抄録
心拍変動に関与する自律神経機能の役割を検討するため, 健常者8名を対象に自律神経薬投与実験を行った.心拍数の変動は後藤の瞬時心拍数連続記録装置を用い, 心拍変動の指標としては安静仰臥位150心拍の標準偏差, 1分問6回の深呼吸を行いその最大変動幅の5つの平均値, 起立時の最大心拍増加数を用いた.3種の実験を行い投薬前後に実験 (1) では安静・深呼吸時の心拍変動のみ, 実験 (2),(3) では上記3つの心拍変動を記録した.実験丁: 生理食塩水投与時に比較して, Isoproterenol (Isop.) 0.66μg/分投与後安静・深呼吸時の心拍変動は減少した.実験 (2): Atropine (At.) 40μg/kg静注後安静・深呼吸時の心拍変動は消失するが起立時の心拍変動は減少するものの有意差はなく, At.+Propranolol (Prop.) 10mg静注後は起立時の反応も著減した.実験 (3): Prop.10mg単独投与では安静・深呼吸時の心拍変動は不変であるが, 起立時の心拍増加は有意に減少した.以上より, 呼吸性心拍変動には交感神経も関与するが, 安静仰臥位では副交感神経機能のみを反映している.起立時の心拍変動には交感・副交感神経両者が関係し, 特に交感神経機能が優位である, この方法を用いれば両神経系の障害を個別に診断できる.