1980 年 23 巻 12 号 p. 1137-1145
末梢動脈閉塞症, 心筋梗塞を有する糖尿病患者でIII型高リポ蛋白血症を呈した症例を経験したので若干検討を加えて報告する.
患者は68歳, 男, 左下肢痛と間欠破行を主訴として来院した.約10年の糖尿病歴を有しており昭和46年前壁下壁梗塞の診断のもとに入院し糖尿病状態はアセトヘキサマイド500mg/日によりコントロールされた.しかしその後数回心不全状態となり入, 退院を繰り返している.昭和53年7月頃よりコントロール不良とな'りインスリン治療に切り換えたが上記主訴を認め昭和54年1月29日入院となった.入院時コレステロール303mg/dl, 中性脂肪393mg/dl, アガーロス電気泳動ではbroad beta bandが確認された.超遠心法による血清リポ蛋白分画の脂質組成ではVLDL-cholesterol 113mg/dl, VLDL-cholesterol/VLDL-triglyceride0.43, VLDL-cholesterol/total triglyceride 0.302とIII型高リポ蛋白血症の診断基準に合致した.カロリー制限食とインスリン治療によりリポ蛋白電気泳動縁はIII型よりIIb型に変化した.Postheparin lipolytic activityは肝性triglyceride lipase, 肝外性lipoprotein lipaseとも正常であった.
等電点ゲル電気泳動によるVLDL分画中のアポ蛋白EのIsoformではApoE-II/E-III ratioは0.74でUtermannらのApoE-NDに相当し家族性III型高リポ蛋白血症は否定的であったがこのような症例に食事または糖尿病など他疾患による負荷が加わるとIII型高リポ蛋白血症を呈するものと考えられた.