米国でいまアジア系市民に対する憎悪犯罪が急増している。トランプ大統領による「中国ウイルス」連呼などの影響もあるが、アジア系の場合はルーツのあるアジアの国々と米国の関係のありようが、そのパーセプションを左右する傾向が強い。近年、米国の政策決定層は党派を問わず、特に中国への対抗意識を急速に強めてきた。背景には、軍事、経済、科学、価値観などでの米国の「一強」がもはや盤石ではないという自信の揺らぎに加え、台頭する中国が米国内で格差をもたらすグローバル化の負の象徴ととらえられ、不満の矛先が向かいやすい現実がある。米国のメディアも近年、良質な政治・国際報道に力を入れてきた伝統メディアが退潮する一方、感情に訴えやすいSNSやトークラジオが影響を持つようになった。分断のあおりを受けたメディアがさらに偏見をあおる構図だ。その悪循環を絶ち、冷静なアジア観を築く方策を、米国に駐在したジャーナリストの視点から論じる。