2018 年 30 巻 172 号 p. SJ33-SJ46
食用キノコの一種であるAgrocybe cylindracea(和名:ヤナギマツタケ)の子実体にはACGと名づけられたプロト型のガレクチンが含まれる。ACGは他のガレクチンと異なり、血液型A抗原やフォルスマン抗原に含まれるGalNAcα1-3Gal/GalNAcという二糖構造にも結合する。ACGの構造はS4ストランドに配置される進化的に保存された65位のAsnを欠くが(Ala65)、この欠損は本分子に特徴的な伸張したループ領域に存在するAsn46によって補われている。最近行われた部位特異的変異導入によって、このAsn46をAlaに置換したN46A変異体が上記GalNAcα1-3Gal/GalNAc二糖構造を含むオリゴ糖に選択的に結合することが示された。胡らは、Pro45がシス型で存在するという以前の観察結果から、ACGがPro45のイミド基を介し二つのコンフォメーションをとると推定した。すなわち、シス型ではβガラクトシド構造を認識し、一方トランス型では上記GalNAcα1-3Gal/GalNAc構造を認識するというものだ。この二重認識という推定メカニズムが実際に正しいことが、その後の部位特異的変異実験とX線結晶解析によって証明された。ここで注目すべきは、N46A変異体が認識しているのは非還元末端GalNAcα1-3Gal/GalNAcという二糖部分のみだということだ。「ヤヌス型」と呼べる二つの顔を持った本レクチンは、一側面では従来のガレクチンの定義を満たすが、他側面ではもはや満たさない。ガレクチンが進化の過程で逸脱する過程を構想してみた。