季刊地理学
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特集論文
ザンビア中部州一農村における農業の技術変化と不安定な生産
── 市場経済の浸透と農民の反応 ──
半澤 和夫
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2015 年 66 巻 4 号 p. 255-268

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抄録

ザンビアでは2000年以降,市場経済の発展と貿易の自由化が農業生産と農村経済に大きな影響を与えている。銅価格の上昇が主要因でGDPの年平均成長率は5.6%(2001-2010年)となり,その結果,国内の食料需要は増大してきた。本論文は,これらの変化について一農村を対象に技術的・経済的な視点から考察した。大農部門では大型灌漑設備をもつ農場が増えているが,小農部門でも化学肥料や改良品種などの投入財に加え,小型エンジン・ポンプを利用した灌漑農業が普及し始めた。2010年現在,灌漑用ポンプの普及は村世帯の約1割であるが,灌漑水の大量利用は将来,村の貴重な水資源を圧迫することになると推測される。年1回の雨季と乾季が明瞭に分かれる自然条件下で,天水によるトウモロコシの栽培時期は従来,雨季に限定されていた。村内で地表水や地下水が年中利用できる一部地区では,乾季でも灌漑によるトマトやスイカなどの栽培が盛んであった。小型ポンプの導入はトウモロコシの二期作や野菜栽培など農業生産の多様性を可能にしたが,一方で高費用の農業生産が経営を圧迫し,脆弱性を強めている。小型ポンプによる井戸水灌漑の周辺では,ポンプを所有しない世帯の乾季の栽培面積が縮小している。

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© 2015 東北地理学会
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