Tetsu-to-Hagane
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Hardening Behavior of Polyester/ Iso-cyanate Resin Paint Film Heated on Steel Sheet and their Influence on Bubble Defect (Popping)
Hiroyasu FurukawaHiroshi Kanai
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2013 Volume 99 Issue 4 Pages 283-287

Details
Synopsis:

By using polyester/ iso-cyanate resin solutions as model paints, the relation between the hardening behavior of the paint film heated on the steel sheet and the maximum film thickness without bubble defect (the popping) occurring was examined by using the TBA (Torsional Braid Analysis) method. The results were as follows.

1)In the cure process of the paint film, two dimensional crosslinking reactions are firstly begun, and subsequently, three dimensional crosslinking reactions are begun. The evaporation of volatile elements such as solvents did not receive a big influence from the two dimensional crosslinking reactions, and was started being obstructed after the three-dimensional crosslinking reactions were begun.

2)In the comparison of the resin solutions, the lower the starting temperature of the three-dimensional crosslinking reaction (T3) was, the more easily the popping occurred. The more the numbers of functional groups of resin were, the lower the T3 value was. Furthermore, when the number of functional groups were same, the higher the Tg value of the resin was, the lower the T3 value was.

1. 諸言

成形加工前の平板の段階で予め塗装が施された鋼板はプレコート鋼板と呼ばれ,これを使用することで,家電メーカーや建材メーカー等の鋼板需要家では自社での塗装工程が省略でき,環境問題への対応や生産工程の簡略化による生産効率の向上等が図れるため,プレコート鋼板は近年広く使用されている1,2)Fig.1にプレコート鋼板の代表的な塗膜断面構成を示す。塗装前の原板には亜鉛系めっき鋼板が使用されることが多い。原板は,塗膜密着性向上を主目的とする化成処理が施された後,その上層に塗料が塗布され乾燥硬化される。表側の塗膜としては,プライマー塗料塗布→加熱硬化による膜形成→トップコート塗料塗布→加熱硬化による膜形成,といういわゆる2コート2ベークの工程により2層構造の塗膜が形成されるのが一般的である。プライマー層には,主に原板との密着性や耐食性を,トップコート層には,意匠性や硬度,加工性,耐汚染性といった,使用目的に応じた表層機能を担わせている。両層の塗料に使用される樹脂としては,各種の性能バランスに優れるポリエステル樹脂系のものが広く使用され,硬化剤としてはメラミン樹脂やイソシアネートが広く使用されている。

Fig. 1.

 Cross section of general pre-coated steel sheet.

プレコート鋼板は,連続塗装ラインにて鋼帯状で製造されるのが一般的であり,塗膜の硬化においては両層とも概ね30秒から1分以内で鋼板温度を200°C超とする急速加熱が行われる。プレコート塗料は,樹脂や顔料等の固形分の他に溶剤を含有しているため,塗膜の内部で溶剤が急激に気化することにより塗膜中に気泡が発生し,この気泡が塗膜外に抜けずに残留したまま塗膜が硬化すると,「わき」と呼ばれる泡欠陥が塗膜に生ずる。同一の加熱条件で比較すると,この泡欠陥は膜厚が厚いほど発生しやすく,プライマー層とトップコート層とでは,一般的に設定膜厚が厚いトップコート層で問題となることが多い。

泡欠陥が発生する機構は,塗膜内部での溶剤の沸騰により説明されるのが一般的である。例えばPriceやAustらは,熱風乾燥炉で樹脂/溶剤系の塗膜を乾燥するときに発生する泡(「わき」と同じ現象と思われる)は,溶剤の分圧が大気圧を越えるときに発生するとしている3,4)。しかし,実際の塗膜の硬化過程で発生する揮発性物質は溶剤だけではなく,樹脂や硬化剤の反応生成物がそれぞれの反応温度で発生する影響も存在する。また一方で,塗膜の硬化の影響も無視できない。すなわち,塗膜の硬化が進行して気体の拡散が阻害されることにより,塗膜内部での溶剤の分圧の上昇が大きくなり泡が発生しやすくなり,さらに硬化により塗膜の流動性が低下していることにより,発生した泡が塗膜中にそのまま残りやすいという機構も同時に働いていると考えられる。このように,泡欠陥は種々の要因が影響する複雑な機構により発生していると考えられる。

本報では,加熱硬化型塗膜の泡欠陥の発生機構を解明する一環として塗膜の硬化の影響に着目し,TBA(Torsional Braid Analysis)5)を用いて,ブロックイソシアネート樹脂を硬化剤とするポリエステル樹脂溶液をモデル塗料とした塗膜の硬化挙動と泡欠陥発生との関係について調べた結果について報告する。

2. 実験方法

2・1 検討した樹脂溶液と塗装条件

Table 1に示す6種類の樹脂溶液を供試剤とした。いずれもポリエステル樹脂,ブロックイソシアネート樹脂,および有機溶剤により構成される。ポリエステル樹脂は,いずれも数平均分子量が約3500であり,官能基数や樹脂骨格の分岐構造が異なる3種類のもの(P1,P2,P3)を使用した。イソシアネート樹脂は数平均分子量が1500-2000で官能基数が異なる3種類のもの(I1,I2,I3)を使用した。イソシアネート樹脂はすべて水素添加型キシリレンジイソシアネートを原料とし,ブロック剤としてメチルエチルケトンオキシムを使用したものである。なお,Table 1に記載した各樹脂の官能基数は,ポリエステル樹脂については水酸基(−OH)数を,イソシアネート樹脂についてはイソシアネート基(−NCO)数を表し,いずれも樹脂設計時の計算値である。ポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂は,NCO/OH当量比が1.20となるように配合し,不揮発分が55質量%となるように有機溶剤にて濃度調整した。有機溶剤組成はいずれもシクロヘキサノン/芳香族炭化水素系溶媒=1/1混合溶剤(質量比)とした。シクロヘキサノンの沸点は155°C,使用した芳香族炭化水素系溶媒の初留点は183°Cである。使用した樹脂溶液はいずれも顔料を添加しないクリアー塗料とした。

Table 1.

 Resin liquid samples used in this study.

以上のように配合した樹脂溶液は,化成処理(クロメート処理)およびプライマー層(日本ペイント社製P185塗料,乾燥膜厚5μm,乾燥温度220°C(到達板温度))を形成した溶融亜鉛めっき鋼板上に,バーコーターを用いて塗布し,熱風型乾燥炉にて加熱し塗膜として形成させた。乾燥条件は,到達板温度230°C,到達時間50秒とした。樹脂溶液の乾燥膜厚を種々変化させたものを作製した。

2・2 泡欠陥の発生しやすさの評価

種々の膜厚で乾燥硬化させた塗膜を10倍のルーペで観察して泡欠陥発生の有無を調べ,泡欠陥が発生しない最大の乾燥膜厚(Hp)を求めた。

2・3 樹脂の硬化挙動の測定

TBAは繊維ガラスを撚って束にしたものを組みひも状に編んだブレイド(より糸)に樹脂溶液を飽和量まで含浸させ,温度が調整できるチャンバー内にセットし,温度を上昇させながら振動系を構成している慣性体をねじり,次にこれを解放することにより振動系に自由減衰振動を生じさせ,この振動曲線の周期や対数減衰率を測定することにより,弾性率比Gr(室温における初期弾性率に対するある温度での弾性率の比,貯蔵弾性率に相当)および,損失率L0(弾性率と損失弾性率の比でtanδに相当)を求める試験方法であり,樹脂溶液中の樹脂の硬化過程における物性の時間的変化を測定することができる。

TBA装置は,柴山科学機器製作所製ねじり振動式粘弾性測定装置(SS-TBA-4A型)を使用した。ブレイドに樹脂溶液を含浸させ,60°Cで減圧して溶剤を揮発させてから測定した。ねじり角度を15度とし,昇温速度は,樹脂物性の変化が大きい温度領域では,測定精度を上げるため昇温速度を低く設定し,室温~90°Cおよび200~250°Cを4°C/分,90~200°Cを2°C/分とした。

3. 結果と考察

3・1 粘弾性挙動と泡欠陥

各樹脂溶液について,泡欠陥の発生のない最大乾燥膜厚(Hp)を求めた結果をTable 2に示す。これより,樹脂溶液の違いによってHpは15μmから23μmまで大きく変化し,泡欠陥には樹脂溶液の樹脂の組成が強く影響していることがわかる。

Table 2.

 Hardening behavior of resin liquid samples.

一方,各樹脂溶液についてTBAの測定を行い,得られた測定グラフの例として樹脂溶液1のものをFig.2に示す。他の樹脂溶液についても,得られたグラフの形状(GrL0の変化の挙動)はいずれも同様であったため,ここではFig.2を用いてグラフの解釈を行う。先ず,室温から温度が上昇すると樹脂の溶融粘度が低下するため,初期には弾性率比(Gr)は若干減少する。120-140°C付近から樹脂の硬化反応が始まるためGrは上昇し,硬化が終了するとGrはほぼ一定の値となる。一方,損失率(L0)の値は室温から120-140°C付近まではほぼ一定値をとるが,T1より約4°Cほど高い温度T2から一旦上昇し,さらに温度が上昇すると逆に低下する。各樹脂溶液について,樹脂の硬化が始まりGrが上昇しはじめる温度T1,L0が上昇しはじめる温度T2,およびL0が減少に転ずる温度T3をそれぞれ求めた。また,最終的にGrL0がほぼ一定になる温度T4,およびGrL0が一定となったときの値「終点Gr」および「終点L0」をTBAの測定結果から求めた。各樹脂溶液について求めたこれらの値をTable 2に示す。さらに,各樹脂溶液の製膜後の塗膜のガラス転移温度(Tg)をTMAの針侵入法6)にて測定した結果も,Table 2に併せて示す。

Fig. 2.

 Result of TBA measurement (Liquid 1).

Table 2より,いずれの樹脂溶液においてもT2はT1より4°C高い値となっており,T1で示される樹脂の硬化反応の開始温度と連動していることがわかる。また,T1およびT2は比較的狭い温度範囲内に入っている。一方,T3はT1やT2とは関係のない値となっており,樹脂溶液の差により140°Cから166°Cの間で大きく変動している。T3はT1やT2とは異なる現象を示しているものと考えられる。また,T4の値はGrL0いずれから求めた場合も差がなく,このT4が硬化反応の終了温度であると考えられる。T4は樹脂溶液によらず比較的狭い温度範囲内に入っている。

各樹脂溶液について,HpとT1~T4の各温度との関係をFig.3に示す。T1およびT2とHpとの相関は見られず,樹脂溶液中の樹脂の硬化開始温度に相当するT1およびT2は泡欠陥とは直接の関係がないことがわかる。また,T4も樹脂溶液によらずいずれも172-180°Cとほぼ近い値をとっている。一方,T3とHpとには高い相関があり,T3が高い樹脂ほどHpが高く,泡欠陥が発生しにくいことが見出された。

Fig. 3.

 The relation between T1~T4 andHp.

ここでT1~T4の各温度の意味するところについて考察する。T1にて弾性率比Grが上昇し,次いでT2にて損失率L0が上昇しはじめるのは,樹脂溶液中の樹脂の硬化反応が始まり,樹脂の二次元的な架橋が始まるためと考えられる。GrだけでなくL0も上昇するのは,三次元的な架橋には至らないが,反応開始によって樹脂どうしが結合をはじめ,塗膜中での樹脂分子量が上昇することにより損失弾性率が上昇するためであると考えられる。T2からさらに温度がT3に上昇するとL0が低下に転ずるのは,樹脂の三次元的な架橋が始まり,樹脂どうしが拘束されるようになるためであると考えられる。配合している樹脂が多官能性であるため,架橋が網目状に進展し始めることに対応する。このT3が高いほどHpが高い(泡欠陥が発生しにくい)という結果から,樹脂の三次元的な架橋が始まる温度が高いほど,塗膜中の溶剤が系外に蒸発できる時間が長くなるために系内の溶剤量が少なくなりやすく,泡欠陥が発生しにくいものと考えられる。T3の温度は,本実験における樹脂溶液に使用している溶剤のひとつであるシクロヘキサノンの沸点(155°C)に近いため,T3の温度によって泡欠陥の発生しない最大膜厚も大きく変化したと思われる。なお,もう一方の溶剤である芳香族炭化水素系溶媒は,初留点が183°Cといずれの樹脂溶液の硬化終了温度よりも高温側にあるため,揮発時にはいずれの樹脂溶液でも硬化は同様に進んでおり,泡欠陥に対する影響差は樹脂溶液間で少なかったものと考えられる。以上から,樹脂溶液の揮発成分の塗膜系外への蒸発は,樹脂の三次元的な架橋が始まると大きく阻害され,二次元的な分子量増加だけでは蒸発はさほど阻害されないと結論できる。T3ができるだけ高い温度になるような樹脂溶液設計が泡欠陥の抑制に有利であると思われる。

本実験で樹脂溶液の違いによらずT1がほぼ近い値を示したのは,使用したブロック剤が一定であったからであると考えられる。通常,水酸基とイソシアネート基の反応が低温で進行しないようブロック剤でブロックされたイソシアネートを使用するのが一般的であり,本実験の樹脂溶液でも反応開始温度がブロック剤の種類で決定されたと考えられる。本実験で使用したブロック剤であるメチルエチルケトンオキシムの実用上の解離温度は130~150°Cであり,本実験におけるT1の値がいずれもこの解離開始温度に近いことが,この推定を支持している。

一方,硬化反応の終了温度であるT4が樹脂溶液によらずいずれも172-180°Cとほぼ同一である理由は明らかではないが,共通して使用しているイソシアネートモノマー(水素添加型キシリレンジイソシアネート)がこの温度で熱分解して反応性を失い,この温度を以て硬化反応が終了するためである可能性が考えられる。

3・2 樹脂の官能基数と硬化挙動

泡欠陥に影響を及ぼすT3の温度と,樹脂組成との関係を考察するため,樹脂の官能基数の和(ポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂の官能基の和)とT3との関係をFig.4に示す。官能基数の和が大きいほどT3が低い(すなわち泡欠陥が発生しやすい)傾向が見られる。官能基数が大きいほど,二次元的な架橋が三次元的な架橋に移行しやすいためにT3が低くなるものと考えられる。また図中の数字は塗膜のガラス転移温度(Tg)を示しており,同じ官能基数同士で比較すると,高いTgの塗膜を形成する樹脂溶液ほどT3が低い傾向が見られる。これは,比較的低粘度で流動性が高い低温の状態で三次元的な架橋が開始されるほど,塗膜のネットワーク化が効率的に進行し,最終的に形成される塗膜のTgが高くなることを意味していると考えられる。

Fig. 4.

 The relation between Total number of functional groups and T3.

Fig.5に,硬化終了後(T4以降)一定になったときのGrおよびL0の値(終点Grおよび終点L0)と,Hpとの関係を示す。Hpが低い(泡欠陥が発生しやすい)ものほど,終点Grが高くかつ終点L0が低くなる傾向が見られる。ポリマーのガラス転移温度(Tg)以上での弾性率Er(本実験での終点Grに相当)は,ポリマーの架橋密度に対応しているため7)Fig.5の傾向はすなわち,泡欠陥が発生しやすいものほど硬化終了後の最終的な架橋密度が高くなる傾向があることを示している。

Fig. 5.

 The relation between Hp and Terminal viscoelasticity of resins.

そこで,架橋密度と樹脂組成との関係を考察するため,終点Grおよび終点L0の値と,樹脂の官能基数の和との関係をFig.6に示す。これより,終点Grは官能基数の多い樹脂溶液で高く,逆に終点L0は低くなる傾向が明確である。これは官能基数の多い樹脂溶液であるほど架橋密度が高くなるため,分子の拘束が強くなるためと考えられる。泡欠陥と密接に関係する架橋密度は,樹脂の官能基数の和によってほぼ決定づけられるといえる。

Fig. 6.

 The relation between Total number of functional groups and Terminal viscoelasticity of resins.

4. 結論

ポリエステル/イソシアネート樹脂溶液を用いて,塗膜の硬化挙動と泡欠陥の発生限界膜厚との関係について,TBAを用いて検討した。その結果,以下のことがわかった。

1)塗膜の硬化過程では,先ず二次元的な架橋が開始され,続いて三次元的な架橋が開始される。溶剤など揮発成分の蒸発が阻害されるようになるのは三次元的架橋が開始された後であり,二次元的な架橋段階では蒸発に大きな影響を及ぼさない。

2)三次元的な架橋が始まる温度(T3)が低い塗膜ほど,泡欠陥が発生しやすい。

3)樹脂の官能基数が多いほどT3は低くなり,泡欠陥が発生しやすい。また同じ官能基数の場合には,塗膜のガラス転移点Tgが高いほどT3は低くなり,泡欠陥が発生しやすい。

さらに,樹脂の官能基数と硬化挙動との関係を調べた結果,以下のことがわかった。

1)樹脂の官能基数の和が大きいほど,終点Grが高く,終点L0が低い。これは製膜後の架橋密度が高くなることに相当する。

2)樹脂の官能基数の和が大きいほど,二次元的反応が三次元的架橋に変化するまでの時間が短い。多官能のため三次元的な架橋反応が起こりやすいためであると考えられる。

3)ブロックイソシアネート硬化剤を使用した樹脂溶液の場合,反応開始温度T1はブロック剤の解離温度によって,反応終了温度T4はイソシアネートの分解温度によって決定されることが示唆される。

文献
 
© 2013 The Iron and Steel Institute of Japan

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