1982 年 25 巻 11 号 p. 1165-1170
S-S結合の還元作用を有するジチオスレイトール. (DTT) が, 細胞膜インスリン受容体の結合能にどう影響を及ぼすか検討した.
ラット肝細胞膜ではDTT濃度0.5 mMでインスリン結合率は21.3%増加し, これは親和性の上昇によるものであった. ラット脂肪細胞膜ではDTT濃度1.0 mMでインスリン結合率は107.2%もの著明な増加を示し, これも親和性の上昇によるものであった. 一方ラット赤血球膜, ヒト赤血球膜では, 共にDTT処理によるインスリン結合率の増加は認められず, DTT濃度にdose-dependentに結合率は減少し, これは親和性の低下によるものであった. このように, インスリン受容体結合能がDTT処理により変化し, さらにDTTによる影響が組織により異なっていた. DTTは細胞膜上のインスリン受容体構造に関与するS-S結合に作用していると考えられ, 従って, DTT処理によるインスリン結合能の組織による差異は, S-S結合を含めたインスリン受容体の構造, 性質の差異を反映している可能性が示された.'