鉄と鋼
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論文
Ti-6Al-4VのDwell疲労特性に及ぼすMTR寸法の影響
橋本 翔太朗 岳辺 秀徳森 健一宮原 光雄
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2023 年 109 巻 2 号 p. 129-143

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Abstract

The cyclic fatigue, dwell fatigue and room temperature creep properties were evaluated in three types of Ti-6Al-4V forged bar samples having different micro-texture-regions (MTR) and tensile properties in the loading direction. In the S-N curve where the stress(σnor) was normalized by 0.2%-proof-stress, the fatigue lives of all samples were almost the same, whereas the dwell fatigue lives were not the same. So the ratio of the cyclic fatigue life to dwell fatigue life (dwell debit) changed to 2–60. In cyclic fatigue the initiation site was a facet of 1–2 α grains, and the fracture surface was typical. In dwell fatigue and creep, on the other hand, facet and dimple regions were confirmed. In addition, the facet region consisted of initiation facets of 1–2 α grains and the propagation facets which were the majority of the facet region. Initiation facets in dwell fatigue occurred earlier than 25% of the life ratio, and the angle between the c-axis of the α grains with the initiation facets and loading direction was 15–55°. The propagation facets were the MTR in which the angle between the c-axis of the α grains and loading direction was 30° or less. The lengths of the facet regions were proportional to the MTR size. In dwell fatigue, the larger the σnor or MTR size, the larger was the dwell debit. Therefore, the MTR size was considered the dominant factor determining the dwell fatigue life.

1. 緒言

Ti-6Al-4V(Ti-64)に代表されるα+β型チタン合金は比強度と加工性のバランスに優れるため,航空機エンジンのファンディスクやファンブレード等の航空機分野で古くから使用されている。航空機エンジンのファンディスクやファンブレードなどの回転部品は,エンジンの中でも破損すると大事故につながるため最重要保安部品とされており,引張特性は当然のこと,破壊靭性,低サイクルおよび高サイクル疲労などの特性も管理されてきた。しかし,1997年にはDwell疲労を原因としたエンジンの破損事故が発生し,Dwell疲労の重要性が知られることとなった。Dwell疲労は室温~200°C程度において,高応力状態が一定時間継続する疲労であり,通常の負荷除荷(Cyclic疲労)と比較して疲労寿命が大幅に低下する。これまでに航空機分野ではチタン合金の高い信頼性を維持するためにDwell疲労による損傷機構やこれに及ぼす結晶粒径や集合組織などのミクロ組織因子,Dwell疲労試験条件の影響,寿命予測に関する検討が行われてきた18)

Dwell疲労では疲労破面に観察されるファセットが応力軸に対してほぼ垂直に形成され911),Cyclic疲労ではシュミット因子の高い結晶面,もしくは大きな法線応力が作用する面に形成される12,13)という違いがあり,両者でファセットの形成機構が異なっている。Dwell疲労に特徴的なファセットの形成機構について,Evans and Bacheは修正Strohモデルを用いて,すべりが起こりやすいSoft grainでの転位のパイルアップによる応力集中によって,隣接するすべりが起こりにくいHard grainの(0001)αに高い法線応力が作用するStress redistributionで説明した14)。Hasijaらは塑性異方性と時間依存型塑性を考慮した結晶塑性解析を行い,結晶方位が異なるα粒が隣接する場合の高応力保持中にLoad sheddingによってHard grainで局所的な応力集中を生じることを示し,き裂発生の原因になり得るとした15)。また,Pilchak and WilliamsはDwell疲労で形成される複数のファセットの集合体を,Initiation facetとPropagation facetに分けて論じた。Initiation facetは応力軸に対してc軸が43°傾斜したα粒の底面すべり帯に対応して発生し,Propagation facetは{10-17}αやその近傍の結晶面に沿って形成することを報告した16)。以上のように,Dwell疲労の主な損傷機構は結晶方位が異なる結晶粒が隣接することで生じる局所的な応力集中が原因とされ,結晶方位関係が非常に重要であることが示された。

さらに,結晶方位関係だけでなく,そのサイズに関する議論もなされている。α+β型チタン合金では,結晶方位が類似するα粒の集合体であるミクロ集合組織(領域)(Micro Texture Region(s):MTR(s))が粗大に形成される場合がある。Dwell疲労特性に及ぼすMTRの影響に関して,WoodfieldらはMTRの存在によりDwell疲労寿命が著しく減少することを示した17)。また,Liu and Dunneは結晶塑性解析によってMTRの形態や結晶方位がDwell疲労寿命に大きく影響することを示した18)。VenkateshらはMTRを隣接するα粒とのc軸方位差が20°以内であるα粒の集合体と定義し,これに基づいたMTR寸法やその密度,c軸方位差からなるMTR Intensityを用いたDwell疲労寿命予測式を提案し,高精度で疲労寿命を予測できることを示した19)。しかしMTRがDwell疲労におけるひずみ蓄積挙動,疲労き裂発生および進展挙動に及ぼす影響は未だに十分には理解できていない。筆者らはこれまでに集合組織が形成された微細等軸組織を有するTi-64鍛造丸棒について丸棒の軸方向および径方向を負荷方向とし,Cyclic疲労およびDwell疲労における応力と破断寿命や破面形態との対応2022),室温クリープとの対応23),ひずみ蓄積挙動の違いやき裂進展挙動24)について明らかにしてきたが,これらに及ぼすMTR寸法の影響に関する検討は十分ではなかった。

そこで,本報ではCyclic疲労やDwell疲労,室温クリープのひずみ蓄積挙動やファセット形成に及ぼすMTRの寸法の影響を調査し,Dwell疲労における寿命低下機構について考察した。

2. 試験方法

2・1 供試材

本研究にはTable 1に示す化学組成を有するTi-64の鍛造丸棒Aの軸(L)および径(T)方向,鍛造丸棒Bの周(C)方向から角棒を採取し,供試材とした。これらはそれぞれ丸棒A(L),丸棒A(T),丸棒B(C)と記載する。Table 2にこれらの引張特性を示す。引張試験は平行部φ5.00×30 mmの引張試験片を用いて,標点間距離(Gage Length:GL)を25 mmとし,ひずみ速度を0.2%耐力まで8.3×10-5 s-1,以降では破断まで2.5×10-3 s-1(丸棒A(L),丸棒B(C))および8.3×10-5 s-1(丸棒A(T))とした。また,弾性率は応力-ひずみ(伸び計)曲線の弾性域にて200~500 MPaの範囲から算出した値である。

Table 1. Chemical compositions of the Ti-6Al-4V forged bars. (mass%)
AlVFeOTi
Bar A6.34.00.130.18Bal.
Bar B6.44.00.160.19Bal.
Table 2. Tensile properties of the Ti-6Al-4V forged bars.
Sample0.2% proof stress[MPa]Tensile strength[MPa]Elongation(%)Reductionof area(%)Young's modulus[GPa]
Bar A(L)86795418.043.1113
Bar A(T)91397117.939.2119
Bar B(C)82993613.421.9113

Fig.1に供試材のIPFマップおよびIPFを示す。これらは供試材の長手方向に対して垂直な断面において,2・2節に記載した結晶方位解析手法を用いて得た。IPFマップ(Figs.1(a-c))において,丸棒A(L)は平均粒径が6.8 μm,丸棒A(T)は平均粒径が7.6 μmの等軸状α粒の組織であった。また,丸棒A(T)では類似結晶方位が集合して細長く連なっている様子が確認された。丸棒A(L)と丸棒A(T)は同一素材から各々が直交するように採取しており,丸棒A(L)では長手方向に類似結晶方位が細長く連なった状態となっている。丸棒B(C)は平均粒径が20 μmの延伸状(アスペクト比2以上)α粒と平均粒径が12 μmの等軸状α粒が混在する組織であった。また,丸棒A(T)と同様に,類似結晶方位が集合しており,その大きさは丸棒A(T)よりも大きかった。長手方向のIPF(Figs.1(d-f))では,丸棒A(L)の長手方向に{10-10}α,丸棒A(T)の長手方向に(0001)αが15~40°傾いた結晶方位および{2-1-10}αが集積していた。丸棒B(C)の長手方向には(0001)αが20~45°傾いた結晶方位がやや集積していた。

Fig. 1.

(a-c) Inverse pole figure (IPF) maps of the transverse cross section of samples and (d-f) loading direction IPFs at (a,d) Bar A(L), (b,e) Bar A(T), and (c,f) Bar B(C). (Online version in color.)

2・2 疲労試験およびクリープ試験

供試材を用いて,室温で疲労試験およびクリープ試験を実施した。疲労試験では,平行部φ5.08×15.24 mm,平行部表面を長手方向に#1000エメリー紙で研磨した試験片を用いて,GLを12 mm,応力比0.05,応力制御による負荷サイクルとして行った。Fig.2に疲労試験に用いた応力波形を示す。Cyclic疲労では,1 s負荷/1 s除荷の三角波(Fig.2(a)),Dwell疲労では1 s負荷/120 s保持/1 s除荷の台形波(Fig.2(b))を使用した。最大応力は,丸棒A(L)で805~870 MPa(0.2%耐力の93~100%),丸棒A(T)で850~915 MPa(0.2%耐力の93~100%),丸棒B(C)で770~830 MPa(0.2%耐力の93~100%)とした。クリープ試験では,平行部φ6×30 mmの試験片を用いて,GLを30 mmとし,初期負荷応力を丸棒A(L)では825~915 MPa(0.2%耐力の95~105%),丸棒A(T)では870~915 MPa(0.2%耐力の95~100%),丸棒B(C)では750~870 MPa(0.2%耐力の90~105%)とした。

Fig. 2.

Schematic diagrams of the applied loading waveform during (a) cyclic fatigue tests and (b) dwell fatigue tests.

また,疲労およびクリープ試験後の破面の破面観察を行った。破面観察は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM,日本電子(株)製IT-300)を用いて行った。Dwell疲労およびクリープ試験後の破面および試験片平行部の縦断面において電子線後方散乱回折(Electron Back Scattering Diffraction:EBSD)法による結晶方位解析を行った。結晶方位解析は,日本電子(株)製JSM-7001FおよびEDAX社製EBSD検出器を用いて,倍率を100~500倍,ステップサイズ0.2~3 μmで測定し,OIM-Analysis((株)TSLソリューションズ製)で解析した。

3. 試験結果および考察

3・1 疲労試験結果

Fig.3にCyclicおよびDwell疲労における最大応力と破断寿命の関係を示す。本試験範囲ではCyclicおよびDwell疲労ともに最大応力と破断寿命を片対数直線関係で整理できた。同一の最大応力では,Cyclic疲労寿命は丸棒B(C),丸棒A(L),丸棒A(T)の順に長くなった。これはTable 2に示した0.2%耐力や引張強度からも妥当な結果である。一方,Dwell疲労寿命は,同一の最大応力で比較すると各供試材のCyclic疲労寿命の半分以下となった。また,Cyclic疲労では丸棒A(T)は丸棒A(L)よりも疲労寿命は長かったが,Dwell疲労では同程度であった。Fig.4に最大応力σmaxを0.2%耐力σ0.2で規格化した値σmax/σ0.2(以下,規格化応力σnorとし,百分率(%)で記載する)と破断寿命の関係を示す。Fig.3と同様に,CyclicおよびDwell疲労ともに規格化応力と破断寿命を片対数直線関係で整理できた。また,同関係はCyclic疲労に関してはいずれの供試材でも同等であり,Cyclic疲労では規格化応力によって供試材の強度差の影響を除外できることを示唆する。Dwell疲労寿命では,丸棒A(T)と丸棒B(C)が同程度となったが,すべての供試材をCyclic疲労のように同一には整理できなかった。Fig.5にDwell疲労寿命に対するCyclic疲労寿命の比(Dwell debit)と規格化応力の関係を示す。規格化応力が高いほどDwell debitは大きく,これはCyclic疲労寿命とDwell疲労寿命の差が大きくなることを意味する。また,同一の規格化応力であっても供試材によって差があった。これらについては3・4節で詳しく検討する。

Fig. 3.

Relationship between the maximum stress and the number of cycles to failure. (Online version in color.)

Fig. 4.

Relationship between the maximum stress normalized by 0.2% proof stress (normalized stress: σnor) and the number of cycles to failure. (Online version in color.)

Fig. 5.

Relationship between the ratio of cyclic fatigue life to dwell fatigue life (dwell debit) and the normalized stress. (Online version in color.)

次に,ひずみの視点でCyclic疲労とDwell疲労を比較した。Fig.6に応力-ひずみヒステリシスを示す。ここでは最大ひずみεmax,非弾性ひずみ範囲Δεinおよびラチェットひずみεrに着目した。非弾性ひずみ範囲は,応力-ひずみヒステリシスにおいて,最大応力と最小応力の平均値σmeanにおける除荷時と再負荷時のひずみの差とした。また,ラチェットひずみはサイクル間の最大ひずみの差とした。Fig.7に疲労試験中の各サイクルにおける最大ひずみと寿命比(繰り返し数N/破断寿命Nf)の関係を示す。規格化応力100%(Fig.7(a))において,Cyclic疲労の最大ひずみは,いずれの供試材でも寿命初期(N/Nf≦10%)に大きく増加し,それ以降は一定の傾きで増加して,後期(N/Nf≧95%)に再度大きく増加して破断した。Dwell疲労では,Cyclic疲労と同様の挙動であるが,そのひずみ量はCyclic疲労よりも大きかった。また,後期の大きなひずみ増加が,丸棒A(L)および丸棒A(T)ではCyclic疲労に比べて比較的早いタイミング(N/Nf≧80%)で生じ,丸棒B(C)ではCyclic疲労と同様のタイミング(N/Nf≧95%)で生じた。破断時のひずみを比較すると,丸棒A(L),丸棒A(T),丸棒B(C)の順に小さくなった。規格化応力95%(Fig.7(b))では,Cyclic疲労の最大ひずみ推移は規格化応力100%とほぼ同様であった。Dwell疲労では,寿命初期の増加量や中期での傾き,破断時のひずみ量がCyclic疲労と比べて大きかったが,規格化応力100%でのDwell疲労と比較すると小さかった。

Fig. 6.

Schematic diagram of stress-strain hysteresis loop showing the maximum strain (εmax), inelastic strain range (Δεin), and ratchet strain (εr).

Fig. 7.

Relationship between the maximum strain in each cycle and the ratio of number of cycles to number of failured cycles (fatigue life ratio) during cyclic and dwell fatigue tests at (a) σnor=100% and (b) σnor=95%. (Online version in color.)

Fig.8に示す非弾性ひずみ範囲と疲労寿命の関係には,CyclicおよびDwell疲労の各供試材でそれぞれ両対数直線関係があった。Dwell疲労では,Cyclic疲労よりも非弾性ひずみ範囲が大きく,短寿命であり,その傾きはCyclic疲労の傾きよりも小さかった。また,Dwell疲労では同じ非弾性ひずみ範囲で比較すると,丸棒B(C)が最も寿命が短かった。

Fig. 8.

Relationship between the inelastic strain range at the middle of fatigue life and the number of cycles to failure. (Online version in color.)

Fig.9に疲労試験中の各サイクルにおける非弾性ひずみ範囲と寿命比の関係を示す。寿命初期から後期までの非弾性ひずみ範囲,および,寿命中期の傾き(非弾性ひずみ範囲の増加量)は,Dwell疲労の方がCyclic疲労よりも大きかった。規格化応力100%(Fig.9(a))の非弾性ひずみ範囲は,CyclicおよびDwell疲労のいずれも寿命初期(N/Nf≦5%)に1×10-2%程度まで急激に増加し,それ以降は概ね一定の傾きのままであった。規格化応力95%(Fig.9(b))においては,Cyclic疲労では丸棒A(L)および丸棒A(T)で寿命比20%程度までにかけて非弾性ひずみ範囲が増加したが,Dwell疲労ではいずれも規格化応力100%と同様であった。

Fig. 9.

Relationship between the inelastic strain range at the middle of fatigue life and the fatigue life ratio during cyclic and dwell fatigue tests at (a) σnor=100% and (b) σnor=95%. (Online version in color.)

Fig.10に疲労試験中の各サイクルにおけるラチェットひずみと寿命比の関係を示す。規格化応力100%(Fig.10(a))では,Cyclic疲労のラチェットひずみは,寿命初期(N/Nf≦5%)に1桁程度の急激な減少をした後,一定の緩やかな傾きで減少し,後期(N/Nf≧80%)に増加に転じて破断した。一方,Dwell疲労のラチェットひずみは寿命初期(N/Nf≦5%)にCyclic疲労よりも緩やかに減少し,以降,より緩やかに減少して寿命比が約50%で最小となり,その後増加に転じて後期(N/Nf≧80%)で大きく増加して破断した。

Fig. 10.

Relationship between the ratchet strain and the fatigue life ratio during cyclic and dwell fatigue tests at (a) σnor=100% and (b) σnor=95%. (Online version in color.)

規格化応力95%(Fig.10(b))では,Cyclic疲労のラチェットひずみ推移は規格化応力100%と同様であり,そのひずみ量は規格化応力100%よりも小さかった。Dwell疲労のラチェットひずみは,丸棒A(T)および丸棒B(C)ではCyclic疲労に比べて約2桁大きかったのに対して,丸棒A(L)ではCyclic疲労と1桁以下の小さな差しかなかった。Dwell疲労におけるラチェットひずみには,最大応力保持中に生じるクリープひずみが含まれているため,これらの挙動はクリープ変形と密接に関係していると考えられる。Dwell疲労のラチェットひずみ推移は,規格化応力の低下に伴ってひずみ量が最小となる寿命比が後期側に遷移しており,Cyclic疲労に類似する傾向であった。これは,クリープ変形の影響が抑制されて,局所的なき裂発生・進展を伴う疲労損傷の影響が強くなることに対応すると考えられる。

3・2 クリープ試験結果

Fig.11に規格化応力と破断時間の関係を示す。試験時間が2500 hを超えてもクリープひずみが5%未満の条件は2500 hで試験中止とした。また,比較のためにDwell疲労における破断時間を保持時間の累積(120 s×繰り返し数)として示した。いずれの供試材でも規格化応力が高いほど破断時間は短くなった。規格化応力100%のクリープ試験ではいずれもクリープ破断に至り,丸棒A(T),丸棒B(C),丸棒A(L)の順に寿命は長くなった。Dwell疲労の破断時間はいずれの供試材および規格化応力でも,クリープと比較して短かった。Fig.12にクリープ破断した試験片のクリープひずみと寿命比(試験時間t/破断時間tr)の関係を示す。規格化応力100%での丸棒A(L)および丸棒A(T)におけるクリープひずみ推移は,遷移クリープ域,定常クリープ域,加速クリープ域の順に遷移する正遷移型のクリープ変形を示した。一方で,丸棒B(C)のクリープひずみ推移では,加速クリープ域が破断直前のわずかな期間しか示されなかった。これらの挙動はDwell疲労の規格化応力100%の最大ひずみ推移(Fig.7(a))と類似する。クリープ破断時のひずみは丸棒A(L)および丸棒A(T)で15%程度と大きく,丸棒B(C)が5%程度と小さかった。丸棒A(T)および丸棒B(C)において,今回の試験範囲ではクリープひずみ推移は規格化応力に依らず同様であった。

Fig. 11.

Relationship between the normalized stress and the time to rupture. Arrows indicate the unbroken samples during creep tests at room temperature. (Online version in color.)

Fig. 12.

Relationship between the creep strain and the ratio of test time to time to rupture (rupture time ratio) during creep tests at room temperature. The numbers(%) in the legend indicate the normalized stress.

Fig.13に最小ひずみ速度と破断時間の関係を示す。比較のためDwell疲労試験での結果もあわせて示した。Dwell疲労試験での最小ひずみ速度は,Fig.10のラチェットひずみの最小値を保持時間120 sで除して求めた。クリープ試験の結果は,いずれの供試材についても最小ひずみ速度と破断寿命を両対数直線関係で整理できた。丸棒B(C)は,丸棒A(L)および丸棒A(T)と比較して直線関係の傾きが大きく,また寿命は短かった。規格化応力100%(Fig.13中の矢印)で比較した場合,丸棒A(T),丸棒B(C),丸棒A(L)の順にクリープの最小ひずみ速度が小さく,寿命は長かった。Dwell疲労においては,丸棒A(L)および丸棒A(T)では,規格化応力98%以上で同供試材におけるクリープの両対数直線関係とほぼ同一に整理可能であるが,規格化応力98%未満では同関係に対して寿命は短かった。これは,規格化応力の低下に伴ってクリープが生じにくくなり,疲労による損傷の寄与が大きくなるためと考えられる。丸棒B(C)のDwell疲労は,他の供試材と異なり,規格化応力93%以上でクリープの両対数直線関係と同等の傾きで整理でき,クリープに比べて寿命は長かった。この理由として,3・3節で述べるように,丸棒B(C)はDwell疲労およびクリープいずれも粗大なファセット領域の形成を伴う破壊形態であり,その寸法はDwell疲労よりもクリープの方が大きいために,クリープではファセット領域を形成後に断面積が大きく減少し早期に破断したと考えられる。

Fig. 13.

Relationship between the minimum strain rate and the time to rupture. Arrows indicate the results at σnor=100%. (Online version in color.)

3・3 破面観察結果

Figs.14-16にCyclic疲労,Dwell疲労およびクリープ破面のSEM観察結果をそれぞれ示す。Cyclic疲労破面(Fig.14)はいずれの供試材および規格化応力でも,表層を起点としてストライエーションを伴うき裂が進展して破断に至る典型的な疲労破面であった。Cyclic疲労の起点部はファセットであり,その寸法はα粒1~2個分であった。

Fig. 14.

SEM images of fracture surface after cyclic fatigue tests for (a,d) BarA(L), (b,e) BarA(T), and (c,f) BarB(C) at (a-c) σnor=100% and (d-f) at σnor=95%. Arrows indicate the crack initiation sites.

Fig. 15.

SEM images of fracture surface after dwell fatigue tests for (a,d) BarA(L), (b,e) BarA(T), and (c,f) BarB(C) at (a-c) σnor=100% and (d-f) at σnor=95%. Dashed line indicates the facet regions. Arrow indicates the crack initiation site. (Online version in color.)

Fig. 16.

SEM images of fracture surface after creep tests at room temperature for (a) BarA(L), (b,d) BarA(T), and (c,e) BarB(C) at (a-c) σnor=100%, (d) σnor=98% and (e) at σnor=95%. Dashed line and arrow indicate the facet regions. (Online version in color.)

一方,Dwell疲労破面(Fig.15)は規格化応力に依存して破面形態および起点部の位置が異なった。規格化応力100%(Figs.15(a-c))ではいずれの供試材でもほぼ全面がディンプルであったが,丸棒B(C)(Fig.15(c))では破面内部に起点部と思われる1 mm超の粗大なファセット領域が複数観察された。このファセット領域は,α粒1~2個分のファセットが多数集まって形成されていた。規格化応力95%(Figs.15(d-f))において,丸棒A(L)(Fig.15(d))ではCyclic疲労破面と同様であった。一方,丸棒A(T)(Fig.15(e))および丸棒B(C)(Fig.15(f))ではファセット領域が表層近傍の広い範囲に形成され,このファセット領域から直接ディンプルに遷移するとともに,一部ではストライエーションが観察された。Dwell疲労破面に形成されたファセット領域内には,表面に模様の見られないInitiation facetがいくつか観察され,リバーパターン状の模様(ridge)があるPropagation facetがファセット領域のほとんどを占めていた。ファセット領域の大きさは規格化応力100%よりも規格化応力95%の方が大きかった。

クリープ破面(Fig.16)は規格化応力100%において,丸棒A(L)(Fig.16(a))および丸棒A(T)(Fig.16(b))ではほぼ全面がディンプルを呈しており,ごく一部にファセット領域(丸棒A(L)で最大10 μm,丸棒A(T)で最大50 μm)が観察された。丸棒B(C)(Fig.16(c))ではディンプル主体であるが,表層や内部に1 mm超のファセット領域が観察された。丸棒A(T)の規格化応力98%(Fig.16(d))および丸棒B(C)規格化応力95%(Fig.16(e))でも規格化応力100%と同様にファセット領域が観察された。このファセット領域の最大寸法はいずれも規格化応力100%に比べて大きかった。さらに,これらファセット領域はDwell疲労破面と同様にInitiation facetとPropagation facetから構成されたファセットの集合体であるとともにそのほとんどがPropagation facetであり,ファセット領域とディンプル領域との境界にInitiation facetが観察される傾向があった。クリープで形成されるファセット領域の寸法は丸棒A(T)と比べて丸棒B(C)では20倍以上大きかった。また,同じ規格化応力でファセット領域の寸法を比較すると,Dwell疲労よりもクリープの方が大きい傾向であった。ファセット領域の寸法はDwell疲労とクリープで絶対値は異なるが,両者で同じ特徴を示すことからファセット形成には共通の組織的な支配因子があると考えられる。

Fig.17に丸棒B(C)の規格化応力100%におけるDwell疲労およびクリープ破断部の縦断面のIPFマップを示す。IPFマップでは応力軸方向から見た場合の結晶方位を色分けして表示した。測定範囲にはファセット領域およびディンプル領域を含んでおり,前述のとおりファセット領域はPropagation facet主体(Initiation facetの割合は不明)である。Dwell疲労およびクリープいずれもファセット領域およびディンプル領域は複数のα粒で構成されており,その破面直下(α粒1個分の深さ)のα粒の結晶方位は両領域で大きく異なっていた。ファセット領域の破面直下のα粒は応力軸に対してc軸が平行に近いHard grainが主体であり,ディンプル領域ではc軸が応力軸に対して垂直に近いSoft grainが主体であった。

Fig. 17.

IPF maps of the longitudinal cross section of fracture BarB(C) for (a) dwell fatigue and (b) room temperature creep at σnor=100%. (Online version in color.)

Fig.18に丸棒A(T)および丸棒B(C)のDwell疲労破面においてファセット領域を形成するα粒について,隣接するα粒のc軸方位差θおよび応力軸とc軸のなす角度φのヒストグラム(個数割合)を示す。解析に用いたα粒は破面観察では測定できたα粒すべて,断面観察では破面を含むα粒のみとして行った。ヒストグラムの区分は5°間隔であり,横軸には区分の中央値でプロットした。角度θの分布(Fig.18(a))は,いずれの供試材および規格化応力でも0~5°の相対割合が最も大きく,角度θが大きいほど相対割合は減少し,90%以上のα粒が20°以下であった。したがって,ファセット領域はMTRといえる。また,角度φ(Fig.18(b))は,供試材や規格化応力によってピーク位置などの分布が異なった。規格化応力が低い場合には単峰性,規格化応力が高い場合には二峰性の分布であった。最大ピーク位置は供試材によってやや異なるが,おおむね15°付近にあった。また,全α粒における角度φの分布は,92%のα粒が30°以下であることから,ファセット領域は応力軸とc軸のなす角度が30°以下のMTRである。Pilchak and WilliamsはDwell疲労破面のPropagation facetを形成する結晶面が{10-17}α((0001)αに対してc軸方位差約15°)であり,応力軸とc軸のなす角度が5~30°と報告しており16),本研究結果と対応している。したがって,以後,応力軸とc軸のなす角度φが30°以下(15°±15°)の方位をPropagation facet形成方位(PF形成方位)と記載する。

Fig. 18.

Histograms of (a) angle θ between c-axes of adjacent α grains and (b) angle φ between c-axis and loading direction (T.D.). These analyzes were performed for only the α grains including the fracture surface for dwell fatigue tests. The numbers(%) in the legend indicate the normalized stress. (Online version in color.)

Fig.19に丸棒B(C)のクリープ破面においてファセット領域を形成するα粒について,隣接するα粒のc軸方位差θおよび応力軸とc軸のなす角度φのヒストグラム(個数割合)を示す。解析に用いたα粒は破面観察では測定できたα粒すべて,断面観察では破面を含むα粒のみとして行った。横軸にはFig.18と同様に区分の中央値を用いた。角度θの分布(Fig.19(a))ではDwell疲労と同様にいずれの規格化応力でも0~5°の相対割合が最も大きく,角度θが大きいほど相対割合は減少し,全α粒の96%が20°以内であることから,クリープ破面のファセット領域はMTRである。また,角度φ(Fig.19(b))では規格化応力95および100%では単峰性であり,規格化応力93%では二峰性の分布であった。ピーク位置は規格化応力100%で20~25°,規格化応力95%で10~25°,規格化応力93%で10~15°であり,規格化応力が低い方が低角側になる傾向であった。角度φの分布は全体の93%が30°以下であることから,クリープにおけるファセット領域はDwell疲労と同様にPF形成方位のMTRである。また,角度φの分布はピーク位置が規格化応力によってやや異なったが,15°に近いことからDwell疲労のファセット領域の特徴と一致すると考えられる。さらに,角度φが15~45°のα粒がDwell疲労と比べてわずかに多い。以上のように,破面形態はDwell疲労とクリープで類似しており,MTRに起因すると考えられる。

Fig. 19.

Histograms of (a) angle θ between c-axes of adjacent α grains and (b) angle φ between c-axis and loading direction (T.D.). These analyzes were performed for only the α grains including the fracture surface for creep tests at room temperature. The numbers(%) in the legend indicate the normalized stress. (Online version in color.)

3・4 Dwell疲労寿命とMTR寸法の関係

Dwell疲労におけるひずみ推移や破面形態は規格化応力が小さい場合にはCyclic疲労に類似し,規格化応力が大きい場合にはクリープに類似する傾向が認められた。これは,支配的な損傷モードが規格化応力に依存して疲労損傷およびクリープ損傷のいずれかに遷移したためであり,規格化応力がDwell疲労特性に影響を及ぼす因子であることを表している5)。また,規格化応力の低下に伴ってDwell疲労の起点がクリープと同様の試験片内部からCyclic疲労と同様の表層に変化したことも,同様に説明できる。一方,規格化応力が同一であっても,供試材によってDwell疲労寿命やDwell疲労におけるひずみ推移,破面形態,ファセット領域の寸法には大きな差異が認められており,ミクロ組織因子の影響も大きいと考えられる。

Dwell疲労破面で観察されたファセット領域は主にPF形成方位のMTRから形成されている。そこで,破面に観察されたファセット領域の寸法と供試材中のPF形成方位のMTR寸法の関係,および,それらがDwell疲労寿命に及ぼす影響について検討する。Fig.20にファセット領域の寸法とPF形成方位のMTR寸法の関係を示す。MTR寸法はOIM-Analysisにて楕円近似した時の最大長軸長さを用いた。Cyclic疲労ではPF形成方位のMTR寸法が大きくてもファセット領域は小さかった。これに対しDwell疲労およびクリープではともに,PF形成方位のMTR寸法が大きいほどファセット領域は大きくなり,MTR寸法とファセット領域の寸法が1:1の関係に近づいた。

Fig. 20.

Relationship between the length of facet regions and the length of the micro texture region for the orientation formed propagation facets (PF-MTR). Arrow indicates the result for BarA(L) at σnor=95%.(Online version in color.)

Fig.21にDwell debitとPF形成方位のMTR寸法の関係を示す。規格化応力が大きいほど,また,PF形成方位のMTR寸法が大きいほど,Dwell debitが大きいことがわかる。ここで,Cyclic疲労と同等のファセット領域寸法(α粒1~2個)であった丸棒A(L)の規格化応力95%では,Dwell debitは2.1であり,Cyclic疲労と同等であることを示す1にはならなかった。これはDwell疲労ではクリープ損傷の影響が加わるためと考えられる。以上より,PF形成方位のMTR寸法はDwell疲労寿命に支配的に影響するミクロ組織因子であり,同寸法が大きいほどDwell debitが大きく,Dwell疲労による寿命低下が加速すると考えられる。

Fig. 21.

Relationship between the dwell debit and the length of the micro texture region for the orientation formed propagation facets (PF-MTR). (Online version in color.)

3・5 Dwell疲労破壊機構

3・1節から3・4節にかけて得られた結果をもとに,Dwell疲労に特徴的な広いファセット領域を形成する場合のDwell疲労破壊機構を考察する。Fig.22にDwell疲労破壊機構の模式図を示す。Dwell疲労では表層近傍に微小き裂(Initiation facet)が発生し,ある程度の応力波形の繰り返しによってPropagation facetを形成する特徴があった。その後,若干のストライエーションを伴ってき裂が進展した後にディンプルを形成する延性破壊へと遷移する。

Fig. 22.

Schematic diagram of the dwell fatigue fracture mechanism. (Online version in color.)

はじめに,Dwell疲労におけるInitiation facetについて検討する。Fig.23に丸棒B(C)の規格化応力93%における,寿命比25%および50%で途中止めした試験片のIPFマップを示す。IPFマップの結晶方位は応力軸方向から観察した場合の色分けで表示した。試験片内部には複数の微小き裂が観察された。これら微小き裂はMTRの境界付近に発生する傾向であった。微小き裂は寿命比25%(Fig.23(a))の時点で既に発生しており,寿命比50%(Fig.23(b))でも同等寸法(α粒1~2個)であった。これらの微小き裂はα粒の底面に沿って発生していた。Fig.24に,丸棒B(C)(寿命比25および50%),丸棒A(L)(寿命比50%),丸棒A(T)(寿命比50%)の各途中止め試験片において,微小き裂が発生したα粒における応力軸方向のIPFを示す。丸棒B(C)(Figs.24(a, b))では応力軸とc軸のなす角度が15~45°,丸棒A(L)(Fig.24(c))では30~55°,丸棒A(T)(Fig.24(d))では35~45°であった。Pilchak and Williamsは,Initiation facetは応力軸とc軸のなす角度が43°のα粒であると報告している16)。これは本研究における微小き裂の発生方位(30~55°)と概ね一致しており,途中止め試験片で観察された微小き裂が破面上でInitiation facetとして観察されると考えられる。したがって,Initiation facetは応力軸とc軸のなす角度が30~55°のα粒の中で,周辺の結晶粒の相互関係から底面の法線方向に高い応力が発生する粒で発生すると考えられる。また,微小き裂はα粒単位で形成されるものの,MTRの境界付近に発生する傾向であったことから,その形成過程において,MTRが粗大なα粒としてふるまい不均一変形を助長することでき裂発生が加速されると考えられる。

Fig. 23.

IPF maps of the longitudinal cross section of the specimens interrupted at (a) one quarter and (b) the middle of fatigue life during Dwell fatigue test for BarB(C) at σnor=93%. Circles indicate the microcracks. (Online version in color.)

Fig. 24.

Loading direction IPFs of the specimens interrupted at the (a) one quarter and (b-d) the middle of fatigue life during Dwell fatigue test for (a,b) BarB(C) at σnor=93%, (c) BarA(L) at σnor=98%, and (d) BarA(T) at σnor=93%.

次に,Dwell疲労におけるPropagation facetについて検討する。Propagation facetはPF形成方位のMTR寸法に比例した寸法で形成されること,同寸法がDwell debitおよびDwell疲労寿命に大きく影響することは3・4節で述べた。Propagation facetでは,ファセット形成時のき裂進展速度がストライエーションを伴うき裂進展よりも2桁大きいこと(101~102 μm/cycle)25)から,Propagation facet形成期の寿命はMTR寸法が大きいほど低下する。Propagation facetが高速き裂進展で形成される理由は,クリープ変形と同じくLoad sheddingによるファセット法線方向へ高引張応力が作用するためと考えられる。Load sheddingは時間依存性があるため,高応力保持時間が長いクリープ変形ではDwell疲労よりも広範囲に影響が生じると考えられ,Propagation facetの形成方位でピークより高角度側のα粒の割合がわずかに多かったことの説明も可能である。また,粗大なPF形成方位のMTRを有する丸棒B(C)は,ほかの供試材が2500 hでもクリープ破断しなかった規格化応力95%以下でも破断しており,PF形成方位のMTR寸法が大きいほど,Load sheddingによる応力集中が顕著になることを示唆している。

今後は,上記のDwell疲労の破壊機構をもとに,解析されたひずみ挙動と破面形態を対応させて,Fig.22で4段階に分けた破壊の進展において各段階が全寿命の中に占める割合を定量的に評価し,さらに次段階へ遷移する条件を詳細に検討することが課題である。これらによって,Dwell疲労寿命予測技術の向上につなげることが可能になると考える。

4. まとめ

応力軸と集合組織の関係および引張特性が異なる3種類のTi-6Al-4Vの鍛造丸棒試料を用いて,CyclicおよびDwell疲労試験,クリープ試験を行い,これらの破面観察ならびに結晶方位解析をもとに,Dwell疲労寿命に及ぼすMTR寸法の影響およびその機構を検討した結果,以下の知見を得た。

(1)疲労寿命を規格化応力(0.2%耐力に対する最大応力の比率)で整理すると,Cyclic疲労では応力軸と集合組織の関係,0.2%耐力および引張強度に関係なく,同一に整理できた。一方,Dwell疲労では同一に整理することができなかった。そのため,Dwell疲労寿命に対するCyclic疲労寿命の比(Dwell debit)は2~60に変化した。

(2)Dwell疲労の最大ひずみは,寿命比(繰り返し数と破断寿命の比)≦10%の初期において急激に増加し,中期では一定の傾きで増加して,後期(寿命比≧80%)に再度急激に増加して破断した。MTR寸法が最も大きく,長手方向にα相の(0001)αが20~45°傾いた集合組織を有する試料では,後期の急激なひずみ増加は寿命比≧95%とより後期に生じた。

(3)クリープひずみ推移は,MTR寸法が比較的小さい試料では遷移クリープ域,定常クリープ域,加速クリープ域の順に遷移する正遷移型のクリープ変形を示した。一方,MTR寸法が最も大きい試料では,加速クリープ域がほとんど確認されず,比較的小さいひずみ量で破断し,その破面には粗大なファセット領域が観察された。

(4)Dwell疲労の破面に観察されたファセット領域は,α粒1~2個程度の微小き裂であるInitiation facetと大部分をしめるPropagation facetで構成された。Initiation facetは応力軸とα相のc軸のなす角度が15~55°のα粒であり,Propagation facetは応力軸とc軸のなす角が15°±15°(PF形成方位)のMTRであった。微小き裂(Initiation facet)は寿命比25%よりも早期に発生し,その後に高速き裂進展を伴うPropagation facetを形成する。

(5)Dwell疲労では,規格化応力が大きいほど,また,PF形成方位のMTR寸法が大きいほど,Dwell debitが大きかった。PF形成方位のMTR寸法はDwell疲労寿命に支配的に影響するミクロ組織因子であり,同寸法が大きいほどDwell debitが大きく,Dwell疲労による寿命低下が加速すると考えられる。

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