東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-12
会議情報

バランスト・スコアカードを用いたリハビリテーション部門管理の取り組み
1年間の運用を振り返って
*佐々木 嘉光増井 大助吉村 由加里仲野 四朗井口 英子鯨井 ゆき大山 美保北川 恵里
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】バランスト・スコア カード(BSC)は経営諸活動を多面的な視覚から分析し、戦略を実行する為の具体的な行動を識別して管理するツールとして多くの医療機関で導入されている。当法人リハ部門では平成22年度に BSC を導入し部門内の収支や委員会活動、職場・学習環境等の成果を管理するためのツールとして運用している。今回 BSC 導入後1年間の運用を振り返りリハ部門の戦略目標や成果指標の特徴と課題を検討したので報告する。
【方法】平成22年度当法人リハ部門は46名が在籍し、302床の病院に36名、50床の病院に4 名、150床の介護老人保健施設に6名を配属していた。ここ数年でスタッフが急激に増加し、結婚・出産や大学院に挑戦をするスタッフが増え、多様な働き方を支援しながら専門職としての学習が出来る職場・学習環境の整備が必要であった。当法人リハ部門では円滑な組織運営にするためにリハ部門委員会の設置や職場・学習環境の見直しを行い課題の改善を行っていた。しかし役割が多岐にわたるにつれて、情報の共有が困難になり始めた。そこで各活動の成果や情報を共有して PDCA サイクルを円滑にするためのツールとして BSC を導入した。 BSC の導入にあたっては平成21年度末に2日間の研修会を開催し、各施設の職制18名が集まって検討した。研修会では BSC の講義と SWOT 分析を行い、 BSC の4つの視点に沿って戦略目標や成果指標を検討した。 BSC の項目はリハ部門の職制会議で随時見直しを行い修正された。 BSC 導入の効果を検討するため、平成22年4月から平成23年3月までの結果について目標値と対前年度の比較を行った。比較には成果指標の項目のうち対前年度比較が可能であった10項目を用いた。
【結果】対前年度比較が可能であった成果指標は、顧客の視点は患者一人当たりの実施単位数の1項目、財務の視点は療法士一人当たりの月別売上、療法士一人当たりの週間単位数の2項目、業務プロセスの視点は残業時間、職場満足度、がんばるタイム有効度、働きがい満足度の4項目、学習・成長の視点は、各療法士協会の新人教育プログラムの修了証取得率、学習環境の満足度、プリセプターシップの満足度の3項目であった。
成果指標10項目のうち目標値を達成出来た項目は1項目(患者一人当たりの実施単位数)で、1項目(新人教育プログラムの修了証取得率100%)は維持された。対前年度比較では6項目に改善(患者一人当たりの実施単位数、療法士一人当たりの月別売上、残業時間、職場満足度、がんばるタイム有効度、学習環境の満足度)がみられ、2項目(働きがい満足度、新人教育プログラムの修了証取得率)は維持された。2項目(療法士一人当たりの週間単位数、プリセプターシップの満足度)は減少を示した。前年度と比較して10%以上の改善率を示した項目は、個別実施単位数の向上(35%改善)、残業時間(13%減少)、学習環境の満足度(18%改善)であった。
【考察】今回 BSC を導入した結果、対前年度比較が出来た10項目のうち6項目は改善、2項目は維持、2項目は減少を示した。改善の要因としては責任者が明確になる事で PDCA サイクルがスムーズに展開した事や、リハ部門の目標達成に向けた各戦略目標と成果指標・目標値が示されたことで情報が共有しやすくなった事などが考えられた。患者満足度を高めるために患者1人当たりの実施単位数の向上が成果指標として挙げられたが、目標値を達成し、対前年度比で35%の改善を示すなど大きな成果を上げることが出来た。また13%の残業時間の短縮は、育児や大学院に通うスタッフの働き方に良い影響をもたらすことが出来た。一方で十分な改善率を示せず昨年度よりも成果指標が減少した項目も見られたが、 BSC 導入により部門の課題が明確となり、スタッフが課題を共有できたことは意義深いと考える。特に療法士一人当たりの週間単位数の減少は、各病棟の職制によるマネジメントの強化が必要である事を示した。1年間運用して生じている課題としては、職制がトップダウンで作成したためスタッフに浸透していない事、ビジョンと戦略が十分に時間をかけて検討出来ていないため、成果指標の目標値達成に終始してしまっている事が挙げられる。今後はスタッフ全員の意見を集約出来るようなボトムアップの仕組みを作ったうえで、 SWOT 分析によるビジョンと戦略目標の策定を行う必要があると考える。
【まとめ】リハ部門の組織運営を管理するツールとして BSC を導入し、導入後1年間の運用を振り返ることでリハ部門の戦略目標や成果指標の特徴と課題を検討した。今後 BSC をより効果的なツールとして運用するためには、スタッフ全員の意見を集約する仕組みと、十分な時間をかけて SWOT 分析を行い、ビジョンと戦略目標の策定を行う事が必要であると考える。

著者関連情報
© 2011 東海北陸理学療法学術大会
前の記事 次の記事
feedback
Top