東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-29
会議情報

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に対するmosaic plasty 術後のリハビリテーションについて
投球動作における動的アライメント
*野呂 吉則瀬戸口 芳正百済 はつえ山口 尚子大熊 晶大東 亜衣前田 雅希梶間 康之小野 大輔樋口 善英
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抄録

【目的】
 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(以下 OCD)は,少年期の外側型野球肘として知られ,投球障害の中でも重篤な疾患である。進行すると,スポーツ活動が著しく制限され,日常生活でも障害が残ることがある。野球選手に起こるOCDは投球動作による繰り返される過剰な外反伸展ストレスにより、上腕骨内側上顆裂離骨折と共に起こるvalgus extension overload syndrome(以下 VEOS) の1つと考えられている。OCDに対するリハビリテーションは,肘関節機能の回復のみならず,その病因の1つである投球フォーム(以下 動的アライメント)の改善にも努める必要がある。当院では,投球中の肘外反ストレスは運動連鎖や動的アライメントに依存するものと考え(THABER concept)リハビリテーションを行ってきた。そこで,OCD手術症例の経過と当院の投球障害への取り組みを報告する。
【方法】
 平成19年4月~平成23年5月までの当院を受診し,OCDと診断された患者73例73肘の中で,mosaic plastyを施行した24例の内,術後5ヶ月以上経過した手術症例21例を対象とした。対象の内訳は平均年齢14.5歳(12~17歳),術後経過平均観察期間12ヶ月(5ヶ月~4年),全例が男性の野球選手であった。なお,mosaic plasty は関連病院にて施行され,ほとんどの症例が術後1~2週間経過してから当院を受診している。リハビリテーションは,愛護的なROM-exから開始し、術後2ヶ月で全可動域の獲得を目指す。術後3ヶ月でMRI検査を行い、骨軟骨の回復が良好であればinterval throwing programを開始する。画像所見や臨床症状を考慮しながら,競技復帰は5~6ヶ月を目安としている。また,全例にはTHABER conceptのもとに,投球中の動的アライメントを改善すべく,ストレッチや筋機能改善訓練,投球動作練習を併用している。
【結果】
 スポーツ復帰は,競技完全復帰18例(85.7%),他競技に変更1例,不完全復帰 1例,転院1例であった。18例の競技復帰時期については,術後4ヶ月2例,4.5ヶ月1例,5ヶ月3例,5.5ヶ月5例,6ヶ月6例,6.5ヶ月1例となった。
【考察】
 mosaic plasty 術後症例21例の約86%を競技復帰へと導くことができた。また,競技復帰時期は全例が術後約6ヶ月以内であり,移植骨軟骨柱の修復過程と照らし合わせても良好な結果であると考えられる。Iwasakiらはmosaic plasty 後,経時的に上腕骨小頭のMRIを施行した結果,移植骨軟骨柱は術後6ヶ月で癒合し,12ヶ月で周囲とのゆるみを示す所見はないことを明らかにし,術後6ヶ月でのスポーツ復帰可能の根拠としている。
 当院では,移植骨軟骨柱の生着に着目し、定期的に画像検査を行い,修復過程を確認しながら運動を徐々に許可している。また,リハビリでは適切な肘関節機能の獲得と同時に,競技復帰に向けて,投球中の上腕骨小頭にかかる過剰なストレスを防ぐための患部外機能の改善に取り組んでいる。このように包括的に術後管理をしていくことが良好な結果に結びついたと思われる。冒頭にも述べたように,野球選手のOCDは投球中の繰り返されるストレスが関係していると考えられている。ブタの骨端の破断実験を行った研究において,幼弱ブタでは骨軟骨移行部の剪断強度が最も弱く,骨軟骨移行部あるいは軟骨下骨の損傷を生じやすいことが示唆されている。年少期のヒトも同様であるとすると,VEOSで説明されるように,投球中の肘外側にかかる圧迫・剪断ストレスがOCD発生の病因の1つである可能性は高いと考える。術後経過を長期的に考えると,投球中の上腕骨小頭へのストレスを減弱するための策を講じることは当然必要であろう。
 信原らは投球中の投球腕の軌跡がなす面をThrowing planeと呼んだ。我々は,投球中の最大外旋位で,空間的に十分な肩外旋がとれていれば、このThrowing planeに対し肘の屈伸の運動面(Elbow plane)が一致し、加速期での肘に作用する外反力は最小になると考えている。この場合の肩外旋は脊椎の伸展、肩甲胸郭関節の上方回旋や後傾、肩甲上腕関節の外旋といった身体運動の総計であり、肩甲上腕関節だけの外旋ではない。これをTHABER concept (Total Horizontal Abduction & External Rotation Concept)と称している。 現在のところ,復帰症例については順調な経過をたどり,競技復帰後の肩や肘の不調はほとんど認めていない。短期的には良好な成績であったと考えられる。
【まとめ】
 投球肘OCD手術症例の経過と当院の投球障害への取り組みを報告した。mosaic plasty 術後症例に対し,THABER conceptを取り入れたリハビリテーションを行い,短期成績は良好であった。

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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