2022 年 27 巻 2 号 p. 2_49-2_53
現在地球上の各地で急速に進行する植生の劣化は、気候変動に加え、地域ごとに異なる多様な人間活動が複合的に作用することによって引き起こされていると考えられている。本稿では、主にモンゴル北部の水制限下の植生の調査観測にもとづき、この地域の植生が気候変動と森林伐採、家畜の過放牧に対して応答するメカニズムを具体的に考察し、持続的な人間活動のあり方を探る。その際、他地域の植生変化を考える際にも重要であると考えられる以下の二つの観点に着目する:①植物の成長と土壌形成の間にはたらく“正のフィードバック”に起因する植生の状態の双安定性と、それが生み出す環境変化に対する植生の不連続・不可逆な移行の可能性。②複数の要因の複合相乗効果(シナジー)と、上記の不連続な植生変化が起こる際の環境変化の閾値の関係。