1977 年 20 巻 6 号 p. 783-789
本邦におけるミオグロビン尿症の報告は少ないが, 最近低カリウム血症に由来すると考えられるミオグロビン尿症を経験した.症例は62才, 主婦, 3年前より糖尿病を発見され, glibenclamide 2.5mgでコントロールされていたが, 1976年6月末頃よりコントロール不良となり, 7月初旬急速に下肢脱力, 筋力低下が増強し, 入院した.体重は1ヵ月で10kg減少した.入院時意識清明であったが, 脱水所見が強く, 両下肢の自動運動は不可能であった.入院時血糖710mg/dlで, 尿中ケトン体は陰性であり, 血中滲透圧375mOs/mlと脱水に加えて電解質異常.即ち血清ナトリウム174mEq/l, カリウム1.9mEq/l, および心電図上では低カリウムの所見を呈した.さらに血清CPK3260wu/mlで, 尿は茶褐色で, ミオグロビン尿であった.入院後脱水, 電解質補正に努めたところ, 電解質の正常化につれて筋脱力は改善し, 入院第8病日には歩行可能となった.精査の結果原発性アルドステロン症は否定された.本症は梅雨明け頃の急激な気候の変化に対する気候馴化不良が糖尿病のコントロール悪化に重なり, 脱水および低リウム血症を生じ, それによるミオグロビン尿症が発生したと考えられ, これらについて考察した.糖尿病の経過中に脱水, および電解質異常を介したこのようなミオグ寮ビン尿症の発生する可能性があり, 今後注意されるべき病態と思われる.