2022 年 27 巻 10 号 p. 10_34-10_39
表題のテーマを取り上げるに当たって、本稿ではまず、視覚障害のある学生の修学環境の改善・推移について時系列的に解説する(1章)。次に、視覚障害のある研究者の現代の就業環境について、各論・具体的な事例から一般化していくような形で述べる(2章)。
学生としてであれ、研究者としてであれ、視覚障害者が学術に関わる活動を行う上では、文献類を始めとする文字情報へのアクセスという問題を避けて通ることはできない。この問題は情報通信技術(以下ICTと表記)の発展によって大きな改善を遂げた。このようなICT活用とマンパワーによる支援、両者を実際に機能させるための制度化された支援体制の整備の度合といった諸要素の帰結として、現在の就学・研究環境が形成されている。さらに、この就学・研究環境が抱える限界や問題を考える上では、実の所その前提となっている日本の高等教育の現況を意識した分析・議論が欠かせない(3章)。
この一連の論述を、視覚障害のある学生・研究者を取り巻く具体的な状況の見取り図を示すことを通じて行うというのが本稿の試みである。