2025 年 111 巻 13 号 p. 858-864
It is known as Al2O3 dispersed with Ni particles composite (Ni/Al2O3) has self-healing function which recovers mechanical properties by the high-temperature oxidation of dispersoids. Ni/Al2O3 appear self-healing function not only by the contribution of high-temperature oxidation of Ni particles exposed on sample surface, but also contribution of grain boundary diffusion of Ni ions through Al2O3 matrix. The objective of this study is to investigate the influence of Ni ion diffusion on the growth of NiAl2O4 self-healing layers with different Ni volume fractions.
Dence Ni/Al2O3 were prepared and etched nitric acid to remove surface Ni particles. Samples were heat treated at 1100–1355°C for 6–48 h in air.
NiAl2O4 self-healing layer is observed on the sample surfaces with and without etching. The NiAl2O4 self-healing layer grows with parabolic manner with respect to the heat treatment time, indicating that the diffusion of Ni ion through the Al2O3 grain boundary is the rate-controlling. The contribution of surface Ni to the growth of NiAl2O4 layers is independent of heat treatment conditions due to the surface Ni particles are defined by the Ni dispersion ratio. The contribution of Ni ion diffusion increases linearly with increasing Ni volume fraction. It indicates that the amount of Ni ions diffused through the grain boundary is proportional to the Ni volume fraction.
銑鋼一貫製鉄において,製銑および製鋼工程は高温プロセスであり,溶銑や溶鋼のハンドリングには多くの耐火物が必要とされている。2024年度の日本国内の耐火物販売量は約100万トンであり,そのうち8割近くが鉄鋼部門向けである1)。耐火物は主にSiO2やAl2O3,MgO,ZrO2などのセラミックスおよび炭素原料との組み合わせによって構成される。一般的なアドバンストセラミックスと比較して耐火物の機械的強度は高くないものの,気孔率や粒径を制御することで,溶銑や溶鋼との接触面における耐熱性や溶損性,耐摩耗性などの向上が図られている。鉄鋼用耐火物の主な損傷は溶銑や溶鋼による溶損や,剥離などに起因する2)。またタンディッシュなどの溶鋼が間欠的に滞留する設備の耐火物においては,熱履歴によるき裂の発生および進展も劣化要因となりうる3)。鉄鋼用耐火物は鉄鋼製錬の安定操業に悪影響を及ぼさないように定期的な補修や改修を行っているが,今後,原材料の多様化4)や,製鉄プロセスにおけるCO2排出の大幅削減を実現していくための水素富化製鉄5)などに対応する必要がある。結果的に鉄鋼用耐火物はこれまで想定されていた操業条件とは異なる状況において使用されることも多くなるため,耐火物の寿命予測が困難となることが懸念される。鉄鋼用耐火物の突発的な破損による操業中断は生産性低下を引き起こすため,耐火物の信頼性向上や易メンテナンス化,長寿命化などが望まれる。
本課題の解決策の1つとして,自己治癒機能の利用が提案されている6)。本研究における自己治癒機能とは,セラミックマトリックスと非酸化物分散材からなる複合材料において,材料表面にき裂などのマクロ欠陥が生じた際,分散材の高温酸化時によって生成する酸化物(自己治癒層)がき裂を充填し機械的強度を回復させる機能を指す。構造用セラミックスにおいて,これまでにSiCを分散材とした自己治癒セラミックスが提案されており7,8,9),SiCの高温酸化反応によりき裂を充填することで自己治癒を発現することが報告されている。既往の耐火物では炭素源の1つとしてAl4SiC4が知られており10,11),SiCと比較して約300°C低い温度においても自己治癒発現に十分な酸化反応速度を発現することが報告されている12)。ほかにも多様な自己治癒セラミックスが報告されているが13,14,15,16),いずれもが材料表面に暴露した非酸化物分散材が高温酸化することにより,材料表面にSiO2やTiO2を自己治癒層として生成することで強度回復を達成している。
先行研究17)において,著者らのグループはNi粒子分散Al2O3複合材料(Ni/Al2O3)を用いて,NiAl2O4(NiAl2O4自己治癒層)が高温酸化によって生成することにより自己治癒機能が発現することを明らかにしている。NiAl2O4自己治癒層の生成には,既往の自己治癒材料と同様に材料表面に暴露したNi粒子の高温酸化に加えて,材料内部から表面に粒界拡散するNiイオンも寄与する18)。これはNiイオンの粒界拡散係数が比較的大きいことに起因していると考えられ,結果としてNi/Al2O3は材料表面にNiが曝露されていない状況においてもNiAl2O4自己治癒層を成長させ,自己治癒を発現させることが期待できる。鉄鋼用耐火物は長時間高温雰囲気に暴露され,断続的に溶銑や溶鋼と接触し,表面の摩耗や溶損が生じるため,非酸化物分散材の暴露を必ずしも必要としない自己治癒発現機構の解明は重要である。一方,既往の研究6,17)で行われているような,試料を高温酸化することで自己治癒機能を検討する手法では,自己治癒層の生成に対する表面に暴露した分散材の高温酸化と陽イオンの粒界拡散による寄与を切り分けることは困難である。そこで本研究では,Ni分散量の異なるNi/Al2O3をエッチングすることで表面Niを除去した試料を調製し,NiAl2O4自己治癒層の成長に対するNiイオン拡散の影響について調査することを目的とする。
先行研究を参考に,緻密なNi/Al2O3セラミックスを作製した17)。α-Al2O3 powder(Taimei Chemicals Co., Ltd., TM-DAR, Purity:99.99%, average particle size:0.14 µm)とNi(NO3)2・6H2O(高純度化学製)をAl2O3に対しNiが1, 5, 10 vol%となるように秤量し, 蒸留水中で混合した。アルミナボールを用いて湿式ボールミルを6 h行い,スラリーを得た。スラリーを約400°Cで1 h 大気中で熱処理することでNOXとH2Oを除去し,混合粉末を作製した。得られた混合粉末を3%H2–Ar気流中,800°C,6 hでNiOの還元熱処理を行い,Ni/Al2O3粉末を得た。試料粉末をグラファイト製ダイに装入し,ホットプレスを用いてAr雰囲気, 1400°C,1 h,約37.5 MPaの条件で加圧焼結した。焼結後の試料はアルキメデス法を用いて開気孔率と相対密度の測定を行い,相対密度99%以上の緻密な試料を得た。
試料を切断,研摩後,硝酸30%の水溶液に浸漬し,超音波洗浄器に設置して3 h酸洗浄した。Fig.1に酸洗浄前後の試料表面のSEM像を示す。直径500 nm程度の明るいコントラストのNi粒子が確認できるが,酸洗浄後は認められない。酸洗浄を行った試料を“Etched”,未洗浄の試料を“Non-etched”と記述する。両試料をアルミナボートに設置し,横型電気炉を用いて熱処理した。 保持温度は1100°C–1350°C,保持時間は3–48 hとし,昇温速度10°C/min,昇温中の雰囲気はAr, 保持中はAirとした。熱処理後試料を切断,研磨し,SEMを用いた断面観察によりNiAl2O4自己治癒層の厚さを測定した。

SEM images of sintered 5 vol%Ni/Al2O3 sample surface before/after etching.
Fig.2に5 vol%Ni/Al2O3の“Etched”および“Non-etched”の1300°Cで熱処理した後の断面SEM像を示す。“Etched”および“Non-etched”のいずれも試料表面にNiAl2O4の生成がみられ,先行研究17)よりこれがNiAl2O4自己治癒層に相当する。酸洗浄の有無により試料表面に生成するNiAl2O4自己治癒層の厚さに差が見られ,“Etched”の方が薄い。またいずれの試料においても,NiAl2O4自己治癒層の直下にコントラストの異なる二相が混合した領域が確認できる。先行研究18)より,NiAl2O4と母相のAl2O3からなる内部酸化層が生成していると考えられる。

Cross sectional SEM images of 5 vol%Ni/Al2O3 sample after the heat-treatment at 1300°C in air.
Fig.3に5 vol%Ni/Al2O3の“Etched”および“Non-etched”を1100°Cおよび1300°Cで熱処理した際のNiAl2O4自己治癒層厚さの熱処理時間の影響を示す。“Etched”および“Non-etched”のいずれもNiAl2O4自己治癒層の成長は放物線則に従う。“Etched”および“Non-etched”で得られる放物線速度定数をそれぞれkp“Etched”およびkp“Non-etched”とする。これはFig.2で観察された内部酸化層の成長過程が影響を与えていると考えられる。先行研究において,内部酸化層の成長は試料内部への酸素イオンの内方拡散が律速過程であり,放物線則に従うと報告している18,19,20)。内部酸化層はNiAl2O4自己治癒層と比較して非常に厚く,Niイオンは母相および内部酸化層の界面から内部酸化層中を粒界拡散する過程が律速すると考えられる。そのため,NiAl2O4自己治癒層の成長も放物線則に従うと考えられる。温度の影響に着目すると,同じ熱処理時間では高温の方がNiAl2O4自己治癒層は厚い。

Changes in the thickness of NiAl2O4 self-healing layer on 5 vol%Ni/Al2O3 with holding time at 1100°C and 1300°C.
Fig.4に各温度で熱処理した5 vol%Ni/Al2O3の“Non-etched”および“Etched”のNiAl2O4自己治癒層の厚さの差に対する熱処理時間の影響を示す。このNiAl2O4自己治癒層の差は,NiAl2O4自己治癒層生成における表面に暴露されているNi粒子の寄与に相当する。熱処理時間が長くなると,各温度で熱処理した試料のNiAl2O4自己治癒酸化層厚さの差はおおむね1–1.5 µmの範囲に収まる。本条件では5 vol%Ni/Al2O3を用いており,同じNi分散量の試料では試料表面に暴露されているNi粒子の数は理想的には等しいため,NiAl2O4自己治癒層生成における表面に暴露されているNi粒子の寄与はおおむね等しくなったと考えられる。6 hの熱処理時間では1 µmよりやや低い値を示しばらつきも大きいが,これは表面に暴露されているNiの高温酸化が未完了である可能性が考えられる。

Difference in the thickness of NiAl2O4 self-healing layer on 5 vol%Ni/Al2O3 by etching with holding time at 1100, 1300 and 1350°C.
Fig.5に5 vol%Ni/Al2O3の“Non-etched”および“Etched”のkp“Etched”およびkp“Non-etched”を用いたアレニウスプロットを示す。アレニウスプロットから見かけの活性化エネルギーを計算すると,“Non-etched”および“Etched”でそれぞれおよそ165 kJ/mol および204 kJ/molであり,“Etched”の方がやや高い値を示す。“Non-etched”では表面に暴露したNi粒子と周囲のAl2O3マトリックスとの酸化反応によりNiAl2O4が生成するとともに自己治癒層が成長していく。一方,“Etched”では粒界拡散により材料表面に到達したNiイオンを起点としたNiAl2O4の核生成が起こるため,見かけの活性化エネルギーが若干高くなった可能性が考えられる。

Arrhenius plot of parabolic rate constant of growth of NiAl2O4 self-healing layer on 5 vol%Ni/Al2O3.
Fig.6およびFig.7に1300°Cで熱処理後の1 vol%Ni/Al2O3および10 vol%Ni/Al2O3の断面SEM像を示す。またFig.8にNi分散率の異なる試料を用いて1300°Cで熱処理した際のNiAl2O4自己治癒層厚さに対する熱処理時間の影響を示す。Ni分散率が大きくなるほどNiAl2O4自己治癒層厚さは大きくなる。またNiAl2O4自己治癒層厚さはいずれも放物線則に従い成長する。またFig.3と同様に,NiAl2O4自己治癒層厚さはいずれも“Non-etched”の方が“Etched”より大きい。

Cross sectional SEM images of 1 vol%Ni/Al2O3 sample after the oxidation test at 1300°C for various time.

Cross sectional SEM images of 10 vol%Ni/Al2O3 sample after the oxidation test at 1300°C for various time.

Changes in the thickness of NiAl2O4 self-healing layer with holding time at 1300°C for various sample having different Ni volume fraction.
Fig.9に1300°C,24 hの大気中熱処理においてNiAl2O4自己治癒層が成長した際におけるNiイオンの寄与率に対するNi分散率の影響を示す。Niイオンの寄与率はFig.7の結果から得られた放物線速度定数を用いて以下の式から求めた。
| (1) |

Contribution ratio of Ni ions for growth of NiAl2O4 self-healing layer at 1300°C on samples having different volume fraction of Ni.
Fig.9より,Niイオンの寄与率はおおむねNi分散率とともに直線的に増加する傾向を示す。これは,粒界拡散によって輸送されるNiイオン量がNi分散率と比例関係にあることを示唆しており,既往の研究においても同様の関係性が報告されている18)。社会実装を想定すると,金属材料が表面に暴露されていると短時間で高温酸化および溶損することが懸念される。例えば材料表面近傍のNi分散量が低く,材料内部になるにつれてNi分散率の高い傾斜材料として設計すれば,材料表面は既往の鉄鋼耐火物組成に設計し,材料内部に粒界拡散係数が比較的高い分散材を配置することで,従来の耐火物の機能を維持しつつ,自己治癒機能を有することが期待できる。
また耐火物では一般的にSiO2やAl2O3などをはじめとしたセラミック複合材料が用いられる。本研究で検討した材料系では,NiイオンはAl2O3粒界中のAl3+サイトの空孔を拡散すると考察しているが21),耐火物ではガラス相を含む異種セラミックス相界面における拡散を検討する必要がある。また多くの耐火物は多孔質構造であるため,構成相の表面拡散による経路も重要だと考えられる。異相界面や表面拡散においても陽イオンの拡散は生ずるが,自己治癒材料として機能するためには使用環境において有意に自己治癒層が成長する必要がある。そのため拡散係数のデータベースの構築が,自己治癒機能を有する耐火物材料の材料設計に重要な因子になると考えられる。
本研究では,今後の耐火物材料における自己治癒機能の実装を目指すうえで,自己治癒セラミックスの自己治癒層生成挙動における分散材の陽イオン拡散の影響を調査した。具体的にはNi/Al2O3をエッチング処理することで表面Niを除去した試料を調製し,自己治癒層であるNiAl2O4層の成長速度に対するNiイオン拡散の影響を熱処理条件およびNi分散量の観点から調査した。得られた知見を以下に示す。
(1)酸洗浄の有無に関わらず,熱処理後にはNiAl2O4層の生成が認められる。同熱処理条件では酸洗浄試料の方が未酸洗浄試料よりもNiAl2O4層の厚さが薄く,表面に暴露されたNi粒子の有無によりNiAl2O4層厚さに差が出ている。NiAl2O4層は熱処理時間に対して放物線的に成長しており,先行研究の成果も併せてAl2O3粒界を通したNiイオンの拡散が律速することを示唆する。
(2)NiAl2O4層の成長に対する表面Niの寄与は熱処理条件に依存しない。表面Ni粒子はNi分散率によって規定されているため,同じNi分散率の試料では,いずれの酸化条件においても表面Niの寄与は変わらなかったためと考えられる。
(3)Ni分散率の上昇に伴い,Niイオン拡散の寄与は直線的に増加する傾向を示す。これは粒界拡散するNiイオンの量は,Ni分散率に比例することを示唆する。
本研究の一部は(一社)日本鉄鋼協会の鉄鋼研究振興助成よりご支援を受けたことを記し,ここに謝意を表する。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項は存在しない。