東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-051
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運動継続時間および経過時間の提示の有無が呼吸循環応答に与える影響
*生田 雄亀井 健太野々山 忠芳嶋田 誠一郎北出 一平久保田 雅史五十嵐 千秋安竹 正樹馬場 久敏
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抄録

【目的】 運動処方において、運動時間は頻度や強度、種類と並び重要な要素である。通常臨床においては、これらの要素を事前に対象者に伝え運動を実施する。一方で、運動時には実施環境や実施条件が異なることにより、生体反応が変化してくることが報告されている。しかし、運動の継続時間の認識と呼吸循環応答の関連を検討した報告は、我々が探した限り見当たらない。よって本研究は、運動継続時間の認識の有無が呼吸循環応答にどのような影響を及ぼすかついて検討することを目的とした。仮説として、運動強度が高い場合では運動継続時間が把握できないことにより過剰な呼吸循環応答がみられるのではないか、一方で運動強度が低い場合では運動継続時間の認識の有無に関わらず呼吸循環応答に変化はみられないのではないかと考えた。 【方法】 対象は、健常若年成人9名(男性6名、女性3名、平均年齢25.2±4.6歳、平均身長164.1±9.9cm、平均体重64.4±16.2kg)であり、内科的疾患および整形外科的疾患のある者を除外した。まず、運動負荷強度の決定のために、自転車エルゴメータ(AEROBIKE 75XL、COMBI社製)と呼気ガス分析装置(AE-300、MINATO社製)を用いて運動負荷試験を実施し、V-slope法により嫌気性代謝閾値(AT)を算出した。運動強度はATと-20%AT(AT時のV(dot)O2からpeak V(dot)O2の20%を引いた値)の2種類とし,それぞれの1分前の負荷量を処方した。運動は自転車エルゴメータを用いて行い、運動課題はAT時の負荷で30分間の時間提示あり(課題A)、AT時の負荷で30分間の時間提示なし(課題B)、-20%ATの負荷で30分間の時間提示あり(課題C)、-20%ATの負荷で30分間の時間提示なし(課題D)の4項目とした。それぞれの測定は、運動負荷試験より10日以内に同じ時間帯に実施した。課題の順序は無作為に設定した。運動環境は、室温・湿度ともに同条件にて行い、時間提示なしの課題のみ自転車エルゴメータのモニター部分に表示される経過時間を庶蔽し、時間経過が把握できないよう配慮した。測定項目は5分毎の心拍数(HR)および収縮期血圧(SBP), 5分間毎を平均した換気量(V(dot)E)および酸素摂取量(V(dot)O2)とした.課題Aと課題B、および課題Cと課題Dの比較には、それぞれ対応のあるT検定を用いて統計的検討を行い、有意水準は5%とした。なお、本研究はヘルシンキ条約を遵守し、また被験者の了承を得て実施した。【結果】 課題Aと課題Bの比較:V(dot)O2は25分まで、課題Bの条件で高値となる傾向を示し、0-5分間および15-20分間は有意に高値を示した。V(dot)Eは0-5分で課題Bが高くなる傾向を、また25-30分で課題Aが高くなる傾向を示したが有意ではなかった。SBPおよびHRにおいては差を認めなかった。 課題Cと課題Dの比較:それぞれの項目において顕著な差を認めなかった。 【考察】 AT負荷時の時間提示なしの条件で、25分までの各5分間のV(dot)O2が時間提示ありの条件よりも高値となる傾向を示した。これは、同じ運動強度であっても運動継続時間の認識が無いことにより、より高い負荷になってしまう可能性を示唆する。また、運動開始時の呼吸応答をみると、V(dot)O2およびV(dot)Eにおいて開始直後で時間提示なしの条件で高値を示した。外林らは運動時における時間把握は、運動パフォーマンスの発揮に重要な要素である可能性を報告している。今回の検討においては、時間経過が把握できない状態では、運動負荷の程度を時間強度などから多次元的に予測することが困難となり、過剰な呼吸応答を惹起した可能性がある。一方で、終了直前の時間提示ありのV(dot)Eで高値を示す傾向を認めた。これは、運動継続時間を認識し運動終了を意識することによる生体反応である可能性があり、通常の運動処方の際にも運動終了直前の過剰な呼吸応答に注意する必要性を示すものであるかもしれない。 【まとめ】 ATおよび-20%AT時の負荷において、運動継続時間および経過時間の提示の有無が呼吸循環応答に及ぼす影響を検討した。AT時の負荷において、運動継続時間の提示がない場合は運動の前半に、一方で運動継続時間の提示がある場合は運動終了直前に過剰な呼吸循環応答を示す可能性があり、今後更なる検討が必要である。

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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