新型コロナウイルス・パンデミック下で再燃した「ブラック・ライヴズ・マター(BLM)」運動は、アメリカのみならず、世界各地に拡大した。その主体である若者たちは、制度的レイシズムの根源を歴史に認め、歴史的人物の彫像や記念碑を「攻撃」し、その検証を求めた。本論考では、その最早期の事例として、ロックダウン中のイギリスで起こったコルストン像の引き倒しをとりあげ、そのタイミングを新型コロナ感染第一波と関連させて再考する。そこには、引き倒しの2日前に出された法令への「配慮」とともに、感染者数、死亡者数がエスニシティ別に公表された「コロナ禍の日常」があり、それが「イギリスの過去」を浮上させる方向へと作用していた。奇しくも日本では、引き倒しの同日、レイシズムへの無理解・無自覚を露呈する出来事が起こっていたが、それを厳しく指摘したのは歴史学者たちであった。