算される。ここで,

  
W C ( i n i t i a l ) = N ρ C 4 3 π R C 3 (20)

である。最終的にMgO-Cれんがの総重量減少変化は式(21)に示されるように計算される。

  
Δ W b r i c k = Δ W M g O + Δ W C (21)

4・3 反応速度定数の決定

反応モデルによる重量減少率計算を実行するにあたり,未知数である式(3)(4)で示される反応の反応速度定数を決定した。これらの係数値は本研究結果,およびこれまでの報告例から引用したデータを用い,パラメーターフィッティングによって決定し,定式化した。

一般的に反応速度定数の温度依存性は式(22)に示されるようにArrheniusの式の形で整理される28)。ここで,Eは見かけの活性化エネルギー(J/mol)である。

  
ln k M g , C = ln k 0 E R T (22)

化学反応速度定数kMgkcは,Fig.4に示される実験結果を用い,これらの値をフィッティングパラメーターとして変化させることにより決定した。この方法で得た化学反応速度定数に基づいてMgO-C反応挙動に及ぼす温度の影響を議論した。Figs.9,10kMgkcのアレニウス・プロットをそれぞれ示している。また,これらの図には,Tabataら,Ishibashiらの実験結果を用いて,得られた化学反応速度定数kMgkcの値もあわせて示す。Figs.9,10から,各プロットの傾きに相当する温度依存性,すなわち,本研究での見かけの活性化エネルギーは他の報告での値に類似していた。また,式(4)の反応速度定数の場合,各種報告値の温度依存性はMgOの場合と同様に大略同等に見える。これらの結果から反応(3),(4)のみかけの活性化エネルギーを回帰線から決定した。反応(3),(4)の見かけの活性化エネルギーの値はそれぞれ348 kJ/molと296 kJ/molであった。また,比較として,Tabataらによる値は369 kJ/molと307 kJ/monであり,Ishibashiらの報告値は418 kJ/molと278 kJ/molであった。このように,本研究での値は過去に報告された値に近く,Carnigliaが計算した不活性ガス雰囲気下でのMgO-C反応の活性化エネルギーの理論値(317 kJ/mol)29)やRongtiらの報告値(374 kJ/mol)にも近かった24)。今回得られた値は両者とも近い値であった。更に,式(3)(4)のみかけの活性化エネルギーについてはそれぞれ470 kJ/mol,180 kJ/molと報告されている30)。しかしながら,本研究で得た反応(3)の見かけの活性化エネルギーは報告値(470 kJ/mol)30)よりいくらか低く,反応(4)に対する値は絶対値として,報告値(180 kJ/mol)30)よりは高かった。

Fig. 9.

Arrhenius plots of kMg. (Online version in color.)

Fig. 10.

Arrhenius plots of kc. (Online version in color.)

以上までの検討から,本反応モデル中の化学反応速度定数は次式で表せる。パラメータk0ETable 2に示す。

  
k = k 0 e x p ( E R T ) (23)
Table 2. Values of parameters kMg, kc and E.
kMg kc
Constant k0 (mol/m2/s/atm) 483360 29502
Apparent activation energy E (kJ/mol) 348 296

4・4 計算結果

上記の検討結果をもとにした反応モデルに本研究の実験条件を適用して計算を行い,計算結果と実験結果の整合性,すなわち反応機構の妥当性を検討した。MgO,カーボンの粒子径は先述の通り,反応界面積を考慮した平均粒径を用いた。時間0 sec(実験直前を含む)では,カーボンの直接酸化反応が起こると仮定し,式(2)で表現されるカーボンの直接酸化が起こると仮定し,式(24)で示されるGibb'sの自由エネルギー変化からCO分圧を求めた。計算手順を以下に示す。実験中の反応量はMgO,カーボンの重量減少量を式(13)(20)(21)を用いて計算し,同時に発生ガス量,分圧を,それらが化学量論にしたがうと仮定して計算した。得られた発生ガス分圧を用いて,時間Δt経過後のMgO,カーボンの反応量を計算した。以上のサイクルを所定時間経過するまで繰り返し計算した。

  
Δ G ( 2 ) ° = 818808 + 30.84 T log T 578.84 T ( J ) (24)

Fig.11にMgO-Cれんが重量変化率の経時変化に関して実験結果と計算結果との比較を示す。また,10800 s経過時の重量減少率とれんが中カーボン濃度の関係を計算値と実験値を比較してFig.12に示す。いずれの図も計算結果と実験結果はほぼ一致し,MgO-C反応挙動に及ぼすれんが中カーボン濃度の影響を本モデルの計算で再現できた。また,モデル計算の結果から,カーボン濃度10 wt%以下のMgO-Cれんがでは,一定経過時間後の重量減少率の差が小さくなることが予想された。すなわち,低カーボン濃度のMgO-Cれんがでは重量減少率は停滞する。

Fig. 11.

Comparison of experimental results and calculation results for change of weight loss ratio of MgO-C bricks. (Online version in color.)

Fig. 12.

Relationship between weight loss ratio of MgO-C sample and carbon content in brick. (Online version in color.)

Fig.13にはMgO-C反応挙動に及ぼす温度の影響に関して,計算結果と実験結果の比較を示す。高温側での実験結果と計算結果に若干の差があるものの,全体的な傾向として,MgO-C反応挙動に及ぼす温度の影響は大略再現できた。

Fig. 13.

Comparison of experimental results and calculation results for effect of temperature on MgO-C reaction behaviour. (Online version in color.)

次に,このモデルを過去に報告された別の結果に適用した。Ishibashiらが用いた実験条件を本モデルに適用したときの重量減少率の温度依存性に関する計算結果をIshibashiらが報告した実験結果と比較したものをFig.14に示す。既に述べたように,本モデルは物質移動係数に及ぼす温度の影響を考慮していないが,それにもかかわらず,計算結果は実験結果とほぼ一致した。

Fig. 14.

Comparison of actual experimental results and calculation results when experimental conditions of Ishibashi et al.12) were applied to proposed model. (Online version in color.)

Janssonら14)はMgO-5.5%Cれんがの不活性雰囲気(Ar)中でのMgO-C反応挙動を調査した。Janssonらの実験結果に対しても,本反応モデルを適用したが,Janssonらのサンプル作成条件(773 Kでの熱処理)ではバインダー揮発分除去は十分でない可能性が考えられた3133)。彼らの1173 K以下で行った実験結果からバインダーの揮発分を見積もり,その分を差し引くという補正を加えた。これらの修正したデータを提案したモデルによる計算結果と比較した。彼らの結果に本モデルを適用した結果をFig.15に示す。計算結果は修正した結果に近く,本反応モデルによって彼らの実験結果を説明することができた。

Fig. 15.

Comparison of actual experimental results and calculation results when experimental conditions of Jansson et al.10) were applied to proposed model. (Online version in color.)

以上までのシミュレーション結果から,Shrinkage core modelをベースとして本研究にて構築した反応モデルの適用により,MgO-C反応挙動に及ぼす温度,ガス流量,れんが中カーボン濃度の影響を定量的に説明し,反応挙動を予測することが出来た。更に,本反応モデルを適用することでこれまでに他の研究者らによって報告されたいくつかのMgO-Cの反応挙動を説明することができた。

4・5 反応モデルを用いた検討

本モデルを用いてMgO-C反応挙動に及ぼすMgO,graphite粒子径の影響をシミュレーションした。Fig.16に本反応モデルを用いて,MgOの平均粒子径が変化したときのMgO-Cれんがの重量減少率,すなわち,反応率の計算結果を示す。前提条件として,れんが中カーボン濃度は20 mass%,温度は1873 K,保持時間は3600 sec,平均カーボン粒子径は0.2 mmとした。このシミュレーションから,反応率はMgOの平均粒子径に大きく依存し,粒子径が細かくなるほど,反応率は増大すると予想された。

Fig. 16.

Predicted reaction ratio as function of average particle diameter of MgO. (Online version in color.)

一方,Fig.17にはカーボン粒子径を変化させたときの反応率の計算結果を示す。傾向の差を分かりやすく示すために前提条件として,違いを明確にするためにれんが中カーボン濃度を20 mass%と仮定し,温度は1873 K,保持時間は3600 secとした。また,平均MgO粒子径は0.28 mmで計算を行った。図より,MgO-C反応に及ぼすカーボン粒子径の影響はMgO粒子径のときほど顕著ではなかった。例えば,粒径1 mmの粗大なカーボンから0.01 mm程度の微細なカーボン源に変更したとしても,反応率の上昇は最大で数パーセント(4%)である。本モデルはMgO-C反応に及ぼすMgOおよびカーボンの粒径の影響を定量的に説明することが可能である。これらの図から,MgO-C反応率に及ぼすMgO粒径の影響はカーボン粒径の影響よりも比較的大きいことが予想される。特に,MgO-C反応を抑制するにはMgOの平均粒子径を大きくすべきであるため,MgOの粒径分布を考慮する必要があることが予想される。

Fig. 17.

Predicted reaction ratio as function of average particle diameter of carbon. (Online version in color.)

さらに,本反応モデルは反応に及ぼす粒径分布の影響を考慮することができず,耐火物試料全体が一定の平均粒径を有するという仮定の下で計算が行われている。しかし,実際のれんがは広範囲の粒径分布を有している。この粒径分布の影響34)は実験値と計算値の誤差の原因の一つと考えられる。粒径分布の影響を考慮した反応モデルの再構築や改善は今後の研究課題である。

5. まとめ

不活性雰囲気中でMgO-Cれんがを加熱する方法で,MgO-Cに特有の反応であるMgO-Cの反応速度に及ぼす雰囲気温度,雰囲気ガス流量,れんが中カーボン濃度の影響について調査した。Shrinkage score modelを基にした反応モデルを構築し,れんがのMgO-C反応挙動を検討した。本研究で得られた結果を以下に示す。

(1)MgO-C反応の量,すなわち重量減少率はれんが中のカーボン濃度が増加するにつれて増加した。

(2)ガス流量を増加させても重量減少率は大きく変化しなかった。

(3)重量減少率は雰囲気温度の上昇と共に増加した。本研究の結果と既報の結果から,次の反応の見かけの活性化エネルギーを決定した。

  
C O ( g ) + M g O ( s ) = M g ( g ) + C O 2 ( g ) E = 348 kJ/mol
  
C O 2 ( g ) + C ( s ) = 2 C O ( g ) E = 296 kJ/mol

(4)Shrinkage core modelを適用し,気相物質移動と界面化学反応を律速段階として考慮したMgO-C反応モデルを構築し,雰囲気温度とれんが中カーボン濃度の影響を定量的に検討した。本研究で提案した反応モデルは本研究結果のみならず,これまでの報告結果も説明することが出来た。

(5)本モデルを用いたシミュレーションによれば,MgO-C反応を抑制するにはMgOの平均粒径を大きくすべきであり,MgO粒径分布を考慮する必要があることが予想された。

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