1975 年 18 巻 2 号 p. 114-120
本邦では従来比較的稀とされていた糖尿病性壊疽の6症例を報告するとともに, 本邦報告243例について若干の文献的考察を試みた.
本症の臨床的特徴は,(1) 50歳以上の高齢者,(2) 罹病年数の長い症例,(3) 耐糖能およびコントロール不良例に多くみられること,(4) かなり進行した糖尿病性網膜症, 腎症などの細小血管症および虚血性心筋障害, 高血圧症などの動脈硬化性血管障害さらに糖尿病性神経障害の合併頻度が高いこと,(5) 誘因として火傷, 小外傷, 白癬症があげられること, 等々である. これらの諸因子は無論それぞれ独立したものではなく相互に関連し合って壊疽の発症, 進展に寄与するものである. すなわち本症の発症の基盤には四肢末端の細小血管症および中小動脈の動脈硬化症による血管障害性因子が最重要視されるが, 糖尿病性神経障害による影響も無視し得ず, さらに感染の合併も壊疽の発症, 進展を複雑に修餓する点重要である. したがって本症の発症機転および臨床的対策の根本的解決には, これら複雑に錯綜する諸因子が血管障害を中心として究明されねばならない.