2025 年 111 巻 12 号 p. 720-727
Reduced Multicomponent Calcium Ferrite was analyzed using STEM-EDS (scanning transmission electron microscope - energy dispersive spectrometer) and 3DAP (three-dimensional atom probe) in order to clarify the reducibility of SFCA (silico-ferrites of calcium and aluminum) based on the microstructure analysis. The morphological observation and crystal structure analysis using STEM-EDS and electron diffraction revealed that the amorphous Ca–Si–O oxides, spinel phase (Fe,Mg)(Fe,Al)2O4 and brownmillerite phase (Ca,Fe)2(Fe,Al)2O5 were formed in the metallic iron obtained by the reduction of SFCA. Since the relatively reducible spinel phase was observed after reduction, it is suggested that the formation of spinel phase (Fe,Mg)(Fe,Al)2O4 by the dissolution of Mg into spinel phase affect the reducibility of SFCA. It was also found that each oxide was dispersed in metallic iron in granular form, either singly or in complex form. The three-dimensional analysis by performing 3DAP clarified that the presence of the Fe–O enriched region with a width of about 2 nm existed at the interface between amorphous Ca–Si–O oxide and metallic iron. This result suggests that the morphology of amorphous Ca–Si–O oxides affect the reducibility of SFCA.
近年,鉄鋼業においてはCO2排出量の削減が喫緊の課題であり,高炉の主原料である焼結鉱についても優れた被還元性が求められている。焼結鉱の被還元性は焼結鉱を構成する鉱物相や空孔といった焼結鉱組織と強く相関することが知られており1,2,3,4),被還元性に優れた焼結鉱の製造には,これら組織の性状を正しく理解することが重要である。焼結鉱を構成する鉱物相の一つにカルシウムフェライトが挙げられ,一般的な焼結鉱中ではSFCA(silico-ferrites of calcium and aluminum)と呼ばれる脈石成分を固溶した多成分系カルシウムフェライトとして5)存在している。SFCAはヘマタイトやマグネタイトといった酸化鉄に次いで多く含まれており1),焼結反応時には融液として存在することで鉱物相間を融着するための組織として振舞うため,その結晶構造や物性について多くの研究が実施されてきた6,7,8,9)。被還元性についても多くの報告があり1,2,10,11,12),例えばSatoら1)は光学顕微鏡観察と還元試験結果からSFCA量が増加すると被還元性が向上することを報告している。またSakamotoら2)は,種々のSFCAを含む焼結鉱組織を合成することで,その形態や周囲組織がSFCAの被還元性に影響を及ぼすことを示している。さらに近年の解析技術の向上と共に, X線分析法を用いたSFCAの還元形態の調査も積極的に行われている10,11,12)。Muraoら10)は,900°C水素ガス環境下で,試薬から合成されたSFCAの還元挙動を高温X線回折(XRD:X-ray diffraction)およびin situ XAFS(X-ray absorption fine structure)を適用し,SFCAはSpinel構造(Fe3O4)およびPyroxene構造(Ca(Fe,Ca)(Fe,Al,Si)2O6)に分解され,Spinel構造は比較的速やかに還元が進行する一方で,Pyroxene構造は難還元組織Ca2(Fe,Al)2O5が生成することを示している。さらに,Murao11)らは,CO/CO2ガス環境下で還元された焼結鉱の各還元段階での組織変化をXRF(X-ray Fluorescence)とXAFSによる元素および化学状態マップと,X線回折により調査し,還元の初期段階ではSFCA中のFe3+が,Fe2++Fe3+に還元されることや,還元に伴うSFCAの相分解により酸化物が微細粒化することを示している。また,いずれの還元段階においても酸化鉄よりもSFCAの方が還元しにくいことも示している。また,Maruokaら12)は800°Cまでの高温X線回折を用いてSFCAをSFCA構造とSFCA-I構造に細分化した解析を実施し,水素ガスを含んだ混合ガス環境下においてSFCA-I構造がより被還元性に優れることを報告している。
このように,光学顕微鏡オーダーの還元組織形態観察1,2),X線を用いたカルシウムフェライト還元形態の報告例10,11,12)は数多くある一方で,還元反応時のミクロ組織変化に着目した例は少ない。特に,還元反応の素過程である酸素の移動を反映していると考えられる反応後酸化物相と金属相間の元素分配挙動については十分に解明が進んでおらず,SFCAの微視的な構造解明に基づく新たな知見を得ることで,被還元性の更なる向上につながることが期待される。そこで本研究ではSFCAの被還元性をミクロ組織の観点から明らかにすることを目的とし,焼結鉱および還元後焼結鉱中から得られたSFCAについて,走査透過型電子顕微鏡(STEM:scanning transmission electron microscope)および3次元アトムプローブ(3DAP:three-dimensional atom probe)による組織解析を適用し,還元時の元素分配挙動を解析した。
Table 1に本研究で使用した焼結鉱の化学組成を示す。還元後焼結鉱は,Table 1の焼結鉱を,還元ガス雰囲気を31%CO–19%H2–50%N2,還元ガスの流速を17 NL/min の条件で,800°Cで3時間保持することで作製した。還元前後の焼結鉱の重量変化から還元率を求めたところ,約87%であった。得られた焼結鉱および還元後焼結鉱については,19–21 mm程度の粒径のものを供試材として採取し,BUEHLER社製自動精密切断機アイソメットで半割した。その後,切断面が観察面となるように,試料を透明エポキシ樹脂で包埋した後,機械研磨を行った。
| T.Fe | CaO | SiO2 | Al2O3 | MgO |
|---|---|---|---|---|
| 59.42 | 9.21 | 3.49 | 1.41 | 1.58 |
焼結鉱および還元後焼結鉱の組織観察には走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)JEOL社製JSM-7200Fを用いた。加速電圧を5 kVとし,反射電子像によって焼結鉱組織の組成情報を得た。
還元後焼結鉱中の元素分配挙動調査には前述のSTEMのエネルギー分散型X線分光法(EDS:energy dispersive spectrometer)と3DAPを用いた。試料の組織観察から還元後のSFCAを選別し,収束イオンビーム(FIB:focused ion beam)装置を用いて,STEM-EDS測定用の薄膜試料と3DAP測定用の針状試料を作製した。尚,本検討では結晶構造や脈石成分に基づいたSFCAの詳細な分類は行っておらず,多成分系カルシウムフェライトの総称としてSFCAと記載している。STEM-EDS分析にはThermo Fisher Scientific(旧FEI)社製Talos F200Xを用い,SFCAの明視野(BF:bright field)-STEM像,高角散乱環状暗視野(HAADF:high angle annular dark field)-STEM像,STEM-EDSマップおよび各構成相の電子回折測定を行うことにより,還元後SFCAの形態,構造,組成を確認した。またSFCAおよび周辺組織の3次元組成分布を把握するため,3DAP測定を実施した。測定にはCAMECA社製EIKOS-UVを用い,レーザーパルスモードでパルスレート200 kHz,パルスエネルギー7 nJ,レーザー波長355 nmとした。
Fig.1に本研究で使用した還元前後の焼結鉱試料のSEM観察結果を示す。Fig.1(a)および(c)はそれぞれ還元前焼結鉱と還元後焼結鉱をSEM観察して得られた反射電子像であり,Fig.1(b)および(d)はそれぞれFig.1(a)および(c)中の破線領域を拡大したものである。Fig.1(a)の組織形態および反射電子像のコントラストから,観察視野はSFCAと酸化鉄が共存する領域である。さらにFig.1(b)が示すように本研究で観察した範囲における焼結鉱中SFCAは概ね均質な組織を呈している。次にFig.1(c)の組織形態および反射電子像のコントラストに着目すると,今回の還元後焼結鉱組織内には金属鉄殻で覆われ内部が疎な金属鉄と針状或いは柱状の金属鉄が生成していた。さらにFig.1(d)に示すように針状或いは柱状の金属鉄の内部には数百 nm程度の粒状の酸化物が存在した。ここでMaeda and Ono3)によってマグネタイトが金属鉄に還元する際に鉄殻で覆われたウスタイトを経由すると報告されていることから,Fig.1(c)中の金属鉄殻で覆われた相はマグネタイトが還元されて生成した金属鉄(Iron(Iron oxide))であると考えられる。また針状或いは柱状の金属鉄は組織形態からSFCAが還元されて生成した金属鉄(Iron(SFCA))であることがわかる。以上のことから,本研究の還元条件で得られた還元後焼結鉱はマグネタイトやSFCAといった鉱物相によらず,おおむね金属鉄まで還元しているが,SFCAを還元して得られる金属鉄内部には数百nm程度の粒状の酸化物が残存することがわかった。

Microstructures of Sintered Ore (a), (b) before reduction and (c), (d) after reduction [Iron (Iron oxide)]: Reduced Iron oxide, [Iron (SFCA)]: Reduced SFCA.
還元後のSFCAの組織形態を詳細に調べるため,FIBを使って還元後のSFCAから薄膜試料を作製し,STEM-EDS測定をした。Fig.2に薄膜試料全体のBF-STEM像,HAADF-STEM像および,STEM-EDSマッピング結果を示す。ここで,マップ上でCが多い箇所は,SFCAの空隙内に充填された樹脂埋め用の樹脂によるものである。マッピング結果から今回得られた還元後のSFCAは金属鉄と多数の粒状の酸化物からなり,その酸化物は主としてCa,Si,AlおよびMgを含むことがわかる。

BF- and HAADF-STEM images and corresponding EDS maps of SFCA. (Online version in color.)
次に特徴的な粒状の酸化物に対し,さらに高倍率でSTEM-EDSマッピングして得られた結果をFig.3に示す。Fig.3(a)はCa–Si–O酸化物,Fig.3(b)はCa–Si–O酸化物とFe–Mg–Al–O酸化物とFe–Ca–Al–O酸化物が混在した粒状の酸化物の元素重ね合わせマップである。Fig.3(a)に示すCa–Si–O酸化物は,20 nmから100 nm程度の球状或いは,丸みを帯びた細長い帯状の微細析出物であり,SFCAを還元して得られた金属鉄中に最も多く分散していた。Fig.3(b)に示す粒状の酸化物はCa–Si–O酸化物と比べて数は少ないものの金属鉄中に分散しており,Fe–Mg–Al–O酸化物とFe–Ca–Al–O酸化物からなる比較的大きな粒状酸化物の内部に,数十nm程度の球状のCa–Si–O酸化物,外周部に帯状のCa–Si–O酸化物を有していた。さらにFig.3(c)にFig.3(a)および(b)中の1から4で示した領域から得られた各粒状酸化物の組成比を示す。Ca–Si–O酸化物はCaが主体の酸化物であり,100 nm程度の比較的粗大なものにはFeが含まれない一方で,20 nm程度の微細なものにはFeが含まれていた。ただし,この組成分析結果については周囲の金属鉄が影響している可能性があり,3・3節においてさらなる詳細調査を行う。Fe–Mg–Al–O酸化物はMgよりもFeとAlが多く,Fe–Ca–Al–O酸化物はCa主体でFeとAlは同程度含まれている。

(a), (b) STEM-EDS maps of slag in reduced SFCA and (c) composition of the regions 1 to 4 in (a), (b). (Online version in color.)
続いて粒状酸化物の結晶構造を解析した。Fig.4に各粒状の酸化物の電子線回折図形を示す。電子線回折図形からCa–Si–O酸化物は非晶質,Fe–Mg–Al–O酸化物はSpinel構造,Fe–Ca–Al–O酸化物はBrow nmillerite構造であった。以上の結果をまとめると,本研究で使用した還元後焼結鉱は,比較的高い還元率であるため,酸化鉄の大部分が金属鉄まで還元されており,SFCAを還元して得られた相は金属鉄と,非晶質Ca–Si–O酸化物,Spinel構造SFCAを還元して得られた相は金属鉄と,非晶質Ca–Si–O酸化物,Spinel構造(Fe,Mg)(Fe,Al)2O4およびBrow nmillerite構造(Ca,Fe)2(Fe,Al)2O5であることがわかった。

(b) a nano-beam electron diffraction pattern of Ca–Si–O from the marked region in (a). (d) a nano-beam electron diffraction pattern of Fe–Mg–Al–O from the marked region in (c). (f) a nano-beam electron diffraction pattern of Fe–Ca–Al–O from the marked region in (e).
前節で述べたように非晶質Ca–Si–Oは100 nm以下の微細な酸化物であり,STEM-EDSでは周囲の金属鉄の影響を受け,酸化物中のFeを過剰評価する可能性がある。このため,非晶質Ca–Si–Oの元素分布を,3DAPを用いて測定した。測定において質量数72 Daの位置に確認されたピークは,56Feと16Oが結合したFeOが検出されたものであり,即ち72 Daの存在位置にはFe–Oが存在していたと言える。Fig.5および6に3DAPによって得られたマススペクトルから同定された元素の3次元構築像と3次元構築像中に示した円柱領域から得られた濃度プロファイルを示す。Fig.5は粒径が100 nm以上の非晶質Ca–Si–O酸化物,Fig.6は粒径が20 nm以下の非晶質Ca–Si–O酸化物を測定した結果である。Fig.5(b)およびFig.6(b)の濃度プロファイルから非晶質Ca–Si–O酸化物中に含まれるFe量はいずれも微量であり,また酸化物サイズ依存性は見られないことがわかる。ここで,得られた濃度プロファイルは円柱領域から計算されたものであるが,粒径が20 nm以下の非晶質Ca–Si–O酸化物の場合は形状の影響を受けやすいため,100 nm以上の非晶質Ca–Si–O酸化物と比較して若干Fe量が高く評価される場合がある。以上のことから,本研究で確認された非晶質Ca–Si–Oはその粒径によらず,CaとSiを含みFeを含まない酸化物であると考えられる。

(a) 3DAP elemental maps of reduced SFCA containing Ca–Si–O particle over 100nm. (b)Atomic concentration profile of Fe, Ca, Si and O along the red arrow in Fig. 5 (a). (Online version in color.)

(a) 3DAP elemental maps of reduced SFCA containing Ca–Si–O particle under20nm. (b)Atomic concentration profile of Fe, Ca, Si and O along the red arrow in Fig. 6 (a). (Online version in color.)
続いて非晶質Ca–Si–Oと金属鉄間界面の元素分布に着目すると,Fig.5(b)のOの濃度プロファイルは,CaおよびSiの濃度プロファイルと比べて非晶質Ca–Si–O/金属鉄界面から金属鉄側にシフトしている。このため,非晶質Ca–Si–O/金属鉄界面にはFe–Oが存在すると思われる。さらにFig.5(a)の3次元構築像に着目すると,Fe–OとCaの領域が一部重なっておらず,Fe–Oが界面に存在するように見える。Fig.6(a)に示した微細な非晶質Ca–Si–O酸化物の3次元構築像においても同様にFe–Oが界面に存在するように見えることから,今回の還元SFCA内に生成した非晶質Ca–Si–O/金属鉄界面にはその粒径によらず,幅が2 nm程度のFe–O濃化領域が存在することがわかった。
Fig.7に今回得られた観察結果の模式図を示す。本研究から,水素を含んだ混合ガス環境下で,Ca,Si,AlおよびMgを含むSFCAを還元すると金属鉄中に,非晶質のCa–Si–O酸化物,Spinel構造(Fe,Mg)(Fe,Al)2O4とBrow nmillerite構造(Ca,Fe)2(Fe,Al)2O5の酸化物が粒状に分散し,非晶質Ca–Si–O酸化物の周囲にはFe–O濃化領域が生成することが明らかとなった。

Schematic image of reduction process of SFCA. (Online version in color.)
これら酸化物の中で,非晶質Ca–Si–OやCa2(Fe,Al)2O5についてはMuraoら10)によって報告されている。その報告の中では,SFCAは還元初期にSpinelとPyroxeneのモジュール構造の分解が起こり,Spinel構造は比較的速やかに還元が進行するが,Pyroxene構造からは難還元組織としてCa2(Fe,Al)2O5とCa–Si–Oが生成することを示している。本研究で見られた非晶質Ca–Si–O酸化物と(Ca,Fe)2(Fe,Al)2O5は,既報中の難還元組織を観察したもの考えられる。一方で今回観察した還元後SFCAにはさらにSpinel構造(Fe,Mg)(Fe,Al)2O4が生成しており,Muraoらの結果とは一致しない。この違いについては還元前のSFCA相成分の違いによると考えられる。MuraoらはFe2O3,CaCO3,SiO2およびAl2O3試薬を用いた粉末焼結法により単相SFCAを作製した一方で,本研究ではTable 1に示す成分系の焼結鉱内に生成したSFCAを供試材としたため,上記元素に加えMgを含むSFCAを観察の対象としている。ここでFe2O3–MgO縦断面状態図13)から大気の酸素分圧下ではSpinel構造中にMgが固溶することと,エリンガム図からMgは極めて酸化されやすい元素であることを考えると,今回見られたSpinel構造の生成はMgによるものと考えられる。すなわち,Mgを含むSFCAが還元する場合は,還元初期にSpinel構造とPyroxene構造へ分解し,MgはSpinel構造側へ分配される。Mgを含むSpinel構造は含まないものと比べて被還元性が低いため,金属鉄が生成するまで還元した後も,Spinel構造(Fe,Mg)(Fe,Al)2O4として残存したと考えられる。またこのSpinel構造にはFeが含まれるため,Mgを含むSFCAは含まないものと比べると被還元性が低下したといえる。一方でMgの効果についてはいくつか報告があり,Kahlenbergら14)は試薬の合成実験において,MgO-rich領域でSFCA-III構造の存在を示している。さらにMaruokaら15)は実機焼結鉱の還元実験を行った結果,SFCAの中でもSFCA構造およびSFCA-I構造と比較して,SFCA-III構造が最も還元しやすいことを報告している。これらの結果をまとめるとMgを含むSFCAは被還元性に優れる組織であることが推測され,今回得られた結果とは一致しない。しかしながら,今回の検討では還元前SFCAにMgが固溶していることは確認しているがその結晶構造については解析しておらず,また,既報では還元前結晶構造を調査し被還元性に優れる構造がSFCA-III構造であることは確認されているもののMg固溶量については調査されていない。つまり,今回見出した難還元組織Spinel構造(Fe,Mg)(Fe,Al)2O4の生成メカニズムとして重要であると考えられる,還元前SFCAの結晶構造,Mg濃度および還元条件依存性は十分に調査されていない。このことはSFCAの被還元性を調査するためには還元前段階の結晶構造と組成を踏まえた還元試験材の解析が必要であることを示しており今後さらなる調査が必要である。
さらに,本研究では3DAPを用いた非晶質Ca–Si–Oの微細組織観察から,非晶質Ca–Si–Oと金属鉄界面にはFe–O相が存在することが新たに分かった。このことはSFCAを金属鉄まで還元した際にSiが分配することで生成する難還元組織の非晶質Ca–Si–Oの形態がSFCAの被還元性に影響を及ぼす可能性を示している。例えば還元条件Aでは数十 nm程度の微細な非晶質Ca–Si–Oが生成する一方で,還元条件Bでは数µm程度の非晶質Ca–Si–Oが生成する場合,それぞれの条件で得られる非晶質Ca–Si–O/金属鉄界面の面積は102オーダーで異なり,還元条件Aでは界面積の増大とともにFe–O濃化領域が増加することが予想され,SFCAの被還元性も低下することが推定される。
本研究では,SFCAの被還元性をミクロ組織の観点から明らかにすることを目的として,焼結鉱および還元後焼結鉱組織中のSFCAに対して,STEM-EDSおよび3DAPを用いた詳細解析を実施し,以下の知見を得た。
(1)Ca,Si,AlおよびMgを含むSFCAを還元ガス雰囲気31%CO–19%H2–50%N2の条件で800°Cで3時間還元した場合,金属鉄,非晶質Ca–Si–O酸化物,Spinel構造(Fe,Mg)(Fe,Al)2O4およびBrownmillerite構造(Ca,Fe)2(Fe,Al)2O5が生成する。また各酸化物は金属鉄中に単独,または複合した形態で粒状に分散する。
(2)金属鉄中に分散した非晶質Ca–Si–O酸化物と金属鉄の界面には幅が2nm程度のFe–O濃化領域が存在する。
(3)還元時の元素分配によって,SFCA還元組織中にSpinel構造(Fe,Mg)(Fe,Al)2O4が生成した場合,SFCAの被還元性が低下する恐れがある。これはMgの分配によりSpinel構造そのものの被還元性が低下し,還元後もFeを含む酸化物として残存するためである。
本研究のようにSTEM-EDSや3DAPといった生成相のミクロ組織を詳細に調査可能な手法を用いることで,元素分配の観点に基づいた還元過程が議論できる。一方で今回は還元前のSFCAの詳細な結晶構造や固溶元素については調査していない。また今回の観察試料は還元前後のみであり金属鉄中に生成した各種酸化物の形態は解析できたが,還元反応の素過程を本手法から明らかにするには元素が各相に分配中,すなわち還元途中止め試料の解析が重要であると考えられ,これらは今後の検討課題である。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項は存在しない。