2024 年 110 巻 10 号 p. 721-730
In the lower part of the blast furnace, molten slag and iron accumulate in the coke packed bed and is drained from the tapping hole. However, if tapping rate is reduced, these melts accumulate and an increase in the gas pressure drop occurs. This leads to the furnace troubles such as raw materials hanging.
In this paper, the cause of the increase in gas pressure drop by the accumulation of melt was clarified phenomenologically using experiments of cold model and numerical simulation.
As the result, it was proven that the gas flow region shrinks due to the accumulation of the melt, and the gas flow velocity near the tuyere increases. In addition, a numerical simulation of an actual blast furnace showed that gas pressure drop increased rapidly when average liquid level was within 1 m from the tuyere. If average liquid level increases to the vicinity of the tuyere, the shape of molten slag surface changes by gas pressure gradient, and liquid level on the tuyere side descends. In other words, when gas pressure drop due to the accumulation of molten slag is rapidly increased in the actual blast furnace, it is preferable to reduce the blast volume and increase the amount of tapping rate as soon as possible.
鉄鋼業界の社会的義務は,鉄鋼製品を大量かつ安価に安定供給することである。鉄鋼製品の生産方法は,3つに分けられる。鉄スクラップを融解した後に製錬,加工する電炉法,高炉と呼ばれる大型溶鉱炉で鉄鉱石とコークスを原料として銑鉄を製造し,転炉で製錬する間接製鉄法,そして鉄鉱石を1つの炉で還元,製錬する直接製鉄法である。しかし,直接製鉄法ではエネルギー経済性,熱供給等の大きな課題があり1),現代では高炉による間接製鉄法を用いた製鉄が主流である。
高炉は鉄鉱石とコークスが羽口から吹き込まれる高温ガスによって昇温,融解,反応して溶銑を生成する装置である。現代まで,生産量の増加のために主に高炉の巨大化や高出銑比を目指したが,送風量や炉内圧の増大による原料の流動化2),投入熱量不足3)が原因となる操業トラブルの発生があった。そのため,高炉操業のトラブル回避を目的として,高炉オペレーターの操業支援,数値モデルの活用による炉内の見える化に関する技術の開発が行われてきた。過去に,高炉のシャフト圧力変動や原料スリップ発生の早期検知を目的として,ステーブ温度やシャフト圧力を2,3次元で可視化し,操業状態の監視を行った事例がある4,5)。また,広畑4高炉ではガス流分布および炉熱制御システムを構築し,その結果をグラフィックパターンとして見える化し,高炉の通気性悪化から生じる原料スリップを最小限に抑えた6)。更に,近年では高炉を固気相の向流層としてDEM-CFDでモデル化し,高炉内の粒子とガスの伝熱―運動―反応を数値計算する試みもされている7)。例えば,充填層の空隙を流動する微小粒子の詰まりによる通気性悪化の評価や8),コークスを混合した鉱石の反応性をダイレクトにモデリングする手法が開発されている9)。また,高炉内の気相,液相,固相に加えて粉相の流動をモデル化する4相流体モデルも開発されており,粉相による通気性の評価だけでなく,相間の熱交換を考慮した炉内の温度分布の計算も行われてきた10)。
以上に記した既往の研究は,主に高炉の中でも融着帯以上の領域を対象にしている。しかし,高炉内で最も高温高圧で直接的な計測が困難であり,炉況の把握と見える化が難しいのは高炉下部である。高炉下部に対してもトラブル回避を目的として,物理現象の解明や可視化技術が開発された事例はある。例えば,千葉6高炉では高炉底部のレンガの経年劣化状況を把握するため,炉底熱電対の温度測定結果からレンガ残存厚さを推算した11)。結果的に,高炉の改修時期を適切に予測できた。また,高炉底部に蓄積した溶融物が炉外へ排出されるまでの液流れをモデル化して炉底の熱負荷を評価した事例や12),高炉底部の空隙領域が出銑時間に与える影響を調査した事例13),高炉下部をVOF法とDEM-CFDでモデル化してコークス粒子と溶銑,溶融スラグの液流れを解析した事例が存在する14)。更に,溶融物の過剰な蓄積による高炉の操業停止を未然に防ぐため,溶融物の蓄積量をリアルタイムで直接的に測定する試みを行った事例もある15,16,17,18,19)。溶融物の蓄積は,出銑速度が低下することで発生し20),これは高炉下部コークス粒径の低下や21,22),出銑不良23),溶融スラグの粘度上昇24)が原因と考えられている。
しかし,前記の研究がある中でも,溶融物の過剰な蓄積は検知が難しい。従来,溶融物の炉内蓄積量は,高炉に装入される鉱石重量で推算される造銑滓量から,高炉外へ排出される出銑滓量を差し引く事で概算される。しかし,ロードセルの劣化や高炉内の鉱石反応効率の違いによる推定造銑滓量のズレ等が原因で,正確な蓄積量が把握できず,溶融物の過剰な蓄積を検知できない事がある。蓄積により溶融スラグで羽口を閉塞された場合,吹込み燃料の不完全燃焼や送風圧の変動に繋がる可能性がある25,26)。また,溶融物の蓄積は,高炉下部のガス圧力損失を増加させ,ガス流れ不良による棚吊りの原因となり得る2,6,20)。更に,高炉のガス流れ不良はガスによる固相原料の昇温,反応不足を引き起こし,溶銑温度の低下等の高炉の冷え込みに繋がるため,操業において必ず防がなければならない。
そこで本研究では,高炉下部のコークス充填層,溶融スラグ,ガス流れを模擬した冷間試験と数値モデルによる計算で,溶銑,溶融スラグの過剰な蓄積により生じるガス圧力損失の増加を再現し,その原因を調査した。更に,数値モデルで実高炉条件のシミュレーションを実施し,溶銑,溶融スラグの過剰な蓄積とガス圧力損失の傾向を定量的に評価した。最終的に,実高炉で過剰な蓄積が見られた場合の最適な操業方法を検討した。
Fig.1に本研究で用いた試験装置を示す。本装置は,高炉下部のガス流れと溶銑,溶融スラグの蓄積を模擬した試験を実施するために作製された冷間模型である。模型内を観察するため,模型の材質は塩化ビニルを用いた。また,高炉下部はコークス粒子の充填層が存在する27)。これを模擬するために,粒子を充填できる構造にした。また,高炉下部には羽口が存在し,コークス充填層に対して熱風を流入する。そのため,模型には羽口を模擬した円筒形のガス流入口を設置し,マスフローコントローラで任意の送風量に設定し,空気を流入できる構成にした。その際,ガス流入口前のガス圧力を測定するため,ガス圧力計を設置した。更に,高炉底部の溶銑,溶融スラグの蓄積を模擬するために,模型底部に入水管を設置した。ここからポンプを用いて,模型内へ一定流量で水を流入した。

Experimental apparatus which reproduces a blast furnace hearth.
本試験では,この装置に粒子を充填し,一定流量で送風しながら底部から水を60 mL/minの流量で流入させ,ガス流入口前のガス圧力を継続的に測定した。また,ビデオカメラで側面から模型内を連続的に撮影した。平均液面高さは入水量,模型の断面積,空隙率から計算し,液面形状はビデオカメラの映像から求めた。入水は,平均液面高さが175 mmまで上昇したタイミングで止め,試験終了とした。本試験で得られた結果を考察することで,溶銑,溶融スラグの蓄積に伴うガス圧力損失の増加が生じる原因を調査した。
2・2 無次元数を用いた試験条件の設定本節では,試験の送風量,充填粒子の粒径の決定方法について説明する。本試験では実高炉で見られる溶銑,溶融スラグの蓄積に伴う,高炉下部のガス圧力損失の増加を再現する必要がある。溶銑,溶融スラグは高炉底部に蓄積すると,両者は密度の大きな差によって下層に溶銑,上層に溶融スラグの不混和状態となる。その時,上層の溶融スラグは羽口からのガス吹込みにより,液面の形状が変化する28)。この場合,ガスの流動領域が変形し,ガス圧力分布も変化する。つまり,本試験ではガス圧力分布による液面形状の変形を考慮し,ガス流動領域の形状を実高炉と一致させる必要がある。そこで,液面形状の変化を実高炉と本試験で合わせるために,ガス流れにより変形した液面の傾斜の相似条件を検討した。
Fig.2に高炉下部に蓄積する溶融スラグの液面が,ガス圧力分布によって変形する模式図を示す。Fig.2において,点A,Bは液面上の任意の2点であり,点Bよりも点Aの方が高い位置に存在する。また,点Aにおけるガス圧力をPA(Pa),点Aにおける溶融スラグの液面高さをhA(m),点Bにおけるガス圧力をPB(Pa),点Bにおける溶融スラグの液面高さをhB(m),点AB間の距離を∆L(m),点AB間の高さ方向距離を∆h(m)としている。ここで,点AとBの間では,液体の力学的エネルギーが保存され,式(1)で示されるベルヌーイの定理が成り立つ。
| (1) |

Schematic diagram of the shape of molten slag surface and pressure drop on the liquid surface.
式(1)において,ρlは溶融スラグの密度(kg/m3),gは重力加速度(m/s2)を示している。その一方で,液面の傾斜度合いとして∆h/∆Lを考え,式(1)を液面の傾斜度合いで整理すると式(2)を導出できる。
| (2) |
ここで,式(2)の(PB-PA)/∆Lは充填層のガス圧力損失を示しており,Ergunの式(3)で計算できる29)。
| (3) |
式(3)において,εは充填層の空隙率(-),μgはガス粘度(Pa・s),vはガス流速(m/s),Dpは充填粒子の粒径(m),ρgはガス密度(kg/m3)を示している。ここで,式(2)に式(3)を代入する事で得られる無次元圧力損失PDを式(4)で定義する。
| (4) |
本試験では,式(4)で計算されるPDが実高炉条件と一致するように粒径および送風量を設定することで,試験と実高炉で液面の傾斜度合いを合わせた。
次に,具体的な試験条件について記す。Table 1に試験条件と,試験条件のPDの計算の基にした実高炉の操業条件を示す。本試験では,#1から#4の4水準を実施した。また,このときに選定した実高炉条件は5000 m3級の大型高炉がトラブルなく操業されている時の操業諸元を用いた。#1,2は送風量6000 Nm3/minと7000 Nm3/minのPDと一致するように送風量を設定した水準である。また,#1,2では充填粒子として粒径3.44 mmのポリエチレン粒子を用いた。一方,#3,4は#1,2と同じ送風量として,充填粒子を粒径5.95 mmのポリ乳酸粒子へ変更した水準である。#3,4により,ガス圧力と模型内の液量に粒径が及ぼす影響を確認した。
| #1 | #2 | #3 | #4 | Blast furnace for #1 |
Blast furnace for #2 |
||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Gas volume | Nm3/min | 0.78 | 0.65 | 0.78 | 0.65 | 7000 | 6000 |
| Void fraction | − | 0.34 | 0.34 | 0.35 | 0.35 | 0.33 | 0.33 |
| Particle diameter | mm | 3.44 | 3.44 | 5.95 | 5.95 | 32.5 | 32.5 |
| PD | − | 0.21 | 0.15 | 0.10 | 0.07 | 0.21 | 0.15 |
Fig.3に,#1から#4で得られたガス流入口前のガス圧力と平均液面高さの関係を示す。全ての水準の結果より,液面高さの上昇に伴い,ガス圧力は増加した。ガス圧力の増加は,液面高さの上昇に伴い線形的に増加していくのではなく,液面高さの上昇に伴い増加量が増えた。

Experimental results of the relationship between gas pressure and average liquid level.
次に,Fig.3の水準毎の比較を行う。#1,2間および#3,4間の結果に着目すると,送風量が多い#1,3の方がガス圧力が高くなった。また,#1,3間および#2,4間の結果より,粒径が小さくなると,ガス圧力が増加した。つまりガス圧力と送風量,粒径の関係に関しては,式(3)のErgun式に従うような特性を示している。
一方,Fig.4には,#1から#4の水準で平均液面高さが50 mmと175 mmの時の液面形状を示す。全ての水準の結果より,液面高さの上昇に伴い,液面形状の変化が大きくなった。具体的に説明すると,ガス流入口に最も近い位置の液面は低く,遠ざかるほど液面は上昇していく傾向が大きくなった。

Experimental results of the shape of liquid surface in each condition.
次に#1,3間および#2,4間の結果に着目すると,粒径が小さくなると,液面形状の変化が大きくなった。液面上では式(1)が成り立つため,ガス圧力が高い面では液面高さが低くなる。つまり,粒径の低下によりガス流入口前のガス圧力が上昇し,模型内でガス圧力の勾配がより大きくなったと考えられる。
2・4 試験結果の考察Fig.4に示した液面形状の試験結果から,式(4)で定義した無次元圧力損失PDが液面形状の傾斜度合いに相当する無次元数であるか検証する。#1から#4において,各水準で設定した無次元圧力損失PDと,平均液面高さが175 mmの時で,液面形状の傾きの平均値から得た∆h/∆Lを比較した結果をFig.5に示す。両者の値は概ね一致したが,#2,3,4は実測値の方が大きかった。この原因として,PDの計算のガス流速に,模型高さ方向のガス流速を用いた事が挙げられる。本来,PDに用いられるべきガス流速は,液面上のガス流速である。また,液面上のガス流速には分布が存在しており,ガス流入口から遠ざかるほど低下するはずである。そのため,液面形状の傾斜度合にも分布が存在している事になる。つまり,液面上のガス流速の平均値を用いれば,試験結果と計算の∆h/∆Lはより近づくはずである。ただし,Fig.5に示す両者の値は同等であり,設定したPDと試験結果の∆h/∆Lは傾向が一致しているため,PDが液面形状の傾斜度合いに相当する無次元数であると考えられる。

Comparison of the average slope of liquid surface between experimental and calculated results.
次に,本試験で得られた考察を深め,液面高さの上昇に伴いガス圧力が増加する原因の現象論的な調査を実施するため,ガス圧力分布と液面形状の相互作用を計算できる2次元数値モデルを開発した。
2・4・1 数値モデルの支配方程式Fig.6に数値モデルの概要を示す。本モデルでは,ガス圧力分布と液面形状の2つを別々に定式化した。ガス圧力分布の計算については,式(3)のErgun式を多成分化した式(5)に加え,式(6)の連続の式,式(7)の理想気体の状態方程式を連立して求めた。
| (5) |
| (6) |
| (7) |

Schematic diagram of the developed numerical simulation. (Online version in color.)
この時,ガス流線の分布も同時に計算し,ガス流れの軌跡を可視化した。一方,液面形状の計算は,ガス圧力分布からベルヌーイの定理より液面上でエネルギー保存の式(8)が常に成立すると仮定して,液面高さの分布を算出した。
| (8) |
式(5)(6)(7)を解く際の境界条件について説明する。模型の壁沿いと液面上はガスが透過しないため,境界の垂直方向のガス流速が0となるようにした。また,模型上端のガス流速は,常に送風量を模型上端のz方向断面積で割った値にした。ガス流入口のガス流入領域に関しては,送風量を模型幅とグリッド1つあたりの長さで構成される断面積で割って得られる流速に設定し,模型と数値モデルで同じ送風量にした。
次に,計算手順に関して説明する。今回はガス圧力分布と液面形状の変化を同時に考慮した計算を実施する。そのために,Fig.6に示すように,ガス流れ計算を実施してガス圧力分布を算出し,その結果を用いて液面形状を算出する。その後,液面形状の変化によりガス流れの境界条件が変わるため,再度ガス圧力分布を算出する。前記のように繰り返し計算を実施し,液面高さの分布を収束させる数値モデルとした。
また,今回は#1から#4の4水準のうち,#1,2の結果を数値モデルで再現して考察を進める事とした。#1,2と#3,4はガス流入口前のガス圧力と平均液面高さ,または液面形状の変化と平均液面高さの傾向は同じである。つまり,ガス圧力と液面高さの関係に関する物理現象は,#1,2と#3,4で同じであると考えられるため,#1,2のみの再現でも十分考察に値する。計算に用いた主なパラメータをTable 2に示す。これは,試験の#1,2で設定したパラメータであり,数値モデルでも用いた。
| #1 | #2 | ||
|---|---|---|---|
| Mesh size | mm×mm | 30×30 | |
| Number of meshes | − | 14×28 | |
| Gas volume | Nm3/min | 0.78 | 0.65 |
| Gas pressure at the top | kPa | 101.33 | |
| Void fraction | − | 0.34 | |
| Particle diameter | mm | 3.44 | |
| Liquid density | kg/m3 | 1000 | |
| Liquid level※ | mm | 0 – 175※ |
※Increase every 25 mm.
開発した数値モデルの妥当性を確認するために,#1,2の試験結果と数値モデルの結果を比較した。Fig.7には平均液面高さに対するガス流入口前のガス圧力,Fig.8には#1における液面形状を示す。Fig.7でプロットは試験,実線は数値モデルの計算結果を示しており,両者の値は概ね一致した。しかし,数値モデルの充填層は流入した水の影響を受けない固定層と仮定したため,充填粒子が水から受ける浮力は考慮されていない。本試験で用いた充填粒子の密度は922 kg/m3であり,常温の水よりも少し軽い。つまり,試験では水量の増加に伴い,水からの浮力を受ける充填粒子が増え,充填層の空隙率は少しずつ減少していくと考えられる。実際にFig.7に示す通り,水量の増加に伴うガス圧力の上昇量は,計算結果はある平均液面高さから増加したが,試験結果は連続的に増加した。ただし,浮力を考慮しない数値モデルだが,ガス流入口前のガス圧力の値と増加量は試験結果と計算結果で同等であった。つまり,本数値モデルは,ガス圧力分布と液面高さの関係を考察するに値するモデルであると判断した。

Comparison of gas pressure between experimental and calculated results.

Comparison of the shape of liquid surface between experimental and calculated results.
次に,液面高さの上昇に伴うガス圧力の増加を考察する。水準#1の計算における,液面高さが50 mmと175 mmの時の流線をFig.9に,ガス圧力分布をFig.10に示す。Fig.9より,液面高さの上昇に伴い,ガス流入口より下部のガス流れ領域が縮小しており,ガス流入口付近での流線が密になった。Fig.10でも,液面高さの上昇に伴い,ガス流入口高さ付近のみガス圧力が増加した事が示されている。つまり,液面高さがガス流入口高さまで上昇する事で,ガス流入口から下へ流れるガスが遮断され,半径方向および上方向へ流れるガス量が増加した。Fig.11にガス流入口近傍ガス流速の平均値と平均液面高さの関係を示す。Fig.11の結果から,液面高さの上昇に伴い,ガス流入口近傍のガス流速が急激に上昇した。つまり,液面高さの上昇に伴い,下方向へ流れるガス量が減り,ガス流入口近傍のガス流速が増加したことが,ガス圧力が急増した原因であると考えられる。

Calculated gas streamline of experiment #1 at average liquid level 50 or 175 mm.

Distribution of calculated gas pressure of experiment #1 at average liquid level 50 or 175 mm.

Calculated result of gas velocity near the gas hole.
溶銑,溶融スラグの蓄積に伴うガス圧力損失の増加について,開発した数値モデルを用いて実高炉スケールで計算を実施した。その結果から,溶銑,溶融スラグの過剰な蓄積が生じた場合の最適な操業方法を検討した。
Fig.12に,計算に用いた実高炉の模式図を示す。本計算では,5000 m3級の大型高炉の下部をモデル化する。羽口より下は出銑孔が存在する高さ方向4.8 mまでモデル化し,上部は高さ7.7 mまでをモデル化した。また,羽口前にはレースウェイが存在する。これを模擬するために,Hatanoらが提案したレースウェイ深度の推定式を用いてレースウェイサイズを見積もり30),1.5 m×1.5 mの高い空隙率の領域をレースウェイとして考えた。

Schematic diagram of blast furnace used in the calculation of actual blast furnace condition.
次に,Table 3に本計算の計算条件を示す。これは,5000 m3級の大型高炉の通常操業時の条件を模擬している。今回は,送風量,コークス充填層の空隙率,コークス粒径をTable 3に記した範囲内で変化させた。Table 3に示したコークス粒径は,実高炉の下部でサンプリングされたコークスと同等の値に設定した31,32)。また,上端ガス圧力は,本モデルの計算領域において,最も上の境界のガス圧力を示している。更に,実高炉では充填粒子径が冷間試験よりも大きいため,壁面における空隙率が上昇する壁効果が顕著になると考えられる。今回は,式(9)で示される推定式を用いて壁効果を考慮し,壁面における空隙率は0.45と設定した33)。
| (9) |
| Gas volume※ | Nm3/min | 6000 − 7000 |
| Void fraction※ | − | 0.30 − 0.35 |
| Coke particle diameter※ | mm | 30 − 35 |
| Void fraction in raceway | − | 0.70 |
| Average temperature | K | 2073 |
| Gas pressure at the top | kPa | 405.3 |
| Liquid slag density | kg/m3 | 2650 |
| Mesh size | m×m | 0.5×0.5 |
| Number of meshes | − | 18×26 |
| Liquid level※ | m | 0.25 − 4.75※ |
※Changed parameters.
式(9)において,rは高炉中心からの半径方向距離(m),Rは高炉高さ方向断面の半径(m)を示している。この条件で,溶融スラグの液面高さを上昇させてガス圧力分布と溶融スラグの液面形状を計算した。
3・2 計算結果Fig.13に送風量7000 Nm3/min,空隙率0.325,粒径32.5 mmの計算条件で,液面高さが0.25 mと4.75 mの時のガス圧力分布および溶融スラグの液面形状を示す。冷間試験時と同様に,羽口前のガス圧力は溶融スラグの液面高さの上昇に伴い増加した。Fig.13に,送風量7000 Nm3/min,空隙率0.325,粒径32.5 mmの条件(Base)と,送風量,空隙率,コークス粒径を変化させた時の平均液面高さとガス圧力損失の関係を示す。ガス圧力損失は,羽口先のガス圧力と上端ガス圧力の差を,高さ方向距離である7.7 mで割った値である。

Distribution of calculated gas pressure at average liquid level 0.25 or 4.75 m, gas volume 7000 Nm3/min, void fraction 0.325 and coke particle diameter 32.5 mm.
Fig.13より,冷間試験結果と同様に,溶銑,溶融スラグの蓄積量が増え,平均液面高さの上昇に伴い,ガス圧力損失は増加した。更に,全ての計算条件において,平均液面高さが羽口高さの1 m以内まで上昇した場合,ガス圧力損失は急激に増加した。この結果から,コークス粒径,空隙率の値に関わらず,溶銑または溶融スラグが羽口高さ近傍まで蓄積することで,高炉下部のガス圧力損失は急激に増加すると考えられる。

Relationship between average liquid level and calculated pressure drop.
また,Fig.15に平均液面高さに対する液面形状の計算結果を示す。液面高さが羽口よりも十分低い0.25 mから3.25 mの場合,液面形状の変化は極めて小さく,ほぼ平坦である。しかし,平均液面高さが4.25 mまたは4.75 mの場合,炉壁側と炉中心側の液面高さの差は0.19 mと0.38 mとなり,液面形状の変化が大きかった。

Calculated result of shape of molten slag surface at base condition; gas volume 7000 Nm3/min, void fraction 0.325 and coke particle diameter 32.5 mm.
Fig.13の計算結果について考察する。液面高さが羽口高さ1 m以内まで上昇した時,ガス圧力が急増する理由として,冷間試験と同様に,羽口前のガス流れのうち下方向へ流動するガスが減少した事が原因と考えられる。Fig.16に,平均液面高さが0.25 mと4.75 mの時の流線を示す。平均液面高さが上昇する事で,羽口から吹き込まれて下方向へ流れていたガスが減少した。つまり,実高炉で送風量を変えていないにも関わらず高炉下部のガス圧力損失が急増した場合,溶銑と溶融スラグが羽口高さ1 m以内まで上昇した可能性がある。しかし,もし溶融スラグの密度が変化すると,液面形状の傾斜度合いが変化し,ガス圧力損失の急増タイミングが変わると考えられる。例えば,溶融スラグの密度が低下した場合,式(4)で計算されるPDが大きくなり,ガス圧力分布に伴う液面形状の傾斜度合いが増加する。この場合,傾斜で羽口前の液面高さがより低くなるため,羽口近傍の平均空隙率が増加する。これは,結果としてガス圧力の上昇が起きづらくなると考えられる。実際に,Fig.7に示した冷間模型の結果を見ると,溶融スラグよりも密度が小さい水を用いたため,ガス圧力の急増した時の平均液面高さは実高炉条件の計算と比較して,より羽口に近い位置まで液面が上昇している。つまり,溶融スラグの密度が極端に低下した場合,高炉下部のガス圧力損失の急増は,液面高さが1 mより羽口に近い位置まで上昇していると考えられる。

Calculated gas streamline at average liquid level 0.25 or 4.75 m, gas volume 7000 Nm3/min, void fraction 0.325 and coke particle diameter 32.5 mm.
次に,Fig.15に示した液面形状の計算結果について考察する。本計算では,モデル下端の位置に出銑孔が存在すると仮定している。Nishiokaらの計算結果では,出銑孔の穴詰まりが無く,充填層の空隙率が0.30でコークス粒径が15から60 mmの場合,溶銑,溶融スラグの最大液面高さは3 mにも満たないと示されている34)。更にNouchiらの計算結果では,コークス粒径が27 mmの場合,空隙率が0.30以上に保たれていれば,溶銑,溶融スラグの最大液面高さは3 m以下であると示されている24)。つまり,融着帯よりも下部におけるコークスの粒径が十分大きく,ガス流れや出銑滓が良好に保たれている場合,液面高さは羽口よりも十分低い位置に存在し,ガス流れによる溶融スラグの液面形状はほぼ変化しないと考えられる。
以上の計算結果を踏まえて,溶銑,溶融スラグの過剰蓄積が見られた場合の高炉操業方法について考えてみる。この時に取るべき操業方法としては,①送風量低減による溶銑,溶融スラグ生成量の低下,②出銑孔拡大などの排出量の増加,の何れかを実施し,溶銑,溶融スラグの蓄積量を低減することが効果的である。しかし,ガス圧力損失の急増が発生してから送風量低減までの時間が経過していると,送風量の低下時に液面形状がフラットになり,羽口と溶融スラグが接触する可能性がある。つまり,ガス圧力損失の急増が発生した場合は速やかに送風量を低減し,かつ蓄積している溶銑と溶融スラグを多量に排出することで液面高さを下げる事が必要である。
高炉操業において,高炉底部に存在する溶銑,溶融スラグの過剰な蓄積により,ガス圧力損失が増加する現象のメカニズムを解明し,その対策を検討した。その結果,以下の知見を得た。
(1)冷間試験で,高炉下部を模擬した充填層に底部の液面高さを上昇させながらガス圧力を測定した。その結果,液面高さの増加に伴い,ガス流入口前のガス圧力が増加した。また,液面高さが上昇するほど,液面形状が大きく変化した。
(2)冷間試験の結果を考察するために,ガス圧力と液面形状を同時に解析する2次元数値モデルを開発した。その結果,液面高さの上昇に伴いガス圧力が増加する理由として,ガスの流動領域が収縮する事で,ガス流入口から下方向へガスが流れなくなり,その他の方向のガス流速が上昇した事が原因と考えられる。
(3)開発した数値モデルを用いて,実高炉スケールの計算を実施した。その結果,液面高さが羽口高さ1 m以内まで上昇した場合,高炉下部のガス圧力損失が急激に増加した。つまり,高炉操業において,溶銑,溶融スラグの蓄積が原因とみられるガス圧力損失の増加が見られた場合,速やかに送風量の低減等による造銑量の低下や出銑孔の拡大等による出銑量の増加を実施し,液面高さを下げる事が必要である。