Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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タンパク質-グリカン相互作用と多機能エフェクターとしての動物レクチンの働きを基盤としたシグナル伝達経路への入門
Antonio VillaloboAitor Nogales-GonzálezHans-J. Gabius笠井 献一
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2006 年 18 巻 99 号 p. 1-37

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抄録

細胞膜は細胞と外部環境との間のコミュニケーションのためのインターフェイスとしてゆるぎない役割をもつ。したがって外部シグナルに対する細胞の反応性や応答能力は、細胞表面の決定基により支配される。たとえば細胞が悪性化した場合、それらのプロファイルがどのように変化するか、細胞の型に特有などのような糖鎖が出現するかを検討することから、糖鎖情報がどのように細胞の応答をもたらすか、刺激に満ちた知識を得られるだろう。しかしとかくタンパク質がすべてをにぎるハードウエアとして過大評価されがちなので、シグナル経路を検討する前に、シグナルをコードする生化学的モードを見ておく必要がある。細胞がもつ複合糖質上の糖質エピトープは、実際に情報を貯える生化学的システムの中でも特異なもので、タンパク質とは対照的で、高密度のコード化を達成できる有利な立場にあり、アダプター分子と容易に接触して相互作用できる状況にある。複合糖質が関わる生命シグナルの始動スイッチはレクチンとの相互作用である。細胞分裂促進作用をもつレクチンは、細胞の応答を誘発させ、結合を起点として、目に見える増殖促進にいたるまでの生化学的経路を解析するための道具として研究に有効に使われてきた。哺乳動物の (内在性) レクチンの役割が明らかになり、医学的応用への期待が高まるにつれ、植物のタンパク質を使ったモデル実験から、生理的意味をもつエフェクターを用いた研究へと重点が移動しつつある。細胞表面との最初の接触を成立させるには、末端が枝別れしたグリカン鎖エピトープを標的とする2つのレクチン(ガレクチンとセレクチン)がもっとも適している。これらのレクチンは、似かよった結合相手と相互作用してシグナルを誘起する有力な物質としての地位が確定している。したがってこれらのレクチンの活性プロファイルは、シグナル伝達経路の基本構造を、細かい各論はさておいて、原理に着目しつつ解析する出発点として利用できる。そこで、マイトゲン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、サイクリン/サイクリン依存性キナーゼおよび阻害分子による細胞成長の調節を先ず取り上げ、次いでホスファチジルイノシトール3'-OHキナーゼ(P13K)/Akt経路、インテグリン介在細胞接着による細胞骨格のリモデリング、細胞の運命制御に対するp53の関与、および内因性および外因性経路によるプログラム細胞死と関連づけた細胞の生き残りについて検討する。更に白血球のホーミングに際してセレクチンで誘導されるシグナルについても取り上げる。構造に主として興味をもつ糖質研究者、あるいは応用に主として興味をもつ糖質研究者に、糖質が関わる相互作用が誘起する細胞シグナル伝達の基本的概念に親しんでもらうことが本総説の目的である。

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© FCCA, Forum; Carbohydrates Coming of Age
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