季刊地理学
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中国・内モンゴル自治区における草地分割利用制度の導入と牧畜経営・草地利用の変化
ショロンチャガン旗を事例に
蘇徳 斯琴
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2005 年 57 巻 3 号 p. 137-149

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抄録
1998年に中国・内モンゴル自治区政府は, 牧畜業の持続的発展と, 草地に対する牧民自己管理強化による草地の保護を目的に, 従来からの草地の共同利用制度を廃止し, 草地分割利用制度を導入した。本稿では, 自治区中央部に位置するショロンチャガン旗を事例にして, 草原地域の牧畜経営と草地利用の形態が草地分割利用制度の導入によりどのように変化したかを現地調査を踏まえて検討した。
草地分割利用制度導入により, 平地の優良草地が個人へ配分されると同時に, 牧民達の個人投資により鉄柵で囲まれた。その一方で, 植生の脆弱な丘陵地が共用地として残され, それに対する投資や管理システムはなく, 無秩序利用状態に陥っている。また, 牧民間の所有草地面積に格差が生まれ, 世帯間に経済格差と経営意識の差が生じ, 共同意識より競争意識が強くなった。商品経済の浸透により牧民達の所得向上意識が高まり, 草地貸借関係も現れ, 一部の牧民は草地借入によって経営草地面積の拡大を図り, 飼養家畜頭数が増加した。同時に, カシミヤ産業の振興を背景にヤギの飼養頭数も激増し, 畜種転換が進んだ。また, 禁牧政策が実施された農業地域からの家畜委託現象も生じた。これらの外部家畜の受託は主に共用地での無制限な放牧を前提条件にして成り立っている。
このような一連の変化の結果, 単位面積当たりの家畜飼養頭数が急速に増加し, 草地全体への負荷が一段と増大した。とくに, 草の成長期に, 私用地よりまず共用地を優先的に利用することが共用地における放牧圧力を強める結果となった。
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