1984 年 27 巻 8 号 p. 911-916
糖尿病の反射性心拍数調節障害において, 交感神経と迷走神経のいずれがより早期に障害されるかを検討するため, 反射性心拍反応を用いた各種自律神経機能検査をアトロピン投与前後で行った.
臨床上自律神経症状のない糖尿病患者15名 (DM群, 49±9歳) と健常者9名 (N群, 44±10歳) を対象とし, アトロピン0.04mg/kg投与前後で,(1) 圧反射 (BS),(2) Valsalva比 (VR),(3) ハンドグリップ負荷 (30%最大握力で3分間) による心拍数増加 (HG),(4) 深呼吸時の心拍数変動 (DR),(5) 60° 受動的tilt7分間による心拍数増加 (Tilt) を求めた.
各検査法の自律神経関与様式をみるため, アトロピン投与前を横軸に, 投与後を縦軸にグラフを作製し, 投与前後の関係より回帰直線を求めその傾きを迷走神経の関与程度の指標とした.傾きはBS 0.02, DR0.06, VR 0.25, HG 0.37, Tilt 0.52で, 前2方法は迷走神経を介する心拍反応を, 後2方法は迷走神経と交感神経を介する心拍反応を, VRはその中間型を示した.アトロピン投与前のDM群とN群の比較では, 8S, DR, VRはN群に比しDM群で有意な低下がみられた (それぞれp<0.01, p<0.001, p<0.01) がHG, Tiltでは両群間に差はなかった。アトロピン投与後の比較では, いずれの検査法も両群間に有意差はみられなかった.
以上より, 糖尿病の反射性心拍数調節障害では, 交感神経障害に比し迷走神経障害がより早期に出現すると考えられる.