Tetsu-to-Hagane
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Strip Vibration and Shape Control Using Electromagnets at Gas Wipers in CGL
Kazuhisa KabeyaKyohei IshidaHidekazu SuzukiYusuke IshigakiKazushige IshinoToshio Ishii
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2013 Volume 99 Issue 10 Pages 610-616

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Synopsis:

Hot-dip galvanized steel sheets are often used for automobile exterior body panels to enhance the corrosion performance. The requirements for their surface appearance from automakers have become higher recently. Especially, a uniform coating layer of zinc is required. In a continuous hot-dip galvanizing line (CGL), a pair of gas wipers, which are installed just above the zinc pot, is used to control the thickness of the coating layer. The strip vibration at the gas wipers causes the uneven coating thickness in the traveling direction, while the cross-bow of the strip leads to the unevenness in the width direction. The behavior of the strip at the gas wipers should be stable for the uniform coating layer. In order to make the strip stable and flat, a strip vibration and shape control technique using electromagnets has been developed. It greatly contributes to produce hot-dip galvanized steel sheets with excellent surface appearance.

1. 緒言

溶融亜鉛めっき鋼板は電気亜鉛めっき鋼板に比較し,めっき層が厚目付けの製品を作りやすく,製造コストも安いなどの利点があることから,高い防錆性能と経済性が求められる自動車用防錆鋼板の主流となっている。その中で自動車車体の外板に使用される場合には,外観を中心とする表面品質が特に重視されるため,鉄鋼メーカーは品質改善に鋭意取り組んでいる。

Fig.1は連続溶融亜鉛めっき鋼板製造ライン(CGL)において,めっき厚調整の要となる亜鉛ポット周りの構成を示している。溶融亜鉛ポットに進入した鋼板はシンクロールで方向転換され,表面に亜鉛がコーティングされた状態で浴面から鉛直に立ち上がる。その直後,凝固する前にガスワイピングノズルから噴射されるエアまたは窒素ガスで余剰な亜鉛を掻き落とすことによって,めっき厚を調整するものである。

Fig. 1.

 Schematic of coating and gas wiping section in CGL.

めっき付着量Wはガスワイピング圧力P,ノズル−鋼板間距離DW,ライン速度Vをパラメータとして式(1)で与えられることが知られている1)。ここでK0~K4はガスワイピングノズルの溶融亜鉛浴面からの高さなど操業条件で決まる定数である。   

W=K0PK1DWK2VK3exp(K4V)(1)

この関係を利用して,目標のめっき付着量になるようにガスワイピング圧力やノズル−鋼板間距離を自動的に設定するシステムも開発されている2)。一方で,式(1)はノズル−鋼板間距離が変動すると,めっき付着量も変動することを示している。すなわち,ガスワイピング部で鋼板が振動していると,長手方向にめっき付着量むらを生じ,結果として縞模様状の表面外観欠陥となったり,板反りがあると,板幅方向のめっき付着量むらになったりするのである。したがって,ガスワイピング部における鋼板の振動や反りを無くし,通板を安定化させることはめっき付着量を均一化し,優れた表面外観を実現するために必要不可欠なことがわかる。

Fig.1には描かれていないが,通常のCGLにおいて鋼板はガスワイピングノズルで所定の付着量に調整された後,数十m上方のトップロールで折り返されるまで,鉛直に上昇していく。途中に合金化炉や空冷帯などを通るが,基本的に鋼板は数十mに渡って何とも接触していないため,振動しやすい状態になる。そして空冷帯で鋼板に吹き付けられるエアが加振源となり,数Hz以下の低周波数で弦振動することが多い。ノズルの上方に設置されたサポートロールは,この振動を防止するためのもので,ワイピング部を加振源から切り離すとともに,弦振動のスパンを大幅に短くできるため,低周波弦振動の抑制には効果的である。しかし,サポートロールと接触するとき,鋼板表面の亜鉛はまだ半溶融状態なため,この接触が原因で表面外観を損なう場合がある。また,サポートロールの偏芯などによるロール起因の鋼板振動を生じる場合もあるため,完璧な対策とは言えない。

さらに,鋼板振動は一般に生産性を上げるためにライン速度を上昇させると増大する。これは,高速通板に対応した冷却能力を確保するために空冷帯の風量が増えて加振力が大きくなることや設備・機器の振動が大きくなり,それが鋼板に伝播することなどによる。このため例えば品質厳格材を製造する際には,ある一定のライン速度を上限とする速度制約を設けている場合もあり,生産性の妨げになっている。

一方,板反りはシンクロールによる鋼板の曲げ・曲げ戻しによって発生する3)Fig.2は発生メカニズムを示しており,図中Aは最大曲げ状態,Bは曲げ戻し過程,Cは長手方向曲率=0の状態である。鋼板の表裏面にはロールの曲げ・曲げ戻しにより長手方向の引張−圧縮ひずみを受ける。ロールから離れる直前(B)では表面(ロールと接触しない側)圧縮,裏面(ロールと接触する側)引張の長手方向応力分布となり,ロール上では幅方向変形が拘束されているので幅方向も応力値は小さいが長手方向と同様に表面圧縮,裏面引張の応力分布となる。したがってロールから離れて幅方向変形の拘束がなくなると,表面凸裏面凹の幅方向反りが発生する(C)。

Fig. 2.

 Cause of transverse warp (cross-bow) in steel strip.

この反りを矯正するには,上記と反対側へ曲げ・曲げ戻しを行い,逆反りを発生させれば良い。シンクロール上方の浴中にあるコレクトロールはその役割を担っており,押し込み量(鋼板のロール巻き付き量)を調整することで,反りを矯正する。しかし,長手方向と幅方向の残留反りを零にする条件は異なるので,反りを完全に矯正することは困難である4)

この課題を解決する手段として,電磁力を用いた非接触鋼板制御技術が考えられる。鋼板に対峙して設置された電磁石の吸引力を適切に制御することで,鋼板の振動や反りを抑制するものである。ロールと違って非接触なので,鋼板の表面品質に悪影響を与えないメリットがある。2005年以降多くの報告5,6,7)がなされ,実用化が進んでいる。しかし,電磁石は対象(この場合は鋼板)が近づけば近づくほど吸引力が強くなる負のばねの性質を有しているため,適切なシステム設計をしないと電磁石と鋼板の接触リスクを伴う不安定系になる恐れがある。そして,多くのCGLでは製造する鋼板の板幅・板厚が多岐にわたるため,その範囲内で安定性を確保する設計が必要となる。

本稿では,電磁石の吸引力と鋼板の張力と剛性からなる復元力との安定釣合点に着目した設計法を提案するとともに,その手法で設計した電磁力利用非接触鋼板制御システム(以下,CGL電磁サポートと呼ぶ)の性能を実証する。これにより,ガスワイピング部における通板を安定化させて表面品質欠陥の抑制とライン速度制約を解消し,溶融亜鉛めっき鋼板の生産性最大化を図ることが,本研究の目的である。

2. 安定釣合点を利用した設計

2・1 基本設計

鋼板が電磁石から受ける吸引力Fmは鋼板の磁気抵抗を無視すると式(2)で与えられる8)。   

Fm=μ0(NI2d)2A2(2)

ここで,μ0:空気の透磁率,N:電磁石コイル巻数,I:電流,d:電磁石−鋼板間距離,A:対向面積である。

一方,鋼板の張力と剛性により鋼板に作用する復元力Frは式(3)で与えられる。   

Fr=kx(3)

ここで,k:復元力のばね定数,x:パスラインからの鋼板変位量である。

Fig.3のように電磁石のパスラインからの距離をDとすると,d=D-xとなり,xに対するFmおよびFrを同一のグラフに描くことができる(Fig.4)。

Fig. 3.

 Interaction of magnetic attractive force and restoring force on strip at gas wiper.

Fig. 4.

 Stable equilibrium point.

Fig.4d=20mmのときに鋼板に作用する吸引力Fmと復元力Frの例を示している。Frは紙面右から左に働く力なので,正確には負の値をとるものだが,ここではFmに重ねて描くために敢えて正の値にして,力の向きに注意するようにしている。

この場合は鋼板変位が約4mmの位置で両者が釣り合う。この釣合点を観察すると,もし何かの外乱が入り,鋼板がパスラインから離れる方向(紙面右側)に動いた場合には,復元力Frの方が吸引力Fmよりも大きいため,鋼板に紙面左向きの力が作用する。反対にパスラインに近づく方向(紙面左側)に動いた場合には,鋼板に紙面右向きの力が作用する。すなわち,どちらの場合も釣合点に戻す方向に力が作用するので,これは安定釣合点と考えることができる。この安定釣合点を利用して,鋼板の振動や反りを制御することができれば,鋼板と電磁石との接触という最大の課題が解決されることになる。

電磁石に流す電流を増減させると,吸引力の曲線は上下に移動する。そこで復元力の直線と交わる点に鋼板は移動するのである。Fig.4において吸引力を増大させると(i→ii),現在着目している安定釣合点が電磁石側(紙面右方向)に移動するとともに,それよりもさらに電磁石側に新たな交点が発生する。これも釣合点ではあるが,鋼板が少しでも電磁石側(紙面右側)に動くと吸引力Fmの方が復元力Frよりも大きいため,すぐに電磁石に吸い寄せられてしまい,安定に留まることができない不安定な釣合点なので注意しなければならない。

CGL電磁サポートの設計に当たっては,製造される鋼板のサイズと張力条件や想定される鋼板位置(反りなど),さらには求められる能力を考慮し,常に安定釣合点の範囲で操業できるように,電磁石の仕様や設置位置を決定する必要がある。

2・2 設計手順

本節では,前節の基本原理に基づいて実際にCGL電磁サポートの設計を行う際の手順をまとめる。

まず初めに実施するのは,電磁石吸引力Fmの特性把握である。一般に電磁石の吸引力は式(2)で表現されるが,実際には対象が薄鋼板の場合,板厚が薄いほど磁気飽和により吸引力が頭打ちになることが知られている。また,吸引力は電磁石の仕様にもよるので,吸引力特性は実測により求める方が正確である。具体的には,電磁石と鋼板との距離D,鋼板の厚さt,電磁石に流す電流Iをパラメータとして変化させた際の吸引力を測定し,Fig.4にあるような吸引力曲線を得るものである。Fig.5に実測例を示す。

Fig. 5.

 Experimental data of magnetic attractive force.

次は鋼板の復元力Frの特性把握である。これについては,Fig.6のような張力がかかるシェル要素を用いたFEMモデルを作成し,電磁石吸引力が作用する点に力を加えた際の静解析結果からばね定数を求めればよい。

Fig. 6.

 FEM model of strip using shell elements.

電磁石の吸引力Fmと鋼板の復元力Frの特性がわかれば,Fig.4のようなグラフを描くことができ,安定釣合点を利用して制御できるパスライン変動や板反りを明確化できる。しかし,ここで注意が必要なのは,隣接する電磁石間の板剛性の影響で,電磁石同士が互いの制御可能範囲に制限を加える点である。

Fig.7は鋼板の断面を表しており,鋼板の表裏両面の板幅中央と両エッジに電磁石が配置されている際に作用する力をモデリングするものである。

Fig. 7.

 Strip model considering bending stiffness between electromagnets.

制御前の中央部,エッジ部の鋼板位置がXcoXeoであり,それぞれにFcFeの力を付与することで目標パス(Xc=Xe=0)に制御する様子を表している。ここで電磁石間の鋼板の曲げ剛性を表すばね定数kecを加えることで,電磁石同士が及ぼす影響も評価する。

Fig.7において,中央部およびエッジ部の力の釣り合いは,それぞれ式(4),式(5)で表すことができる。   

Fc=kcXc0+2kec(Xc0Xe0)(4)
  
Fe=keXe0+kec(Xe0Xc0)(5)

これらを変形すると以下のようになる。   

Fc=(kc+2kec)Xc02kecXe0(6)
  
Fe=(ke+kec)Xe0kecXc0(7)

式(6),式(7)からわかるように,各部での鋼板の復元力のばね定数は,中央部:kc+2kec,エッジ部:ke+kecとなる。今,このばね定数をもとに目標パス上で安定釣り合いを確保しつつ,極力パスライン・反りの制御可能範囲を稼げるDIを選択したとする。その時,目標パス上で獲得できる表裏電磁石の最大吸引力の絶対値が中央部でFcmax,エッジ部でFemaxだったとすると,少なくともXcoXeoは以下の式(8),式(9)の範囲になければ,そもそも目標パス上に制御できないことになる。   

Fcmaxkc+2kecXc0Fcmaxkc+2kec(8)
  
Femaxke+kecXe0Femaxke+kec(9)

一方,例えば中央部の鋼板位置Xcoを目標パスに制御する際に必要な吸引力Fcは,エッジ部の鋼板位置Xeoを目標パス上に制御する影響(式(6)右辺第2項)を受けるため,エッジ部の鋼板位置によっては力不足で中央部のパスを目標パス上に制御できない状況が発生する。エッジ部においても同様に中央部の鋼板位置Xcoの影響を受けるため,両者が折り合う(式(6),式(7)が成立する)ような鋼板位置XcoXeoでない場合,一方を立てると(目標パスに制御しようとすると)一方が立たない状態となる。こうした問題を避ける条件は,目標パス上で中央部とエッジ部両方で吸引力の不足を生じないこととなる。従って,式(8),式(9)の条件に加え,目標パス位置において以下も成立する必要がある(符号に注意)。   

FcmaxFcFcmax(10)
  
FemaxFeFemax(11)

よって,式(6),式(7)を式(10),式(11)に代入することにより,新たな条件として式(12),式(13)を得る。   

kc+2kec2kecXc0Fcmax2kecXe0kc+2kec2kecXc0+Fcmax2kec(12)
  
kecke+kecXc0Femaxke+kecXe0kecke+kecXc0+Femaxke+kec(13)

つまり,中央部・エッジ部同時に目標パス上に制御可能な鋼板位置XcoXeoの範囲は,式(8),式(9),式(12),式(13)で表現される範囲と言える。これを(XcoXeo)座標系で表現するとFig.8のようになる。

Fig. 8.

 Controllable area for initial strip position.

対象となるすべての(あるいは代表的な)板幅・板厚について上記を実施してFig.8のチャートを求め,所望のパス・反り制御性能を得るために必要な電磁石の配置や仕様を決定していくのが,実際の設計手順となる。

3. CGL電磁サポートの実用例

JFEスチールでは既に全地区においてCGL電磁サポートを実用化しているが,本節では一例について述べる。

自動車用外板に用いられる合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,特に表面品質に厳格だが,あるCGLでは鋼板振動に起因する縞模様状の表面欠陥を回避するため,ライン速度に制約を設けていた。具体的には,約15Hzの鋼板振動によるめっき付着量ムラである。

合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際は,一般に浴上サポートロールを使用して,ワイピング部の鋼板振動の抑制を図る。ワイピング直後の鋼板表面にロールが接触しても,その後の合金化処理により,影響が軽減されるため,ロールの使用が許容されるのである。浴上サポートロールを使用すると,ポットから立ち上がる鋼板を弦に見立てた場合の弦長が短くなるため,弦の固有振動数が高くなり,十数Hzくらいになる。弦の1次固有振動数f1は式(14)で与えられ,弦長lに反比例する。ここでTは張力,ρは線密度である。   

f1=12lTρ(14)

縞模様状の表面欠陥はワイピング部の鋼板振動に伴うめっき付着量ムラが原因であるが,式(1)の通り,めっき付着量はノズル−鋼板間距離の関数になっているので,鋼板変位振幅が同じなら,めっき付着量ムラ=濃淡差は鋼板振動周波数によらず同じになる。しかしながら,その濃淡差が表面外観欠陥として認識されるかどうかは,目視で判断されるため,濃淡のピッチに大きく依存する。Fig.9に示すように,同じ濃淡差でもピッチが広い(この場合は25倍)と変化が緩やかなので目立たず,表面外観欠陥とされにくいのである。

Fig. 9.

 Surface appearance with different gradation pitch.

実際,ワイピング部の鋼板振動変位がある程度大きい場合でも,周波数が低い(5Hz以下)と問題にならないことが多い。

我々はこの点に注目し,単純にワイピング部の鋼板振動抑制を図るのでなく,鋼板振動周波数を低周波数化することにより濃淡差を目立たなくした上で(めっき付着量ムラの無害化),制振する手法を提案するものである。以下に,その考え方をまとめる。

1) 縞模様状品質欠陥の原因は鋼板振動によるめっき付着量ムラ

2) 鋼板振動を抑制すれば良い

3) ピッチが広いめっき付着量ムラは問題にならない(目立たない)

4) 鋼板振動周波数を低くする

5) 変位振幅が大きくなる恐れがある

6) 板振動低周波数化による付着量ムラ無害化+低周波振動抑制

Fig.10に上記の戦略を図示する。浴上サポートロール開放により,15Hz以上の弦振動固有振動数が1Hz以下に低周波数化され,さらに電磁サポートによるパス変動および低周波振動低減で,品質欠陥撲滅を図るものである。

Fig. 10.

 Concept of strip vibration control using electromagnet without support roll.

ここで問題となっているCGLにおいて対象とする自動車用鋼板は,板幅1000~1850mmで,板厚は0.8mm程度である。この範囲における代表値として板幅1000mm,1550mm,1850mmの3サイズを中心に,前述の設計手順にしたがって検討を行い,安定釣合点の範囲内で所望のパス・反り制御性能を得られる電磁石配置を求めた。その結果,電磁石はガスワイピングノズルの約400mm上方のパスラインから20mm離れた位置に表裏各々板幅方向7個を配置した。

Fig.11は浴上サポートロール開放+電磁サポートによる鋼板振動抑制の効果例を示している。一番上のグラフは浴上サポートロール使用の従来操業における鋼板振動のスペクトルを示している。これによると,浴上サポートロール使用による弦振動固有振動数の15Hzの振動成分が卓越しており,これが縞模様上の表面欠陥の原因となっていた。二番目のグラフは浴上サポートロールを開放した場合を示しており,戦略どおりに卓越周波数が15Hzから5Hz以下に低下していることがわかる。一番下のグラフは浴上サポートロールを解放した状態で,さらに電磁サポートを使用した場合を示している。電磁サポートにより,5Hz以下の低周波成分の振動が抑制されており,まさにシナリオ通りの良好な結果となっている。浴上サポートロール使用時に卓越周波数が15Hzであったものが0.6Hzまで1/25に低下し,さらに振幅も1/3以下に抑制されているので,見た目においてもFig.9以上に大きな効果をもたらした。

Fig. 11.

 Effect of strip vibration control using electromagnet without support roll.

これにより,縞模様状の表面品質欠陥は抑制され,品質厳格材のライン速度は40%向上した。

また,1000~1850mmのすべての板幅について,電磁石と鋼板が接触することなく,良好な性能を発揮していることから,本稿で提案する安定釣合点を用いた設計手法の有効性が立証された。

4. 同一コイル内ゲイン切換制御

浴上サポートロール開放+電磁サポートにより,鋼板振動起因の品質欠陥を撲滅するとともに,ライン速度制約を解消することで,生産性の向上を達成した。しかし,Fig.11を見てもわかるとおり,まだ低周波数の板振動がある程度残っており,改善の余地はあると考えられる。

Fig.12にCGL電磁サポートの制御システムを示す(s:ラプラス演算子,K:ゲイン,Kp:比例ゲイン,Kd:微分ゲイン,Ti:積分時定数,Td:微分時定数)。振動抑制効果に改善の余地があるのは,溶接点通過直後のコイル先端部では,鋼板サイズ変化に伴うパス変動や反り量の急激な変化への即応性が最重要なので,目標位置への整定時間を短くすることを優先した制御ゲインを用いているためで,PID制御におけるI制御を重視,すなわち積分ゲインを大きくしている。一方,そのパス変動や反りの矯正が済んだ後の定常部では,板振動抑制による通板安定化がより重要となるが,振動抑制効果を高めるには,減衰を大きくする必要があり,これにはPID制御におけるD制御を重視,すなわち微分ゲインを大きくしなければならないのである。残念ながら,両者はトレードオフの関係にあるため,完全に両立させることはできない。

Fig. 12.

 Control system of CGL electromagnetic support.

そこで,要求に即した通板安定化を可能にするために,非振動的なパス変動や反りに対する即応性を重視する溶接点通過直後のコイル先端部と,板振動抑制を重視する定常部とで制御パターンを切り換える同一コイル内ゲイン切換方式を考案した。鋼板サイズ(板幅,板厚)に応じた制御ゲインの切り換えは従来から行われてきたが,本方式は同一コイル内で制御ゲインを切り換える点に特色がある。

具体的な制御ゲインの切り換えは以下のように行う。Table 1は目標位置への整定時間の短縮を重視する制御パターン(=PID制御のI制御重視の制御パターン)に相当し,溶接点通過直後のコイル先端部の通板時に適用される制御ゲインである。一方,Table 2は,振動抑制を重視する制御パターン(=PID制御のD制御重視の制御パターン)に相当し,コイル先端部以降の定常部の通板時に適用される制御ゲインである。ここで,Table 1の各制御ゲイン(例えば,C1)は,KP1KI1KD1という3つのゲインで構成され,同じくTable 2の各制御ゲイン(例えば,C2)は,KP2KI2KD2という3つのゲインで構成されているので,両テーブルの制御ゲインは,KI1>KI2KD1<KD2という関係を満足する。

Table 1. Gain table for quick response.
Width
NarrowMiddleWide
ThicknessThinA1B1C1
MiddleD1E1F1
ThickG1H1I1
Table 2. Gain table for vibration control.
Width
NarrowMiddleWide
ThicknessThinA2B2C2
MiddleD2E2F2
ThickG2H2I2

まず,ガスワイピングノズル部を通過しようとするコイルの制御ゲインはTable 1から鋼板サイズ(板厚や板幅)によって選択される。例えば,板厚が薄く且つ板幅が広いコイルの場合には,C1の制御ゲインとなる。この制御ゲインにより発生する吸引力によって主にパス変動と反りが矯正され,鋼板が目標位置に到達する,あるいは予め設定した時間(目標値への整定時間)が経過するなど定常状態に至ると,制御ゲインの切り換えが行われ,Table 2からC2の制御ゲインが選択される。この制御ゲイン切り換えで,定常部では鋼板の振動がより効果的に抑制されるのである。

Fig.13は,本方式の効果を示すシミュレーション結果である。

Fig. 13.

 Effect of gain switching control.

図中,一番上のグラフは,パス変動や反りに対する即応性,すなわち目標値への整定時間短縮=I制御を重視し,積分ゲインを大きめにしたゲイン単独で通板安定化を図った場合の鋼板変位である。これを見ると,整定時間は5秒程度と短く,応答性は優れているが,目標値への到達後も振動が残ってしまっていることがわかる。

二番目のグラフは,振動抑制=D制御を重視し,微分ゲインを大きめにしたゲイン単独で通板安定化を図った場合の鋼板変位である,これを見ると,板振動は良好に抑制されているが,目標値への到達は非常に遅く,30秒程度かかってしまっていることがわかる。

一番下のグラフは,最初の10秒は応答性重視のゲインで,10秒以降は制振性能重視のゲインで通板安定化を図った同一コイル内ゲイン切換制御の場合の鋼板変位である。これを見ると,目標値到達までの整定時間を短くする応答性と,定常部での制振性能の両方を満たせていることがわかる。

5. 結言

本稿では,CGLのめっき厚を調整するガスワイピングノズル部において,表面品質に重大な影響を与える鋼板の振動や反りを電磁力により非接触で制御するCGL電磁サポートについて述べた。安定釣合点を用いたユニークな設計により,実ラインでも良好な性能を発揮しており,ワイピング部における安定通板の実現で,めっき付着量ムラは抑制され,ライン速度の上昇を達成している。これにより,溶融亜鉛めっき鋼板の生産性向上に大きく貢献している。

文献
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