東海社会学会年報
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開発・公害の経験と産業都市の生活環境
三重県四日市市の地域イメージをめぐって
丹辺 宣彦三田 泰雅高 娜
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2021 年 13 巻 p. 103-117

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抄録

三重県四日市市では産業構造の転換が進み,公害判決後50 年近くが経過している.本稿では2019 年に実施した質問紙調査のデータをもとに,住民たち自身が現在の生活環境と市のイメージをどのようにとらえているのを検討した.その結果,生活環境は内陸側地区で評価が高く,利便性は臨海側で高く,開発・公害をめぐって形成された東西の都市軸が現在もはっきりと刻印されていることが示された.また「公害のイメージ」は臨海側地区でなお強く,それは「空気のきれいさ」という知覚・感覚を通し,世代的経験や地域的紐帯など複数の社会的要因によっても規定されていることが明らかになった.さらにこのことが,臨海側からの若い家族の流出を再生産していること,地域へのコミットメント,まちづくりに悪影響を及ぼしていること,を地区レベルのデータから検討した.二酸化硫黄,窒素酸化物の濃度,直接の健康被害といったレベルでは環境改善が著しいとしても,住民の感覚レベル,意味付与のレベルとまちづくりにおよぼす影響という点では,開発と公害の負の遺産はなお払拭されていないことが明らかになった.

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