天然の糖タンパク質や糖ペプチド、分岐オリゴ糖などのように糖鎖が規則的に配列した多価糖鎖は、レクチンに対する優れた生体内分子認識素子として重要な役割を果たしている。近年、これら天然多価糖鎖の分子認識能を高分子や基板、粒子上などで人工的に模倣・再現することにより、細胞培養基材やウイルス吸着材などの機能性糖鎖材料を開発する試みが盛んに行われている。一方で、糖結合部位を2個以上有する多価レクチンは多価糖鎖と構造特異的に結合後、多重架橋し凝集体を形成する。この架橋複合体形成反応は普遍的な現象であるにも関わらず、一連の架橋複合体形成メカニズムは未だ不明な部分が多い。さらに、多価レクチンは病原菌や病原性ウイルス表面にも存在するため、毒素タンパク質の中和剤や抗ウイルス剤を開発する上での分子標的にもなり得る。著者らは、これら問題に対して糖鎖のクラスター数を数個程度に制御した構造明確な中分子糖鎖クラスターを多価レクチン架橋剤として設計および合成した。本稿では、その取り組みの概要について紹介する。