抄録
糖尿病患者ではインスリン受容体数 (R0) の減少が認められ, インスリン感受性低下の一因となっている. このR0が遺伝的に規定されているのか, 糖尿病の代謝異常に由来するのか, 遺伝的要因が大きな役割を果していると考えられるインスリン非依存性糖尿病 (Type II糖尿病) において検討した.
対象は滋賀医科大学第三内科に通院する糖尿病患者のうち初めて診断をうけ未治療, または治療を中断放置後来院したコントロール不良患者で, これらの対象について赤血球インスリン結合を治療の前後で測定した.
インスリン結合親和性の上昇を示した症例 (Type H) 5例において, 1~2週の短期間インスリン治療後R0は変化を認めなかったが結合親和性 (Ke) は低下し, 有意にインスリン結合の低下を認めた. また, 16ヵ月より29ヵ月の長期にわたり経過観察可能であった11例のインスリン結合は, 治療後Keの低下傾向を認めR0は有意に増加しインスリン結合も上昇した.
以上, インスリン治療でKeはR0よりも早期に変動し低下することより, コントロール不良下での上昇したKeは糖尿病に認められるインスリン感受性低下に対する代償機転とも考えられる. また, 長期治療でR0の増加を認めたことよりType II糖尿病におけるR0の減少は遺伝的因子よりも代謝性因子によって規定されていることが示唆され, HbAIとR0の逆相関 (P<0.01) は代謝異常説を支持するものである. すなわち, 日本人のType II糖尿病におけるR0の減少はdown regulationよりも代謝性因子の関与が大と考えられた。