Thermal Medicine
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ヒト正常線維芽細胞および骨肉腫細胞を用いた温熱および放射線刺激によるATM特異的阻害剤の効果
井上 幸平川田 哲也斉藤 正好劉 翠華宇野 隆磯部 公一伊藤 久夫
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2010 年 26 巻 3 号 p. 97-107

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抄録

温熱は放射線によるDNA損傷からの回復を遅らせる作用を有している. 一方, 温熱自体も細胞致死効果を有している. 温熱による細胞死の原因としてDNA二重鎖切断が示唆されているが未だ議論の多いところである. さらにconfluentな細胞における温熱の有効性についても結論には至っていない. 今回我々はDNA損傷修復タンパク質であるATMの阻害剤を用いてconfluentな細胞における放射線および温熱刺激のDNA損傷を観察することとした. Confluentなヒト正常線維芽細胞および骨肉腫細胞を使用した. 45°Cの温水による温熱単独刺激およびX線+温熱併用刺激を与えた. 生存率の検討としてコロニー形成法を用いた. 染色体修復障害はPCC (Premature Chromosomal Condensation) 法を用いて凝集させた染色体をFISH (Fluorescence in situ Hybridization) 法により観察した. 染色体は正常細胞では1番と3番を, 癌細胞では18番染色体を観察した. 温熱を併用したX線刺激に対しては生存率の低下および染色体修復障害の増加を認めた. 温熱単独刺激においても加温時間に比例して生存率の低下および染色体修復障害の増加が認められた. これらはATMを阻害することでより効果的となった. 以上の結果から, confluentな細胞においても温熱が有効であることが判明し, 温熱によってDNA二重鎖切断が生じている可能性が示唆された. 温熱単独でもDNA二重鎖切断が観察された意義は大きく, ATMを阻害して染色体異常を観察したのは初めてのことと思われる. また, 非S期での温熱の有効性が得られたことは興味深い. これらの結果は臨床においても, 温熱による副作用や腫瘍内部の温熱の有効性という観点からも意義あるものと思われる. ただし, 温熱によるタンパク質変性の問題や非S期の正確性など, いくつかの問題点も浮き彫りとなり, これらについては今後の検討課題と思われた.

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© 2010 日本ハイパーサーミア学会
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