2009 年 52 巻 2 号 p. 117-122
症例は73歳,女性.20年前より糖尿病にて加療中にあった.2007年3月24日,低血糖による意識障害にて当科入院となる.血糖値34 mg/dl, 白血球数22,400/μl, CRP 9.75 mg/dlであった.意識回復後,左下腹部から大腿部にかけて自発痛を訴えたため,腹部X線を施行し,左恥骨部に骨融解像を認めた.骨盤部CT検査では,左内転筋群および腹直筋内を中心に多発するガス像を確認し,ガス産生筋膿瘍と診断.直ちに切開ドレナージ術を施行し,多量の膿を排出した.膿の培養検査から,E. coliが検出された.抗生剤の全身投与,インスリン注射による厳格な血糖のコントロールに努めた.その後,恥骨掻爬術を施行し,病理組織検査にて骨髄炎の所見を得た.恥骨骨髄炎を原発巣として,恥骨を起始部とする内転筋群および腹直筋に炎症が波及し,ガス産生壊疽に至ったと推察した.われわれは,恥骨骨髄炎に加え,左内転筋群および腹直筋ガス産生膿瘍を合併した2型糖尿病の稀な症例を経験し,その病態と進展に興味が持たれたため報告する.