1990 年 33 巻 6 号 p. 441-446
血中インスリン抗体 (抗体) のインスリン (イ) 動態に及ぼす影響を検討した. 12人の糖尿病患者に早朝空腹時速効型イを急速静注し, 125I-モノヨードイ結合率 (結合率), 総イ, 遊離イおよび血糖の動きを観察した. 抗体保有患者においては結合率はイ注射直後で最低値を示し, 120分までにはほぼ前値に復帰していた. 総イと結合イは注射直後最大値を示した. 抗体保有糖尿病患者と非保有糖尿病患者で遊離イを比較すると, 前者では注射早期の血中上昇率が低く, 遅れて高イ血症を示した. コンピュータプログラムで計算した総イ血中半減期は40.2±5.1分 (0.1U/kg注射時), 65.5±13.3分 (0.04U/kg注射時) で, 対照より明らかな延長を認めた.
以上より, 静注されたイは速やかに抗体に結合するが, それはすぐにゆっくりと解離を始める. このため抗体のない場合より遅れて高イ血症や低血糖を起こす可能性がある.