鉄と鋼
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巻頭言
「インフラ構造物の腐食劣化に対する診断技術・評価技術・データ利活用技術」特集号発刊に寄せて
片山 英樹
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2024 年 110 巻 15 号 p. 1165

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日本における道路橋の約半数は,高度経済成長を背景に1970年代までに竣工されており,近年,高経年化による損傷や劣化の問題が顕著になっている。インフラの老朽化対策に対する社会的な関心は,2012年12月に発生した笹子トンネルの天井板崩落事故を契機に急速に高まり,2014年には道路法施行規則の一部が改正された。改正の要点は,「国が定める統一基準に基づき,5年に1度の近接目視による点検を義務付けること」,「点検・診断結果を記録・保存すること」,「健全性の診断結果を統一的な尺度で分類すること」にあり,2020年9月に国土交通省道路局から1巡目の点検結果が報告された。報告書では,点検を実施したすべての橋梁が区分I;健全,区分II;予防保全段階,区分III;早期措置段階,区分IV;緊急措置段階の4つに分類され,その割合は区分I;41%,区分II;49%,区分III;10%,区分IV;0.1%という結果であった。一方,これらに対する修繕については,区分IIでは全体の2%程度にとどまっており,区分IIIや区分IVに比べて低い水準となっていた。これについては,橋梁を含むインフラの多くを地方自治体が管理しており,専門人材の不足や維持管理コストの増大という課題を抱える中で,区分IIの橋梁を対象にする余裕がないことが要因として考えられる。しかしながら,従来のような大規模な損傷が発生してから修繕を行う「事後保全型」の維持管理を続けた場合,予防保全型の維持管理に転換した場合に比べて約2倍のコストがかかると試算されており,予防保全型維持管理への転換が急務となっている。このような状況の中での対応策の一つとして,余寿命予測可能な低コストで客観的かつ定量的な劣化診断・評価技術の開発が挙げられ,こうした背景から,2021年に日本鉄鋼協会に「インフラ劣化診断のためのデータサイエンス」研究会を発足させた。

本研究会では,インフラ構造物の腐食劣化状態を把握するための劣化診断・評価技術として,「表界面解析」,「電気化学解析」,「画像解析」の3つのアプローチで評価可能な指標を検討した。さらに,データの利活用技術についても検討し,機械学習などを活用した研究も進めた。また,各指標の関連性を見出すために,屋外腐食試験を行った共通暴露試験片を用いた研究活動も行い,これまでに鉄鋼協会講演大会で5回のシンポジウムを開催するなど多くの成果を挙げた。今回の鉄と鋼の特集号「インフラ構造物の腐食劣化に対する診断技術・評価技術・データ利活用技術」では,研究会で得られた成果のみならず関連する最新の研究を幅広く募り,9報の論文が集まった。読者の皆様には,これらの論文をぜひともご一読いただき,ご意見・ご指導を賜りたい。

最後に,本特集号の執筆者の皆様,ならびに特集号を刊行するにあたり多大なご尽力をいただいた日本鉄鋼協会および編集委員会の皆様に,心より感謝申し上げる。

 
© 2024 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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