2022 年 27 巻 2 号 p. 2_44-2_48
永久凍土分布域では土壌、植生、水などの環境を構成する因子が絶妙なバランスを保つことによって生態系が成立している。この貴重な生態系は、火災を始めとする自然の撹乱を受けるものの、時間をかけて回復することができる恒常性をもっている。しかしながら、人為による高い頻度での攪乱が起きると不可逆的な変化を余儀なくされ、その恒常性が失われてしまう。それまでにこの生態系が保持していた広大なツンドラやタイガの植生帯は失われ、地球全体での炭素貯蔵庫としての役割も果たせなくなってしまう。地下に眠る永久凍土の分布を我々は正確に把握することはできないため、地上に成立する生態系に現れる変化からその兆候を見いださなくてはならない。現在、我々が認識することができる変化は回復可能なものなのか、不可逆的なものなのか、判断することは極めて難しいが、弛まぬ環境モニタリングから貴重な生態系維持の判断材料を蓄積して行かなくてはならない。