1977 年 20 巻 2 号 p. 218-228
早朝の痙攣発作と意識障害を主訴として入院した60才男性で, 血清に抗体に由来すると思われるインスリン結合性を証明したが, 最終的に手術によりインスリノーマを確認し, 摘出後治癒した症例を経験した. 早朝空腹時の低血糖と血清インスリン高値があり, 各種インスリン分泌刺激試験では中等度の反応を示した. ポリエチレングリコール法, ゲル炉過法, 炉紙泳動法により血清に1251インスリン結合性のあることが認められた. 結合が非標識インスリンの添加で抑制されること, 抗ヒト免疫グロブリンによる沈降反応から, 血清中インスリン抗体の存在が示唆された. 諸種検討により, この結合は二抗体法による血中インスリンの測定にそれほど大きな影響は与えていないと推定された. 手術により膵尾部に直径約1.5cmの腺腫を見出し切除した. 腫瘍は毛細血管に富み, 特殊染色, 螢光抗体法により, B細胞と思われる細胞が散在することが示され, 電顕的にもB顆粒に似た結晶様構造を示す顆粒の存在がみとめられた. しかし大部分の細胞は無顆粒であった. 腫瘍のインスリン含量は2.6単位/gで正常膵部分4.6単位/gよりむしろ低かった. 術後低一血糖症状は消失し, 空腹時血中インスリン値は正常化し, 血清のインスリン結合性も消失した. インスリン結合性とインスリノーマとの相互関係は不明であるが, このような症例の存在はインスリン自己免疫症候群の診断上, あらたな問題を投げかけるものである.