1988 年 31 巻 3 号 p. 199-208
糖尿病における高脂血症, 特に高LDL血症の病因病態を研究する目的で, 培養線維芽細胞を用い, LDL代謝経路に及ぼすインスリン作用を細胞周期および糖代謝と関連させて検討した. インスリンは2時間よりLDL受容体を増加させ, 50%最大効果は2.5ng/ml以下で観察された. この50%最大効果出現濃度はインスリンのブドウ糖取り込み促進作川の濃度とほぼ一致し, DNA合成促進では100ng/mlと40倍以上必要とした。
インスリンの作用と細胞用期との関連を知るため, ヒドロキシ尿素を用いて細胞周期を同調させ, G1期 (DNA合成準備期) およびS期 (DNA合成期) について, インスリンの作用を検討した. インスリンのLDL代謝経路促進作川は, 主にG1期にみられ, S期には認めなかった. インスリンの細胞内ブドウ糖取り込み促進作用についても同様であった.
これらの結果は, インスリンが生理的にもLDL代謝をLDL受容体の増加を介して調節していることを示唆しており, このインスリン作川の不足が, 糖尿病における過血糖のみならず, 高LDL血症の出現にも, 関与しているものと考えられる. また, これらのインスリン作用が, S期には発現せず, G1期では発現することは, インスリン作用機序解明上興味ある知見と考えられる.