2011 年 54 巻 11 号 p. 856-859
37歳,女性.学童期より時折腹痛を自覚していたが慢性胃炎と診断され放置.15歳で糖尿病を発症し,経口血糖降下薬にて加療するも血糖管理が不良で翌年インスリン療法導入.1999年(27歳)に転居のため当院に通院開始となり,スクリーニングで行った腹部超音波で膵石灰化を認めた.嗜好は機会飲酒.家族歴は祖母が膵癌と膵石症,母が膵炎,膵石症と糖尿病,母方叔母が膵石症,姉が膵炎と糖尿病であった.膵炎の濃厚な家族歴があることから,患者本人の同意を得て遺伝子検索を施行した.Cationic trypsinogen遺伝子について検査し,exon 2のcodon 29におけるアスパラギン酸(以下Asnと略す)からイソロイシン(以下Ileと略す)へのアミノ酸変異を認めたため,遺伝性膵炎と診断した.本邦でのN29I変異は現在までに4家系が報告されているのみである.糖尿病を発症した遺伝性膵炎について,文献的考察を加え報告する.