抄録
勃起不全(Erectile Dysfunction:以下EDと略す)治療薬であるシアリス®(タダラフィル)の偽薬により重篤な低血糖を来たした症例を経験したので報告する.症例は48歳男性.特に既往歴なし.2011年1月某日朝,冷汗とふらつきを主訴に当院救急外来を受診.意識レベルの低下と低血糖(27 mg/dl)を認め,ブドウ糖の点滴静注を施行するも低血糖が遷延したため入院となった.糖尿病の既往,インスリンやSU剤など血糖降下薬の使用は認められなかった.入院前夜患者はED治療薬のシアリス®を服用していたが,これは友人から譲渡された偽薬であることが判明した.高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:以下HPLCと略す)にて患者血中から高濃度のグリベンクラミドが同定され,患者の服用した偽造シアリス®にグリベンクラミドが混在していたと考えられた.全身に発疹も出現していたが,グリベンクラミドのDrug Lymphocyte Stimulation Test(以下DLSTと略す)が陽性であったことより,発疹の原因も偽薬中のグリベンクラミドと考えられた.2009年に,シンガポールより偽造シアリス®による死亡を含む重症低血糖の報告があるが,日本からはまだない.本邦でも注意を喚起する必要があると考え報告する.