2009 年 52 巻 1 号 p. 35-38
症例は75歳,男性.2001年より2型糖尿病として治療され,食事療法でHbA1c 6%前後で推移していた.2007年5月26日より心房細動に対し塩酸アプリンジン40 mg開始,6月27日に頭痛,関節痛,口渇,体重減少認め,同時に血糖値438 mg/dl, HbA1c 8.8%と急激な悪化と胆汁うっ滞型の肝障害を認めたため塩酸アプリンジンを中止し,インスリン強化療法を行った.治療開始から1カ月程度胆道系酵素高値が持続し,インスリン80単位/日以上必要としたが,3カ月後には胆道系酵素正常化し,血糖もインスリン18単位/日でコントロール可能となった.抗GAD抗体陽性でHLAは1型糖尿病感受性遺伝子であったが,その他の抗体は陰性で膵酵素上昇も認めなかった.インターフェロンなどの免疫系に作用する薬剤により1型糖尿病が誘発されたという報告はあるが,塩酸アプリンジンのような抗不整脈薬での報告はない.本症例は,抗不整脈薬により1型糖尿病が誘発された可能性が否定できない興味深い症例と考えられる.