本稿では化学肥料の使用と灌漑がアフリカの小規模農民の食料安全保障に与える効果についてザンビア中央部の一つの村を事例として検討した。事例村では,近年注目されている湿地帯を利用した小規模灌漑が広く行われている。本稿では小規模農民世帯の食料安全保障には,自家消費用の食料作物の生産だけでなく,それ以外の農業活動や非農業活動が食料確保の原資を提供する形で貢献し得る点に注目した。
調査の結果,トウモロコシの生産は気象条件(旱魃等)と化学肥料の入手状況に影響されること,灌漑による乾季のトウモロコシ作は限定的であり,むしろ灌漑による野菜生産,小規模ビジネス,親類からの送金が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。これらによる現金収入が化学肥料等の購入または食料の購入に使われ,食料安全保障が改善した。