抄録
1970年, 平田らの報告以来, インスリン自己免疫症候群の報告は20例に及んでいるが, 今回の報告例は, インスリン注射によることなく自発性にインスリン抗体を生じ, 低血糖発作を示した最年少の症例である.症例は8歳の女児で, 糖尿病の診断を受けたことがなく, インスリン注射の既往もなく, 家族に糖尿病者, 医療従事者もいない.昭和51年7月20日, 交通事故で頭部を打撲し, 日大板橋病院脳外科に2週間入院し, diphenyihydantoinなどの投薬を受けた.同年9月始めより空腹感を強く訴えるようになり, 9月24日早朝空腹時の意識消失発作が起こり, 日大板橋病院脳外科に再入院した。血糖値30mg/dl以下, ブドウ糖静注により軽快することが認められたため, インスリノーマが疑われ, 小児科に転科となった.発作は9日間続いた.血糖の日内変動で低血糖が認められ, ブドウ糖負荷試験では糖尿病型を示した.immuno reactive insuiinは高値であり, 膵組織を用いた間接螢光抗体法によりインスリン抗体が証明されたことから, インスリン自己免疫症候群の診断がなされた.低血糖発作後約1ヵ月の11月12日の空腹時血清のインスリン結合百分率は39.3%, 抽出総インスリンは620μU/ml, C-peptide immunoreactivityは5.2ng/mlと高く, インスリン抗体はIgGに属し, L鎖はkappa型が優位であった.昭和52年4月4日の空腹時血清では, インスリン結合百分率, 抽出総インスリソ, C-peptide immunoreactivityともに低値となり自然寛解を示していた.なおこの症例のhuman Ieucocyte antigenのBiocus antigenはB15, BW 54であった.