1990年代以降、冷戦体制の崩壊やIT技術の進展により、植民地責任を問うローカルな記憶がグローバルに交錯し、謝罪、和解、賠償に影響を与えている。「移行期正義」といった概念が存在感を増すなか、「帝国だった過去」を問う場、問い方も変わりつつある。本論考では、東アジアにおける植民地責任をより広いコンテクストで捉え直すべく、「イギリス帝国の過去」が顕在化したブレア政権(1997-2007)に注目し、具体的な事例を紹介する。植民地的状況で起こったアイルランド大飢饉、奴隷貿易・奴隷制度、先住民の遺骨・遺物の簒奪、脱植民地化過程における暴力──20世紀末から21世紀にかけて想起されたこれらの歴史的不正義は、当時のリアルな文脈を離れ、互いに互いの記憶を刺激しあって論点を変え、若者たちを担い手に加えつつ、共感、連帯をグローバルに広げている。この状況は、「過去と現在の対話」を生業とする歴史研究者の役割や立ち位置をどのように変えていくのだろうか。