1990年代に入り、非対称的相互補完関係から対称的相互競争関係へと変容する日韓関係において、歴史問題をめぐる対立が「歴史戦」の様相を呈するまでエスカレートしてきた。それを支えるのは、対北朝鮮政策や米中対立への対応などをめぐって、日韓の安保外交政策の乖離が顕著になったことである。しかし、2022年、韓国における政権交代で尹錫悦保守政権が成立することで、少なくとも、対北朝鮮政策や米中対立への対応などの安保外交政策をめぐって日韓は接近するようになり、米国を挟んだ日韓の政策協調や安保協力の必要性は高まりつつある。一方で歴史問題をめぐる対立は、日韓の学術対立にも影響を及ぼしつつあるが、他方で安保外交政策をめぐる学術協力の可能性は高まる。日韓には、共有する課題に競争的に取り組みながら、競争が過剰な対立にエスカレートしないようにするために、対立と協力の両面を俯瞰するような学術協力をいかに進めるのかが問われる。