Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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グライコレビュー(日本語)
Wntの分布とシグナル受容に関与する「ヘパラン硫酸クラスター」
三井 優輔
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 32 巻 190 号 p. J181-J187

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抄録

分泌性シグナル蛋白質ファミリーの一つであるWntは腫瘍の形成、幹細胞の維持、動物の様々な発生過程など多くの局面で重要な機能を担う。Wntはいわゆるモルフォゲンとして、濃度勾配を形成することで組織に位置情報を与える物質の一つとして考えられてきたが、Wntが組織中でどのように拡がるかのメカニズムは十分には理解されていない。一方ヘパラン硫酸プロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan, HSPG)はWntを含む分泌性シグナル蛋白質の分布やシグナル伝達に関与することが知られている。最近我々はHSPGがアフリカツメガエル(Xenopus laevis)胚およびHeLa細胞でN-硫酸化の度合いの異なるクラスターを形成することを見出し、「HSクラスター」と名付けた。アフリカツメガエル胚において、HSクラスターはグリピカンに由来し、N-脱アセチル化/N-硫酸基転移酵素によって修飾される。HSクラスターはその修飾の度合いによりN-アセチルリッチおよびN-硫酸リッチHSクラスターに分けることができるが、N-硫酸リッチHSクラスターはアフリカツメガエル胚において内在性のWnt8蛋白質が分布し、更にシグナルを活性化する際に必要な足場構造であることが示唆された。本稿では動物の胚発生におけるWntシグナルの機能について概説し、HSPGによるWnt蛋白質の分布やシグナル伝達に関する知見をHSクラスターと共に紹介する。

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© 2020 FCCA (Forum: Carbohydrates Coming of Age)
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