2019 年 31 巻 181 号 p. SJ30-SJ31
ヒアルロン酸は、主要な細胞外マトリックス成分として組織形成や細胞機能の調節に働き、その産生は癌の進展とともに著しく増加する。ヒアルロン酸合成酵素(HAS)遺伝子の発見以来、HAS遺伝子発現を操作する試みを通じて、癌におけるヒアルロン酸生合成異常の理解が急速に進んできた。我々はこれまでに、がん細胞におけるヒアルロン酸の産生が、腫瘍微小環境を改変して癌進展を促進することを明らかにしてきた。さらに最近我々は、ヒアルロン酸の産生が、解糖系やヘキソサミン合成経路の代謝リプログラミングを介して、がん幹細胞性を制御することを明らかにした。これらの発見は、ヒアルロン酸糖鎖が従来考えられてきた細胞外シグナルとしての機能の他に、その生合成反応と共役した細胞内代謝の調節機能を担っていることを強く示唆している。この総説では、がん幹細胞の制御に働くヒアルロン酸の多面的な役割について論じる。