2009 年 52 巻 1 号 p. 39-43
症例は58歳男性.1989年に糖尿病と糖尿病細小血管障害を診断された.また,遺伝子検査からミトコンドリア糖尿病と診断された.2002年にインスリン治療を開始後,血糖値は安定していたが,2003年4月末より突然早朝低血糖を頻発した.投与インスリン量の減量を行い低血糖は改善したが,その後,一日中高血糖状態が持続するようになった.インスリン注射量を増量したところ,再び早朝低血糖を起こし,その他の時間帯は高血糖が持続した.検査結果よりインスリン自己免疫症候群様のインスリン抗体の存在が判明した.投与インスリンの種類を変更したが血糖変動に変化はなく,また同時期より血液透析が開始されたがこれによる明らかな改善も認めなかった.内因性インスリン分泌が保たれているため,インスリン注射量を大幅に減量したところ,血糖変動は安定した.その後,現在まで1日約20単位のインスリンアスパルトの食前注射で血糖コントロールは安定している.インスリン治療後に産生されたインスリン抗体が急激な血糖コントロール悪化の原因と考えられた.