東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-21
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心臓血管手術後のせん妄発生による理学療法の影響
しんぞうけっかんげかしゅじゅつごのせんもうはっせいによるりがくりょうほうのえいきょう
*山田 哲也新屋 順子土屋 忠大中神 孝幸中山 禎司平岩 卓根
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抄録

【目的】心臓血管外科手術後のリハビリテーション(以下リハ)では, 社会復帰を目的に,全身状態に留意しながら早期離床を行い,合併症や廃用症候群の予防につとめている.しかし,術後にせん妄が発生すると術後の全身管理に支障を来し,リハの遅延から離床に難渋することが多い.今回,当院の心臓血管外科手術後のせん妄発生状況を調査し,理学療法(PT)介入の阻害要因となり得るかについて調査したので報告する. 【方法】平成22年1月から12月までの期間に当院心臓血管外科で手術を施行し,PTが処方された開心術,冠動脈バイパス術,大血管手術後の41例を後方視的に調査した.術前より歩行が自立していなかったもの,手術を繰り返したもの,術後抜管せずに死亡された症例は除外した.術後に不穏状態を認めたものをせん妄群,認めなかったものを非せん妄群と2群に分類した.PT介入病日,術後抜管病日,歩行開始病日,術後在院日数,転帰を調査した.統計学的処理は,2群の差の比較にはMann WhitneyのU検定,割合の差の比較にはカイ二乗検定を使用した. 危険率5%未満を有意とした. 【結果】術後不穏症状がみられたものは19例,みられなかったものは22例であった.せん妄群は年齢53~87歳(中央値75.0),男性14例,女性5例,待機手術15例,緊急手術4例であった.非せん妄群は年齢33~81歳(中央値71.5)),男性10例,女性12例,待機手術21例,緊急手術1例であった.年齢,男女比,待機手術と緊急手術の割合は2群間で有意差はみられなかった.術式(弁置換・弁形成術/冠動脈バイパス術/人工血管置換術/弁置換とバイパス術や人工血管置換術の複合術/その他)はせん妄群では(4/3/9/2/1),非せん妄群では(13/6/2/0/1)であった.術前に既往症を有していたものはせん妄群で19例中15例,非せん妄群では22例中16例であり主な既往症は両群ともに高血圧症,高脂血症,糖尿病,腎不全等であった.術後合併症はせん妄群では19例中8例,非せん妄群では22例中6例であり,せん妄群では腓骨神経麻痺の発生が3例みられた.PT介入病日はせん妄群では術後介入13例(1~12日) ,非せん妄群では術後介入12例(1~6病日),であり有意差はみられなかった.術後の抜管病日はせん妄群0~29病日(中央値2.0),非せん妄群0~5(中央値1.0)であり有意にせん妄群で遅延していた.術後歩行開始病日はせん妄群では2~52病日(中央値9.0),非せん妄群では2~26病日(中央値4.0)であり有意にせん妄群で遅延していた.術後在院日数でもせん妄群6~106病日(中央値37.0),非せん妄群11~49病日(中央値25.5)であり有意にせん妄群で長期化していた.転帰(自宅退院/転院/死亡)はせん妄群(15/3/1)であり,転院の理由は長期臥床による廃用症候群,嚥下障害,院内転倒による大腿骨頸部骨折であった,非せん妄群では(22/0/0)であり全例自宅退院された.自宅退院と転院または死亡退院の割合は2群間で有意差は見られなかった. 【考察】せん妄群では有意に抜管病日が遅延しており, その原因として,術後の病態が重篤であったことが推察される.術後の全身管理に伴う長期人工呼吸器管理はせん妄発生リスクの一つであると考えられた.術後抜管病日が遅延するために,その後の歩行開始病日が遅れ,術後在院日数の長期化もみられたが,転帰では2群間で有意差がみられなかった.せん妄発生により術後在院日数は長期化するものの,理学療法士の介入により概ね入院前のADL能力を獲得し,自宅退院が可能であったと考えられた.術後のPTでは人工呼吸器管理中は肺合併症や,拘縮予防,ポジショニングを行い,臥床期間中ではベッド上にて廃用症候群を予防し,離床がスムーズに行えるよう努めることが重要であると考えた.せん妄の発生は離床の遅延に繋がることがあるが,病状に応じた適切なPTの介入により, ADL獲得が望めるものと考えた. 【まとめ】今回心臓血管外科手術後患者のせん妄発生状況を調査し,PT介入の阻害因子となり得るかについて検討した.せん妄群では有意に抜管病日,歩行開始病日が遅くなり,術後在院日数が長期化していたが,転帰では2群間で有意差はみられなかった.せん妄発症により術後在院日数が長期化するものの,患者の状態に合わせてPTが介入することで,概ね自宅退院が可能であったと考えた.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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