1989 年 32 巻 4 号 p. 257-265
近親婚の両親より出生した23歳, 27歳のインスリン受容体異常症の姉妹例の妹より得られた培養リンパ球, 線維芽細胞を用い, インスリン抵抗性の機序の解明を行った.インスリン結合は各々, 正常の20%, 27%と著明に減少し, 受容体親和性の低下がその原因であった.患者インスリン受容体のαサブユニットの分子量は, インスリン受容体前駆体に一致する210 KDの分子量を示し, 正常のαサブユニットは認めなかった.一方, IGF-I受容体は正常であった.本インスリン受容体自己燐酸化能の検索では, インスリン結合の低下に比例したATPの取り込みを認めた.線維芽細胞でのαアミノイソブチル酸の取り込みは, インスリン結合の低下を反映し, 容量反応曲線の右方偏位を示した.このインスリン受容体蛋白に0.025%のトリプシン処理を行うと, インスリン結合, 自己燐酸化, およびαアミノイソブチル酸の取り込みはすべて正常化した.本症例のインスリン抵抗性は, 本受容体蛋白が前駆体のままであり, その切断障害が原因であることが示された.