東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-20
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一般口述
膝内側側副靭帯損傷に対して靭帯の修復過程に着目した一症例 ―超音波画像診断装置を用いての検討―
*奥山 智啓見田 忠幸清水 恒良奥山 あずみ
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抄録

【はじめに】 膝内側側副靭帯(以下MCL)損傷の治療は、早期運動療法を基本とした保存療法で良好な成績が示されている。一方、十分な初期治療が行われないと関節不安定性が遷延し、靭帯の機能不全等を引き起こす頻度が高くなるとの報告もある。
 靭帯の修復については、動物MCL損傷モデルを用いた研究により損傷後6~8週で成熟が著明となるが、修復靭帯は力学的強度が低下している。つまり早期運動療法では、修復靭帯への過負荷に注意が必要であると考えられる。
 今回、新鮮MCL単独損傷の症例に対して、超音波画像診断装置(以下エコー)を用いて靭帯の修復過程に着目し、理学療法を実施した。症例の経過を踏まえ報告する。
【症例紹介】 症例は40歳代男性である。現病歴は自動車事故にて受傷し他院へ救急搬送された。画像所見から左膝MCL損傷(第2度)と診断された。他院にて保存療法が施行された後、受傷後3週にリハビリ目的にて当院を受診し、受傷後5週より週2回の理学療法を開始した。エコーはMylab five(株式会社日立メディコ社製)を使用した。
【初期理学所見】 視診・触診では左膝関節周囲に腫脹を認め、MCLに圧痛が著明であった。関節可動域(以下ROM)は左膝屈曲120°、伸展-15°、徒手筋力テスト(以下MMT)は大腿四頭筋が3であった。膝靭帯損傷治療成績判定基準(JOA score)は36点であった。
【理学療法および経過】 本症例ではエコーを用いてMCLの修復過程、炎症所見、ストレステスト時のMCLと内側半月板の動態、周辺軟部組織の滑走性を画像で描出して評価を行い、画像所見と合わせてROM訓練、筋力強化を進めた。受傷後6週では、左MCL浅層の大腿骨側においてfibrillar patternの不明瞭、腫脹した低エコー像、カラードプラにより血管増生を認めた。この時点ではMCLへの機械的ストレスに配慮し、徒手的に膝関節深屈曲に必要な軟部組織の柔軟性や滑走性維持、内側広筋の強化を図った。受傷後8週では、腫脹の改善、血流量の減少が確認され、外反ストレステストにより画像上MCLの弛緩性は認めなかったことから、積極的なROM訓練を行った。9週目で全可動域を獲得、大腿四頭筋のMMTは5となった。受傷後12週では、ストレステストにてMCLは緊張を保ち内側半月板が関節内に押し込まれる動態が確認された。この時点で正座・しゃがみ込みを許可、JOA scoreは100点となり職場復帰が可能となった。
【考察】 靭帯損傷後の理学療法において、靭帯修復の経過観察は医師の指示、受傷からの時期、理学所見により行われることが一般的である。本症例においては、エコーを所見の一つとして利用し、画像上の腫脹・血流量の減少、ストレステスト時のMCLの動態、健側エコー像との比較から、おおむね8週で靭帯のある程度の成熟が得られたと考えられた。エコーにて早期より靭帯の修復状態や周辺軟部組織の状態を観察できたことにより、関節不安定性に対するリスク管理を行いながら積極的な運動療法が実施でき、良好な機能獲得に繋がったと考える。
【まとめ】 靭帯損傷の保存療法においては、損傷の部位や程度、複合損傷の合併等により靭帯修復の経過が異なるため、今後症例数を増やし更なる検討が必要である。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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