鉄と鋼
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論文
Fe-Ti-C三元系合金におけるB1型TiCの凝固ミクロ組織と機械的性質
井田 駿太郎 渡邊 憲郷吉見 享祐
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2023 年 109 巻 3 号 p. 224-233

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Abstract

The microstructure of the B1-type TiC formed during solidification and its mechanical properties were investigated using arc-melted Fe-Ti-C ternary alloys. The TiC formed at relatively high temperatures in the liquid as the primary phase exhibited a dendritic shape. With decreasing temperature and/or decreasing Ti and C content in the liquid, its morphology changed to a cubic shape with the {001}TiC habit plane, a plate shape with the {011}TiC habit plane, and a needle shape with the <001>TiC preferential growth direction. The morphology of the TiC was characterized by the anisotropy of its surface energy and its growth rate. The cubic shape with the {001}TiC habit plane was formed as a result of the minimum surface energy of the {001}TiC. However, the plate shape with the {011}TiC habit plane and the needle shape with the <001>TiC preferential growth direction should be formed due to the slowest growth rate of <011>TiC and the fastest growth rate of <001>TiC, respectively. At room temperature, alloy with the dendritic TiC was fractured in the elastic deformation region because the TiC exhibited no plastic deformation. On the other hand, at 800ºC, it was suggested that the TiC has plastic deformability and alloy with the dendritic TiC was also plastically deformed.

1. 緒言

B1型MXセラミックスは,NaCl構造を有し,Mが遷移金属,Xが非金属元素を主な構成元素とする。その一つであるTiCは,高融点(3067°C),低密度(4.93 g/cm3),硬い性質を有し,高温材料の強化相として有望である1,2)。一方で,TiCの課題は靭性である。化学量論組成のTiCの室温破壊靭性値は3 MPam程度である3)。その結果,TiCの用途は,IF鋼における侵入型元素の固定化,サーメットや切削工具におけるコーティング層等に限定されている。サーメットは,金属相とTiC,ZrC,HfCなどのMCセラミックスを粉末焼結することにより作製される複合材料である1,4)。MCセラミックスは強化相として,金属相はMCセラミックスをつなぐバインダーとして機能する。サーメットの靭性と強度の両者を一層向上させるため,ミクロ組織や組成の改良が行われているが,サーメットの靭性値は13 MPam未満に留まっている4,59)。そこで,MCセラミックスの靭性の改善も重要な課題である。

B1型MXセラミックスが金属相と相平衡する場合,Mサイトには平衡する金属相の各種金属元素が,またXサイトには炭素や窒素,酸素といった複数の非金属元素が置換し,さらに非化学量論性に由来する構造空孔も形成する。その結果生じる化学量論組成からの組成の変化はMXセラミックスの物性を変化させ,これによって機械的特性も変化する可能性がある1012)。とりわけ凝固過程で晶出するMXセラミックスは過冷却等の効果もあって,大きな非化学量論効果を有する可能性が高い。さらに晶出時には,固液界面における界面エネルギーの異方性によって特定の原子面の成長が促進,あるいは逆に抑制され,その結果,晶出相が特異な形態となることも考えられる。このMXセラミックスの晶出形態も靭性を支配する因子の一つであることが予想されるため,MXセラミックスの形態制御は,MXセラミックスを多量に導入しても靭性・変形能を損なわずに,強度を高める合金設計のために不可欠である。しかし,サーメットの主な製造プロセスである焼結法では,セラミックスと金属相が非平衡であることが一般的で,非化学量論効果の導入や形態制御は困難である。例えば,溶解鋳造法と焼結法で作製したMo-TiC共晶合金のミクロ組織は大きく異なる4,13,14)。溶解鋳造法で作製された,非常に微細なMo相とTiCからなる共晶ラメラ組織を有する合金は,高温での強度と延性に優れることが報告されている13,14)。同様の挙動はMo-ZrC共晶合金でも報告されている15)

TiCの凝固形態に関しては,いくつかの報告がある。例えば,L → Fe(BCC構造)+TiCの共晶反応によって形成されたFe基合金のTiCは晶癖面を有する1618)。同様の晶癖面を持ったTiCは,FeAl基複合材料19,20),TiAl合金21,22),Al複合材料23)でも観察されている。しかし,L → Mo(BCC構造)+TiCの共晶反応によって形成されるMo基合金中のTiCは,そのような晶癖面の生成は報告されていない24,25)。ここで,M-Ti-C三元系はTiCの非化学量論効果の観点から,2つのパターンに分けられる。すなわち,金属相や液相と平衡するTiCが大きな非化学量論性を持つ場合と,持たない場合である。前者は,一般的にMを4から6族元素とするMo-Ti-CやNb-Ti-Cなどである24,26)。一方,後者の例として,Fe-Ti-CやNi-Ti-Cなどが挙げられる27,28)

本研究では,非化学量論性をほとんど持たないMXセラミックスの晶出形態を議論する目的でFe-Ti-C三元系を調査対象とした。Fe-Ti-C系は,液相またはFe固相と平衡するTiCの組成が温度によらずほぼ一定であるため,凝固中や固体での冷却中で組成の変化がほとんどなく,そういった条件でのTiCの凝固ミクロ組織を調べることができる。そこで本研究では,Fe-Ti-C三元系モデル合金を用い,TiCの凝固ミクロ組織および機械的特性を調べた。

2. 実験方法

供試合金は,原子比でFe-15Ti-15C(15TiC合金),Fe-5Ti-5C(5TiC合金)およびFe-7.5Ti-2.5C(5Ti-2.5TiC合金)の3合金である。既報の液相面投影図から,すべての合金は初晶TiCを形成し,15TiC合金の液相線温度は5TiC合金や7.5Ti合金よりも高い27)。これら合金は,純Fe(99.99 wt%),Ti(99.9 wt%),TiC(99 wt%)を溶解原料とし,Ar雰囲気下でアーク溶解法により 9 – 10 cm3のインゴットとして作製した。以下では,組成をすべて原子比で示す。合金組成は,誘導結合プラズマ発光分光分析法で分析した。鋳造ままの合金の分析組成をTable 1に示す。分析組成と公称組成に大きな差はなかった。ミクロ組織観察には,電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた。TEM観察用試料は,直径3 mmの円盤試料を放電加工で切り出し,厚さ約50-70 μmに機械研磨後,10%過塩素酸エタノール電解液を用いてtwin-jet電解研磨により作製した。また,SEM観察用試料の一部に対し,3次元的にTiCを観察するために,4%ナイタール腐食液に30 min浸漬しディープエッチングを施した。各相の組成は,波長分散型X線分光器を備えた電界放出型電子プローブマイクロアナライザーを用い,10 kV,5.0×10-8 Aの条件で分析した。各相の結晶方位解析には電子後方散乱回折(EBSD)を用いた。室温および800°Cでの引張試験は,ゲージ長5 mm,幅2 mm,厚さ1 mmのドックボーン型の試験片を用いて行った。ひずみ速度は1.0×10-3 s-1で行った。

Table 1. Nominal composition and chemical composition of the investigated alloys.
SampleNominal composition/ at%Chemical composition/ at%
FeTiCFeTiC
15TiC70.015.015.070.414.515.1
5TiC90.05.05.091.04.64.4
7.5Ti90.07.52.590.57.22.3

3. 結果と考察

3・1 凝固ミクロ組織

Fig.1は15TiC合金の鋳造ままの反射電子像(BEI),TiCのKernel Average Misorientation(KAM) マップおよび試料面法線方向に対する逆極図(IPF)マップである。なお,以降のIPFマップも試料面法線方向に対する方位を示している。反射電子像中の暗いコントラストで比較的大きな粒は初晶TiC,その周りを取り囲む明るいコントラストはFe相(室温ではBCC構造),さらにFe相とTiCの共晶組織が観察された(Fig.1(a))。なお,15TiC合金におけるTiCの体積率は30%であった。また,初晶TiCには方位変化はほとんど認められないものの,共晶組織中のTiCには若干の方位変化が認められた(Fig.1(b))。初晶TiCの形態は主にデンドライト状であるが,デンドライトアームの先端部はファセット状であった。

Fig. 1.

Microstructure of the as-cast 15TiC alloy: (a) BEI, (b) KAM map of the TiC, (c) IPF map together with the <001> pole figure of the dendritic TiC indicated by arrows in (a). The numbers indicate the orientation of the habit plane of the TiC. (Onleine version in color.)

この初晶TiCの凝固過程を検討するために,TiサイトにおけるFe割合(fFeTi)を算出した。fFeTiは次式(1)で表される。

  
fFeTi=xFeTiC/(xFeTiC+xTiTiC)(1)

ここで,xFeTiCはTiC中のFeの組成,xTiTiCはTiC中のTiの組成である。なお,FeとTiは共にTiC中のTiサイトのみを占有すると仮定しており,fFeTiが小さいほど,TiサイトにおけるFeの占有率が低いことを意味する。また,CサイトにおけるC占有率は考慮されていない。

初晶TiCのうち,デンドライトの中心部(Dendric TiC)とファセット状になっているデンドライトアームの先端部(Faceted TiC)の組成およびfFeTiTable 2に示す。Dendric TiCにおけるfFeTi(1.1%)はFaceted TiCにおけるfFeTi(1.3%)よりも低かった。このことは,デンドライトの生成初期に比べて末期の方がTiC中のFeの占有率がわずかに増加することを意味する。IPFマップは,初晶TiCが単一の方位を有し,ファセット状のTiCの晶癖面が{001}TiCであることを示唆している(Fig.1(c))。また,Fe母相は多結晶化しており,その結晶粒は比較的微細であった(~10 μm)。液相面投影図27)から,Fe相は共晶反応温度では面心立方構造(FCC)であることから,冷却中に FCC→BCC変態とこれに伴う結晶粒の微細化が生じたものと考えられる。

Table 2. Analyzed compositions of the dendritic TiC and faceted TiC of 15TiC alloy.
SampleComposition/ at%fTiFe (%)
FeTiC
Dendric TiC0.652.946.51.1
Faceted TiC0.752.646.71.3

Fig.2に,5TiC合金の鋳造ままのミクロ組織を示す。初晶TiCはデンドライト状ではなく,ファセット状に晶癖面を有していた(Fig.2(a))。一方で,5TiC合金でも15TiC合金と同様にTiCの周りにはFe母相および共晶組織が観察された。5TiC合金のTiCの体積率は8%であった。また,15TiC合金と同様に初晶TiCには方位変化はほとんど認められないものの,共晶組織中のTiCには若干の方位変化が認められた(Fig.2(b))。5TiC合金の初晶TiCの晶癖面は{001}TiCであった(Fig.2(c))。これは15TiC合金における初晶TiCのファセット部の晶癖面と同じである。また,初晶TiCの周りのTiCの晶癖面は,{011}TiCのトレースと常に平行であるため,{011}TiCと考えられる。ディープエッチングした試料の二次電子像(SEI)から,初晶TiCは立方体状であり,初晶TiCから液相に向かって成長した板状のTiCも認められた(Fig.2(d))。この板状TiCは,立方体状の初晶TiCと同じ方位であったことから,初晶TiCから成長して形成したことが推測される(Fig.2(c, d))。共晶組織には,板状TiCおよびその先端から成長した針状TiCが観察された(Fig.2(e))。共晶組織中の板状TiCの晶癖面は初晶TiCから成長した板状TiCと同様に{011}TiCであった(Fig.2(f))。また,針状TiC同士のなす角はほぼ90°であった(Fig.2(e))。IPFマップにおいて点状のTiCは試料面法線方向に成長した針状TiCと考えられ,その針状TiCの方位は{001}TiCに近かった(Fig.2(c))。したがって,針状TiCの優先成長方向は<001>TiCであると考えられる。

Fig. 2.

Microstructures of the as-cast 5TiC alloy: (a) BEI, (b) KAM map of the TiC, (c) IPF map together with <001> and <011> pole figures of the cubic shape TiC and plate shape TiC, where the numbers indicate the orientation of the habit planes corresponding to the TiC shown in (a, c), (d) SEI of the primary TiC and the plate shape TiC around the primary TiC of the deeply etched sample, (e) SEI of plate and needle shape TiCs in the eutectic region of the deeply etched sample, (f) bright-field image (BFI) taken from B = 111TiC and showing the TiC in the eutectic region, together with the selected-area diffraction pattern (SADP) taken from the plate shape TiC. (Onleine version in color.)

Fig.3は5Ti-2.5TiC合金の鋳造ままのミクロ組織である。初晶TiCと共晶TiCは15TiCや5TiCと同様にファセット状の晶癖面を有しており,TiCの体積率は5%であった(Fig.3(a))。一方で,Fe母相は非常に粗大であった。液相線投影図27)によると,5Ti-2.5TiC合金におけるFe相は共晶反応温度で BCC構造であり,冷却時に同素変態は起こらない。したがって,5TiC合金や15TiC合金のFe相よりもはるかに粗大になったと考えられる。一方で,初晶TiCの晶癖面は{001}TiCであった(Fig.3(b))。したがって,5Ti-2.5TiC合金の初晶TiCの形態も5TiC合金と同様に立方体状と推察される。また,共晶組織のTiCの晶癖面は{011}TiCであり,5TiC合金の板状TiCの晶癖面と同じであった(Fig.2(f)Fig.3(c, d))。

Fig. 3.

Microstructure of the as-cast 5Ti-2.5TiC alloy: (a) BEI, (b) IPF map of the corresponding area of (a), together with the <001> pole figure of cubic-like TiC, where the numbers indicate the orientation of habit planes, (c) dark-field image taken from g = 022TiC and showing the TiC phase in the eutectic region, (d) the SADP of the TiC shown in (c). (Onleine version in color.)

以上のことから,TiCを初晶とするFe-Ti-C三元系合金における凝固過程でのTiC相の晶出は,液相温度の高い凝固初期から順に,デンドライト状TiC,端部を{001}TiCの晶癖面とするデンドライト状TiC,{001}TiCの晶癖面を持つ立方体状TiC,{011}TiCの晶癖面を持つ板状TiC,<001>TiCの優先成長方向を持つ針状TiCであり,液相温度あるいはその時の液相組成によって形状が変化していることがわかった。

一般に,凝固ミクロ組織形態は,主に表面エネルギーの結晶学的異方性と成長速度によって制御される。特に,表面エネルギーと結晶形態の関係はγプロットによって議論される29,30)。比較的低温では,表面エネルギーの異方性の影響が大きく,ファセット状の晶癖面を有する。その形態は表面エネルギーの異方性により議論される。特定の温度温度(ラフニング温度)以上になるとエントロピー効果により表面エネルギーの異方性が弱くなり,異方性のある成長は生じるものの,結晶は晶癖面を持たなくなる。成長速度が形態を支配する場合も同様に,各面の成長速度の方位依存性により形態が決定される30)。例えば,FCC構造を有する金属のデンドライトの端部は{111}FCCに囲まれている。これは{111}FCCが最密面であり,表面エネルギーが最も低いためと解釈される3133)。その場合,成長方向は等価な4つの{111}FCC面で囲まれた<001>FCC方向が優勢になる34)

Fe-Ti-C三元系合金におけるB1型TiCの凝固過程でも,同様の現象が生じたものと考えられる。凝固初期では,液相の温度が十分に高い場合,エントロピー効果により表面エネルギーの異方性が弱いため成長速度が比較的等方的であり,TiCは不規則な表面形状を持つデンドライト状になったと考えられた。報告されている液相面投影図によると,初晶TiCは,15TiCでは約2100°C,5TiCでは約1600°Cから形成し,共晶反応が約1450°Cで生じる27)。したがって,約1600°C以上で形成されるTiCはデンドライト状になると考えられる。実際に,1600°C以上でTiCが形成するMo基合金中のTiCはデンドライト状である24,25,35)。凝固速度や組成は凝固ミクロ組織に影響する因子である。しかし,デンドライト状のTiCはアーク溶解のように比較的急速に冷却した場合24,25)にも徐冷した場合35)にも形成していたことから,凝固速度はデンドライト状のTiCの形成に大きく影響しないと推察される。また,Mo基合金のTiCは大きな非化学量論性を持ち,本研究のTiCは非化学量論性をほとんど持たないが,いずれもデンドライト状のTiCを高温で形成したため,TiCの組成もデンドライト状のTiCの形成に大きく影響しないと推察される。

凝固の進行に伴い,TiCのデンドライトの端部が{001}TiCの晶癖面を持つ,あるいは{001}TiCの晶癖面を持った立方体状の初晶TiCが形成された。B1型のTiCやTiNの結晶成長挙動は{001}と{111}の表面エネルギーの比によって変化し,{001}を晶癖面とする立方体状から{001}と{111}の両者を晶癖面とする14面体および{111}を晶癖面とする8面体となると報告されている36)Fig.4にB1型TiCの結晶構造および{011},{001},{111}各面内の原子配置を示す。{001}TiCはB1型TiCの最密面であり,{011}TiCや{111}TiCよりも低い表面エネルギーを示すことが報告されている37,38)。凝固の進行に伴い液相温度は徐々に低下していくはずであり,またそれに伴い液相の組成もわずかではあるが変化していく。これによってTiCの表面エネルギーの効果が徐々に強くなり,{001}TiCを晶癖面とするTiCの成長に変化したものと考えられる。なお,立方体状の初晶TiCが形成された5TiCと同程度の温度から形成するFeAl基複合材料においても,晶癖面の同定はなされていないものの,立方体状のTiCが形成することが報告されている20,21)。一方で,Al複合材料23)では14面体のTiCが形成されると報告されている。これらTiCの結晶成長挙動も上述した表面エネルギーに起因すると考えられる。

Fig. 4.

Structure of TiC: (a) unit cell, (b) atom arrangement of the (010) plane, (c) atom arrangement of the (110) plane, and (d) atom arrangement of the (111) planes. Only the (111) planes show stacking of the two layers. (Onleine version in color.)

液相温度や液相中の溶質元素濃度がさらに減少すると,{011}TiCの晶癖面を持つ板状TiCが形成された。{011}TiCの表面エネルギーは{001}TiCや{111}TiCよりも高いことが報告されている37,38)。この観点から,板状TiCの形成は,上述の表面エネルギーではなく,成長速度の異方性に強く影響されているのではないかと考えられた。成長速度は元素間の相互作用に影響される。Fe溶媒中におけるTi-Tiの相互作用力は正であるが,Ti-Cの相互作用力は強い負である39)。この相互作用は,液相中では,TiとCの原子は引き合い,互いに接近しやすいのに対し,Ti原子同士は反発しやすいことを示唆している。したがって,Tiのみから形成される方向の成長速度は,TiとCが混在する方向の成長速度より遅くなるはずである。<110>TiCはTiのみ,あるいはCのみで構成される唯一の方向である。そのため,<110>TiCの成長速度が最も遅くなると考えられ,その結果{011}TiCの晶癖面を持つ板状TiCが形成されたのではないかと考えられる。

さらに凝固が進むと,液相温度は一層低下する。その結果,過冷度が大きくなり,成長速度の異方性はさらに顕著になるものと考えられる。<001>TiCはTiとCが最近接位置にあるため,成長速度が最も速い方向になるはずである。そのため凝固の最終段階では,<001>TiCを優先成長方向とする針状TiCが形成したのではないかと推察した。

3・2 室温および800°Cにおける機械的性質

Fig.5は,15TiC合金, 5TiC合金および5Ti-2.5TiC合金の,室温での公称応力-塑性ひずみ曲線である。15TiC合金は弾性変形領域内で破断した。5TiC合金は降伏応力が約700 MPaであり,塑性ひずみが約1%,破断応力は約830 MPaであった。5Ti-2.5TiC合金になると降伏応力が約250 MPaに低下するが,塑性ひずみは約13%,破断応力は約500 MPaであった。室温引張試験後の破面と破面近傍の断面のミクロ組織をFig.6に示す。15TiC合金の破面の大半は平滑なデンドライト状TiCのへき開破壊で覆われていた(Fig.6(a))。したがって,クラックは主にデンドライト状TiCを伝播したと考えられる。5TiC合金の破断面には立方体状TiCが破壊せずに認められたことから(Fig.6(b)),立方体状TiCとFe相の界面剥離が生じたと考えられる。一方,5Ti-2.5TiC合金の破面の大半は,リバーパターンを持つFe相で占められていた(Fig.6(c))。クラックは波状であり,二次クラックの形成も認められた(Fig.6(d))。さらに一部のクラックの進展は,板状TiCで遮られている様子が観察された(Fig.6(e))。

Fig. 5.

Engineering stress-plastic strain curves of 5TiC, 15TiC, and 5Ti-2.5TiC at room temperature.

Fig. 6.

SE images showing the fractography of (a) 15TiC, (b) 5TiC (c) 5Ti-2.5TiC after tensile testing at room temperature, and BSE images of (d) a cross section of the fracture surface of 5Ti-2.5TiC and (e) the edge of the secondary crack shown in (d).

室温において,5TiC合金は塑性変形したものの塑性伸びは小さく,15TiC合金は塑性変形しなかった。そこでこれらの合金の高温変形挙動を調べるために,高温引張試験を行った。Fig.7に15TiC合金と5TiC合金の800°Cにおける公称応力-塑性ひずみ曲線を示す。15TiC合金は降伏応力約200 MPa,塑性ひずみ約1.5%で引張強さ約220 MPaを示した。その後,さらなる塑性ひずみの増加に伴い応力は急激に減少し,塑性ひずみ約10%で破断した。5TiC合金は降伏応力約90 MPa,塑性ひずみ約1.5%で引張強さ約105 MPaを示した。また,15TiC合金に比べ破断ひずみは大きく増加し,45%に達した。800°Cにおける両合金の破断ひずみは,室温における破断ひずみに比べてはるかに増加した。Fig.8に800°Cでの引張試験後の15TiC合金と5TiC合金の破面近傍の断面のミクロ組織およびKAM(Kerner average misorientation)マップを示す。15TiC合金のボイドやクラックは,主にデンドライト状TiCで観察された(Fig.8(a))。また,デンドライト状TiCでは,クラックの有無にかかわらず,鋳造ままでは認められなかった方位変化が生じていた(Fig.2(b)Fig.8(b))。したがって,15TiC合金の800°CではFe相の塑性変形に伴ってデンドライト状および板状TiCも塑性変形し,最大引張強さでTiCにクラックが発生し,急激な応力の低下が生じたと推察される。また,デンドライト状TiCのクラックは{001}TiCのトレースと平行であったことから,TiCのクラックは主に{001}TiCを伝播したと考えられる(Fig.8(c))。これは報告されているB1型炭化物の劈開面と一致する40,41)。一方5TiC合金では,Fe相にボイドやクラックが認められたが,立方体状TiCには認められなかった(Fig.8(d))。また,同視野のKAMマップに示されるように,板状TiCには大きな方位変化が生じていたが,立方体状TiCには方位変化は観察されなかった(Fig.2(b)Fig.8(e))。したがって,5TiC合金の800°Cにおける塑性変形は主にFe相と板状TiCで生じたと考えられる。

Fig. 7.

Engineering stress-plastic strain curves of 5TiC and 15TiC at 800°C.

Fig. 8.

Cross section of the fracture surface of (a, b) 15TiC and (c, d) 5TiC after tensile testing at 800ºC: (a, c) BEIs, (b, d) KAM map, (c) <001> pole figure of TiC with the crack indicated by “c” in (a, b). (Onleine version in color.)

デンドライト状の粗大なTiCを有する15TiC合金は,室温では弾性変形領域内で破壊した。これは,デンドライト状TiCが室温では塑性変形能が全く無いことを示している。一方で,デンドライト状TiCが形成しない5TiC合金や5Ti-2.5TiC合金では室温で塑性ひずみを示した。このことは,5TiC合金や5Ti-2.5TiC合金の室温における塑性変形は,Fe母相によるものであることを意味している。800°Cでは,15TiC合金は5TiC合金よりも高応力で降伏し,10%ほどの塑性ひずみを示した。また,デンドライト状および板状のTiC内で方位変化が確認された。このことは,800°Cでは,わずかではありながらもTiCの塑性変形能が発現している可能性を示唆している。一方で,5TiC合金の立方体状TiC内には方位変化が認められず,立方体状TiCは塑性変形にほとんど寄与しなかったことを示している。

4. 結言

アーク溶解鋳造法により作製したFe-Ti-C三元系モデル合金を用い,TiCの凝固ミクロ組織および機械的特性を調べた。以下に得られた知見をまとめる。

(1)高温で形成されたTiCはデンドライト状を呈していた。液相温度および液相中の溶質元素の濃度の低下に伴い,TiCの形態は{001}TiCの晶癖面を持つ立方体状TiC,{011}TiCの晶癖面を持つ板状TiC,<001>TiCの優先成長方向を持つ針状TiCへ変化した。

(2)TiCの形態は表面エネルギーの異方性とTiCの成長速度によって決定され,{001}TiCの晶癖面を持つ立方体状TiCは{001}TiCの表面エネルギーが最小であるため形成される一方,{011}TiCの晶癖面を持つ板状のTiCと<001>TiCの優先成長方向を持つ針状のTiCは,それぞれ最も遅い成長速度と最も速い成長速度を有するため形成されると考えられた。

(3)室温において,TiCには塑性変形能が無く,デンドライト状のTiCを有する15TiC合金は弾性変形域で破壊したが,800°Cでは,TiCがわずかではありながらも塑性変形能を発現している可能性が示唆された。

謝辞

本研究は日本鉄鋼協会 高温材料の高強度化研究会の支援を受けたことを付記し,謝意を表す。

文献
 
© 2023 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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