抄録
本研究では、重度の知的障害児に対して、1メッセージ再生装置(トーキングシンボル)を用いて他者に自分の要求を伝える行動を形成することを目的とした。まず、本児の好む玩具の「機能的操作」の出現を促した。その結果、操作に対するフィードバックとしての随伴的な変化は、より明確に子どもに伝わりやすいように設定することが、「機能的操作」の形成のために有効であると示唆された。また、指導開始以前に高頻度でみられた「舐める」行動と「叩く」行動(非機能的操作)が低減した。このことから、「機能的操作」を確立することは、「非機能的操作」の生起頻度を抑制することに効果があると推測された。次に、1メッセージ再生装置の「機能的操作」を形成したうえで、人に対する要求文脈でこの操作の出現を促す、といった段階を踏んだ指導を行った。その結果、自発的に「トーキングシンボルを押す」という要求手段の出現がみられた。以上より、玩具に対する「機能的操作」の形成、人の行為に対する「機能的操作」の形成、人に対する要求文脈での「機能的操作」の実行促進、といった段階的な指導の効果が示された。