本研究は,耕作放棄の要因と指摘されている農地の低生産性と農業労働力の減少が顕著な西会津町上谷地区における耕作放棄の抑制メカニズムの実態とその有効性を明らかにするため,ここでは農地利用と農作業分担の面から分析した。
西会津町は,工芸作物の衰退,農業規模の零細性,高齢化による農業労働力の減少という農業特性を持つ。一方,人口流出先が関東地方から会津若松市や喜多方市,郡山市といった近接する都市域へと変化したこと,高速道路による交通網が整備されたことから,西会津町は他出子弟が農作業に従事しやすい環境にある。本研究では,こうした特徴が町内の中でも顕著である上谷地区を事例に考察した。まず,農地利用の点からは,養蚕業の衰退に伴う桑園の縮小に対して植林を行うことにより耕作放棄を抑制していた。次に,農作業分担の形態からみると,上谷地区の農家は① 自己完結型,② 他出子弟援農型,④ 他出子弟完結型,④ 地区内作業委託型に類型化することができる。多くの農家では他出子弟による農作業従事がなされていたが,この背景には他出子弟の居住地が近接であることがあげられる。また,他出子弟の農作業従事は実家に限定されていることから,農業労働力としては個別的かつ限定的なものに過ぎない。このため,地域的および持続的な耕作放棄の抑制には他出子弟を含めた地域農業の組織化が必要である。